第12話 次へ。

《出来た》


「本当だ、凄い。悪阻は?何か体調の変化は?」

《無いんだなぁコレが》


「そっか、馴染みが良い子なんだね、よしよし」


 Ω化、とまでは数値は上がらなかったけれど、護ちゃんが頑張ってくれたお陰で。

 それと、佐々木君のご家族のお陰で妊娠が叶った。


 護ちゃんの子、Σの子。


 紅葉さんの旦那さんの発情にドア越しに巻き込んで貰ったけど、本当にとんでも無かった、そらβもΩ化しますわって位に私は影響された。

 けど護ちゃんだけは平常心で、それがまた逆に燃えて萌えて、多分彼にはドSの才能が有ると思う。


 妊娠したからこそなのか、もう全然、佐々木君に嫉妬心が湧かない。


 年下だけど経産婦としては先輩になるし、本来の体を変化させてまで産む、その覚悟がもう。

 現在、彼はゲロゲロ期、護ちゃんはココには所用を済ませるついでに寄ってくれただけ。


《コッチは大丈夫、早く要君の所に戻ってあげて》


 私は今、小泉家で世話になっている。

 紅葉さんから落ち着ける場所に移動しろと助言され、コレ。


「本当にココで大丈夫?」

《翼ちゃん地方だし、もう隣は違う人なんだし》


「お姉ちゃんとお母さん、煩くない?」

《無い無い、寧ろ護ちゃんにだけ煩いんだよ》


「僕の信用が無いのかぁ」

《そうそう》


「嬉しい?」

《勿論、けどまだ実感が無くてふわふわしてるけど、嬉しいよ》


「ごめんね、社交辞令だと思ってて」

《半分はそう言ってたし、はいはい、ゲロゲロカエルを落ち着かせてあげて》


「うん、ごめんね、またね」

《うん、じゃあね》


 要君には直ぐに特区に来ても良いって言われたけど、彼がΩ化したからこそ、私がこうして妊娠する機会を与えられたんだと思っている。

 確かにΣはαやΩの影響を受けない、けれどΣ同士ならどうか。


 護ちゃんの同期生は、要君と良く関わったからか、部屋が近いからかΣ同士で妊娠した。

 今は結婚して、特区の中でそのまま同じ部屋に住んでいるらしい。


 Σが増えると言う事は、それだけ子孫繁栄していると言う事。

 そうしてΣ同士が近付き、影響し合う、それがきっとΣが安全に子を成せると思える条件の1つになる。


 数が少ないからこそ分散させていた、けれどそれは逆効果。

 Σを集中させれば繁殖が可能となり、Σの居ない地区にはΣが発生する。


 そうしてまた集め、適時分散させていけば、確実に安定する。


 αと真逆の存在だからこそ、最初から思い当たるべきだった。

 けれど、人の視野は狭い、どんなに賢い者が集まっても時には盲点が発生する。


 しかも私は素人だ。

 単なる獣医、単なるβ。


 この私の想定は、何処にも出す気は無い。

 もし何かが何処かへ漏れたら、私は勿論護ちゃんも、子も危うくなるかも知れない。


 これは国がいつか気付き、研究者が証明すべき事。

 国の為を思う気持ちは有るけれど、自分達の身の安全が1番だ。


《あら、もう帰っちゃったの護》

《はい、出来た報告もしたので返しました、ゲロゲロカエルに》


《まぁ、まぁまぁまぁ、あぁ、どうしましょう、4人の孫に囲まれるのね》

《はい、予定では》


《大丈夫、私もおばあちゃんも目は悪いけど丈夫だったから。大丈夫、アナタはココに産まれて来ても大丈夫、ココは安全よ》


 翼ちゃんにも、実は既に番が居る。

 ただ護ちゃんは未だに苦手で、思い出している時が分かる程に顔に出るので、言えないまま。


 護ちゃんのお母さんとは連絡を取り合ってるし、いつか言う時期が来ると思う。

 けど護ちゃんが受け入れるかは別、そこは既に分かってくれてると思う、向こうも子供が居るんだし。


 あぁ、居るんだ、赤ちゃん。




《コチラが検査結果です》


「Σ因子の変化は無し、か」

『でも、ホルモンは安定しているわね』

《はい、妊娠継続率も上昇しています》


「Σの繁殖についての論文の数は、幾つだ」

《こうした仮説を立てている論文の数は、コレで2桁に到達致しました》


「やっと、Σの分散が却って数を減らす事になると気付いた者が2桁になったか、まだまだだな」


『αの真逆、と考えれば確かに直ぐに思い付いたかも知れないけれど、専門家だからこそ難しいのでしょう。Σのα因子の含有量が極端に低いのは、Σ因子に排除する性質が有る、との定説が主流だったのだもの。真逆と言うよりは反発し合う存在、関連させて考えるのは寧ろ難しい事なのでしょう』


「特効薬への道は遠いな」

『急いでは却って遠回りしてしまいます、着実に、ゆっくり進めましょう』


《例の元α個体は、どう致しましょうか》


「あぁ、両親殺害疑惑の有る女α、現Ωか」

『この子ね、仕方無いと思うわ、未だにα至上主義の親に育てられていたのだもの。許しましょう、組織への貢献を持ってして、償って貰いましょう』


「そうだな。愛しい人、僕の選択は許されるんだろうか」

『勿論、アナタの秘密も何もかも、全てを許します』


《では、失礼致します》




 結局、僕は要君程の愛が湧き立たないまま、半ばハーレムの様な生活を続けている。

 特区には要君、外には真琴さん、子供達は今日実家で真琴さんにお世話されている。


 本当に良いんだろうか、カビの恩恵を受けているだけの働かない蟻が、2人の相手と4人の子供を持つだなんて。


「何か、いつか天罰が下りそう」


『幸せ過ぎて不安?』

「うん、身に余ってるから不安。僕はただ、カビの恩恵を活用してるだけなのに」


『研究や発明だけが全てじゃないんだよ、皆が其々に出来る事を程々に頑張るのが1番。無茶をすれば皺寄せが何処かに発生する、それを後から修正するには手間暇が掛かる、コレで良いんだよ』


「君は頭が良いから不安、身に余ってる」

『そう理解出来る君も賢いよ』


「長生きで嬉しいけど不安」

『俺に死なれたく無いんだね』


「うん、僕と一緒に寿命を迎えて欲しい」

『ふふふ、ありがとう、そうなれる様に気を付けるね』


「料理も出来るのはズルい」

『君よりも時間が有ったからね』


「あ、今日は何を食べようか」

『護ちゃんを食べてから考える』


「もう、本当に寿命が縮むよ?」

『違うよ、今度は君が俺に食べられる番になるの』


「あぁ、じゃあ準備しないと」

『してあげるから任せて』


「何でも出来る」

『何でもじゃないよ、練習した事だけ』


「成程、つまりは練習したんだ」

『勿論、今日はピザにしよう』


「好きだねピザ」

『君もね』


 幸せだけど、不安で堪らない。

 だってもう、どうやって要君無しで生きてたか、思い出せないんだから。

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