第11話 佐藤 清。

『全く!君は国が定めた後見人になった自覚は有るのか!』

「はい、すみません」

《あ、違うんです、私が相談せずに》


『良いんですよ、アナタはまだ未成年だ。相談して貰える様に彼が配慮しなかった、そんな彼を配置したコチラのミスです、大変、申し訳御座いませんでした』


《あの、いえ》

『ほら!お前もしっかり謝るんだよ!』

「申し訳御座いませんでした!」


《違うんです、本当に》

『担当を代えさせて頂きますので、何かご希望は御座いますか?』


《いえ、特に》

『いえいえ、遠慮無く仰って頂いて構わないんですよ、彼は所詮はβなんですから』


《違うんです本当に、この方には何の落ち度も》

『お気になさらず、大事な国の宝を守れない様な者にはアナタを任せられません。ゴミでも仕分けしてろこのグズが』

「申し訳御座いませんでした」


《あ、そんな》

『良いんですよ、どうせ大した生殖率でも無いんですから、些末な事をさせるには十分ですから。クビにならないだけ、マシ、ですからね』

「はい、申し訳御座いませんでした!」


《違うんです!あの、お願いです、担当を変えないで下さい》


『良いんですか、こんなグズでのろまのβで』

《はい、コレは本当に私が暴走した結果なんです、彼に過失は無いんです》


『だとしても、いえ、分かりました。暫くは担当を変えませんが、何か有れば、直ぐにも仰って下さい。今度は彼のクビだけでは収まりませんので、どうか、直ぐにも、問題と思う前にご相談頂けますでしょうか』

