一卵性双生児αの世界。

第1話 お見合い。

 俺達は男同士の一卵性双生児。

 愛し合う一卵性双生児。


 一卵性双生児でありながら、お互いを番だと思っていた。


 けれど、弟はΩ化しなかった。

 当然だ、身内にはフェロモンが作用しない、しかも近親ではカビも作用し生殖率はほぼ0となる。


 俺達は秘密を抱えたまま、仲の良い男αの一卵性双生児として過ごしていた。


 けれど、互いに欲は募る。

 お互いに慰め合い、お互いを求めながらも、決して転嫁する事は無かった。


 そうして成人が過ぎた頃。


「お見合いをしなさい」


 成人を迎えて尚、相手の気配らしきものが無い俺達に、親は見合いを促した。

 コレは義務、仕方の無い事。


『分かった』

《仕方無いよね、子を成す事も1つの義務だし》

「表立って義務では無いわ、けれどね、アナタ達はαだから」


 絶対的な義務ではな無い、けれどもαともなれば子を成して当然だ、との暗黙の了解の上に誰もが人生を進める事になる。


 もし相手が居ないのなら、どんな問題を抱えているのか、と。

 仕事は勿論、役職すらも上がり難くなってしまう。


 その理由も分かる、αとてαで居続けるられるのは相手が決まっている場合のみ。

 αからΩになるリスクが存在している限り、αの支配下に置かれるリスクを避ける為にも、重要な仕事を任される事は無い。


 αは、とても不自由だ。

 短期睡眠が確約された、ただの人、少し生殖能力の高い人間。


 けれども、実際にカビの影響分類の差は有る。


 Σからは滅多に優秀だとされる者は出ない。

 母数が少ない事は勿論、圧倒的に活動可能な時間が少ないからだ。


 そして母数の多いβは、職業選択の自由が有る事から、専門家になる者は少ない。


 既に安定した社会制度の中、金銭を得る為に研究する者が居ないからだ。

 家庭を大事にし、趣味にも時間を費やす、そうした事から自然とβに優秀な者は現れ難くなった。


 そしてαは、期待も乗せられてか伸びる者は多い。

 ΩはΣの庇護も得る事でより安定する、その事からも、他よりも時間が余るからだ。


 そんな中でΩにも名が広まる者も居るが、それこそ番の居るだろうΩのみ。


 女性Ωの発情周期は1ヶ月。

 定期的に訪れる発作の強弱は様々だが、アレが毎月はさぞ足枷になるだろう、と。


《僕、別に死別Ωでも良いかなって》

『だな』

「もう、アナタ達がαの割にそうした事に興味が無さそうなのは分かるけど、相性も有るのだから」

「出来るなら、分類無しに好める者にしなさい、お相手の為にもだ」


《うん》

『勿論』


 両親はβだ。

 この激情を知らぬ、平穏なβ。


 単に遺伝子上の相性が良いからと、発情を促される身にも。


 いや、知らないからこそ穏やかに生きられるのだと思う。

 知らないからこそ、平穏な家庭だと思っているのだから。


《じゃあ、先ずはココで》

『だな』


 離縁者専用お見合い業者。

 βも含まれているだろうけれど、俺達の影響を受ければ、βもΩ化するかも知れない。


 なら、共有すれば良い。

 妊娠し続けてくれれば、その間に俺達の邪魔はされなくなる。


 面倒は1つで良い、一卵性双生児の俺達だからこそ、親も理解してくれるだろう。

 いや、理解させる。




《あー、凄い、Σだ》

『あぁ、匂うな』


 近寄ると、凄い悪臭と嫌悪感、それに鳥肌が全身に。

 ココの安全性は確か、凄いな、貴重なΣを配置するなんて。


「少し、宜しいですか」


 離縁者なのか、非離縁者なのかは明示されてはいないけれど。

 彼女は、誰かを亡くしただろう憐憫を漂わせる女性だった。


《僕は良いけど》

『どちらをご指名ですかね』

「両方は、ダメかしらね」


 あぁ、彼女はαだ。


《どうする?》

『任せる』


《じゃあ、少しだけ》

「ありがとうございます」




 私には、嘗て一卵性双生児の姉が居た。

 愛し合う一卵性双生児。


 一卵性双生児でありながら、お互いを番だと思っていた。


 けれど、私はΩ化しなかった。

 当然だ、身内にはフェロモンが作用しない、しかも近親ではカビも作用し生殖率はほぼ0となる。


 私達は秘密を抱えたまま、仲の良い女αの一卵性双生児として過ごしていた。


 けれど、互いに欲は募る。

 お互いに慰め合い、お互いを求めながらも、決して転嫁する事は無かった。


 そうして成人が過ぎた頃。


 《お見合いをなさい》


 賢い姉は、自死した。

 私を残して、姉は海へと消えてしまった。


 他の誰かの子を孕むなど、私にも耐えられない。

 そう思ったのに、姉は私と共に死を選んではくれなかった。


 岬に置かれた靴と遺書、そして遺髪。

 姉は、それだけを残し逝ってしまった。


 私は姉を恨んだ、憎んだ。


 だからこそ、この身を汚し、同じ顔の私が苦しむ様を地獄から眺め続ければ良い。

 そう思い、こうして離縁者の集うお見合い会場へと赴いた。


 私の様に、離縁者でも構わないと思う相手も来ている為。

 誰が離縁者なのかは分からない。


 けれど、そこに異質な存在を見付けた。


 嘗て私が、私達がそうだった様に、同じ顔を愛する者を見付けた。

 初めて、同類を見付けた。


 敢えて探した事は無いけれど、きっと何処かには居るだろう、と。


 もっと真剣に探せば良かったのかも知れない、そうすればきっと姉は。

 いえ、今だからこそ彼らを相手として捕らえる事に嫌悪が無いだけ。


 きっと私達は、一緒に居続ける限り、誰も受け入れられなかった筈なのだから。


「少し、宜しいですか」

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