《はい、勿論、ご相談させて頂きます》


『分かりました、では。もう、2度と失敗しないでくれたまえよ』

「はい」


《ごめんなさい、私のせいで》

「いえ、彼はアナタの為を思っての事なんです。どうか自信を無くさないで下さい、アナタは国に貢献出来る、僕とは違う存在なんですから」


《そんな事を言ったらダメです、例えβでも》

「繁殖率については事実ですし、しかも、こうして相談して頂けなかったんですから」


《それは、だから》

「いえ、出来るだけ、他の担当も交えて交流させて頂きますので」


《でも、アレはモラハラやパワハラで》

「いつもは良い人なんです、本当に、僕が頼りないから」


《本当に、ちゃんと相談します、だから》

「ありがとうございます。今はゆっくり休んで下さい」


《うん、ごめんなさい、ありがとうございました》

「いえ、では」


 彼女の傷は、幸いにも軽症、後も残らない。

 貴重な番無しのΩ、しかも若くて健康で、両親が居ない。


『おう、すまんかったな、大丈夫か』

「大丈夫ですよ、あの位、気にしないで下さい。コレも仕事なんですから」


『はぁ、俺の身にもなってくれよ』

「追々で」


『全く、ほら、先ずは手を洗って冷やさせろ』

「ありがとうございます、先輩」


 子供は自分勝手で身勝手で、浅はかで愚かだ。

 しかも親が居ないとなれば、尚更。


 彼女には立派な大人になって貰わなくてはならない、その為には新たに枷が、荷重が必要となる。

 その為にも、後見人は支援をする立場。


 安全に多く子を成せるんですから是が非でも増やして頂かなければならない、そして成すだけでは無く、育てて頂かなければ。


 施設での養育も確かに有りますが、そこにも必ずデメリットが存在する。

 より良き親となり、より良き子を産み育て頂く事を支援するのが、役所の勤め。


『ほら』

「過保護ですね、ありがとうございます」


『具合が悪くなったら言うんだぞ』

「はい」


 さぁ、彼女をどう育てましょうね。




『えっ、結婚?』

「うん」

《えっ、でも、興味が無いって》


「うん、けど出来たから」


《出来たって、赤ちゃん?》

「ううん、エッチ」


『マリモ君、相手に騙されてるとかは』

「大丈夫、顔合わせもしたし」

《あ、それなら、まぁ、大丈夫か》


「ココに住むんだけど、ココで結婚式をしようと思って、来てくれる?」

《良いの?外の友達は?》


「呼ぶ程の人は居ないし、向こうでは披露宴?だけするから」

《あ、え?友達居ないの?》


「居るには居るけど、根掘り葉掘り聞かれそうで面倒だから、だから披露宴だけなんだよね」


《究極の面倒臭がりな気がしてきた》


「多分、そうだと思う」

《良く私達と過ごせるね?》


「だって、ちゃんとした友達だし、嫌?」

《ううん、嬉しい、良かった。面倒臭がられたら流石に悲しいし》

『でも、完全に面倒だって思う前に言ってね?』


「うん、勿論」


 多分だけど、彼の面倒臭いって思う程の事って、相当の事なんだと思う。

 僕らが面倒だと思った相手の担当になっても、悪口は勿論、絶対に愚痴すら言わないし。


 新しい職場の子供達の事も、本当に良い事しか言わない。


 多分、例の嫌われた子って、本当に相当だったんだと思う。

 凄いな、何をして、何をされたんだろ。


《あ、礼服無いんだった》

『確かに、必要無いって言われてたし、後で揃えればって』

「それ、親に相談した方が良いみたい、一緒に選びたいんだって。大きくなると特別な服って中々着せられないし、選べないから」


《あー》

『特に女の子はそうかも知れませんね』

「うん、相手の親御さんに力説された」


《良い人なんだね》

「うん、凄く、頭良くて優しいんだ。料理下手だけど」

『あぁ、気が合いそうですね』


「うん。あ、母さんがコーンスープ喜んでくれたよ、ありがとう」

《いえいえ、どんどん簡単な料理教えるけど、どうする?》


「うん、相手が具合が悪くなったら困るし、もしかしたら子供が出来るかもだし」

《そうだね、程々に頑張ろう》


「おー」


 今まで、あまり因子の強さを気にした事は無いけれど。

 多分、やっぱり彼はΣ因子が強いんだと思う。


 でも、折角相手が居るなら、子供が出来て欲しいな。




『改めて、宜しくお願いします、小泉カナエです』

《陽川です》

『星野です、宜しくお願いしますね』

「あ、付き合うってどうなったの?」


《今?!》

『忘れてくれて無かったんだ』

「うん」

『あぁ、例の』


《いやー、あははは》

『まだ口説いてる最中なんですよ』

『成程』

「そっかー」


《マリモ君さぁ、ワザと?》

「ごめん、ちょっと本気で忘れてた」

『すみません、いつもこんな感じで大変かと』

『いえいえ、寧ろ助かってますので問題無いですよ』


『コチラも料理を教えて頂いて、助かってます、本当に危なっかしいので』

《ですよねぇ、本当》

「たこ焼きもお好み焼きも出来るんだけどなぁ」

『下準備から?』


「ううん」

《でしょうねぇ》

『あの、その、お腹って』

『はい、3ヶ月になります』


 あれ?

 結婚するって報告と、殆ど同じ?


 いや、寧ろ、結婚式前の2回目に外出した時と。


『陽川さん、計算しない』

《あ、ごめんごめん》

「そうそう、2回目の外出の時だよ」

『ちょっ』


「ふふ、毎日してたから、いつの子かまでは分からないけどね」

『すみません、生々しい事を』

《あ、いえいえ》

『でも、凄い、そうなんですね、おめでとうございます』


『ありがとうございます』


 Σ因子が強そうなマリモ君に、赤ちゃんが。


 凄い。

 良いな、羨ましい。


 私、Σ女だからなぁ。


 だから星野君の事は受け入れられないのって、逆に、カビの影響分類に左右されてる気がして嫌なんだけど。

 でもやっぱり、可能性が高い相手の方が、お互いに辛い思いをしないで済むだろうし。


 友達のままの方が、別れる、とかが無いんだし良いと思うんだけど。


「で、何でダメなの?」

《急にコッチに振る》

『人は良さそうですよね』

『良く言われます』


 付き合ったりした事も有るけど、私が嫉妬しなさ過ぎて嫌になった、って言われたり。

 やっぱり生殖率が、って。


 そこも分かってて好きって言ってくれるのは、嬉しいんだけど。


 だからこそ、他の、もっと可能性が高い人と結婚して。

 子供を産んで欲しいな、って。


「やっぱり、子供の事?」

《うん、星野君が良い人だからこそ余計に、可能性が高い人と一緒になって欲しいなって思うんだよね》


『成程、つまりは星野君に悪人になって欲しいワケですね』

『成程、それは盲点でした、ありがとうございます』

《いやそう言うワケじゃなくて》

「だから期限を決めて試してみたら良いのに、お互いの為に、星野君はこのまま諦めるのとどっちが良い?」


『勿論試したいです』

《でもさぁ、そうしたら友達に戻れないじゃん?》

「なら諦める為にも、友達止めた方が良いよね」


『ですね』

《それは、そうだけど》

「ココでも外でも良いから全力で探してみて、その間に諦めるかもだよね?」


『はい、僕頑張ってみます』

「うん、程々に頑張って」


 理屈は分かるし、正しいと思うんだけど。

 すっごいモヤモヤするぅ。




『良かったね、このままなら上手くいきそうだよ』

「本当に?あ、信じてないワケじゃないんだけど、要君の言う通りになるのか不安で」


『大丈夫、彼に悪知恵も貸しておいたから』

「あ、そうなんだ、どんな事?」


『婚約の申し込み証、出来るか試しながら他を探す条件、って事にして』

「あー、探すフリでも良いんだもんね」


『そうそう、それでもダメなら本当に無理なんだって、諦められるだろうし』


「要君は、僕が無理って言ったらどうしてた?」


『多分、断られない確信が有ったのかもね』

「本能で?」


『ううん、だって護ちゃん、凄い分かり易いんだもん。優しくて賢くて生き物が大好きで、少し生きるのが下手で純粋で、自分に無頓着だけど食べるのは嫌いじゃない。知りたがりで努力家で、だからこそ時間が足りないから優先順位がハッキリしてて、エッチ』


「最後の、どうやって分かるの?」

『人相学、人誑しでエロい人の顔してるんだよ護ちゃん』


「人相学ってそんなに凄いんだ」

『ピュアだなぁ』


「あ、嘘なの?」

『どっちが良い?』


「良いもん、調べるから」

『ダメ、来週から真琴さんの相手でしょ?ダメ、俺の相手だけして』


「今でも本当に嫌じゃない?」

『幸福のお裾分け、出来るかどうかは神様とカビ次第、カビと神様に選ばれたなら俺は文句を言えないもの』


「仲良く出来る?」

『勿論、護ちゃんって言う共通の趣味が有るしね、意外とココは小さくならなかったし』


「不思議だよね、何か、目の錯覚かって感じだし」

『元が大きいとこうらしいよ』


「本当に?」

『確かめる方法は?』


「未だ仲裁に行く機会が無いからなぁ」

『有っても服を着てると思うけど』


「だよねぇ」


『好き?』

「死なれたら泣く位には好き」


『セロリと俺』


「要君」

『間が有った』


「冗談だよ、ふふ、愛してる愛してる」

『軽いからもっと言ってくれないと』


「愛してるよ、赤ちゃんも要君も」


 本当は、量も重さも関係無い。

 俺は質の良い愛を貰えているんだから、量も重さもだなんてあまりにも欲張りだ。


 そんな事を気にするより、全てを記憶し、常に噛み締め咀嚼し続ける方が良い。

 心配よりも今を大切に、触れて、話して記憶する。


 染み込ませ、馴染ませる。

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