第3話 佐々木 要。
『じゃ、帰るわ』
「あんだけピザ食ったのに、カレー食べれるの?」
『アレはオヤツじゃん』
「代謝高いの、良いんだか悪いんだか」
『燃費も悪いからね、じゃあね護ちゃん』
「うん、また来週」
佐々木君と動画を見続けてしまった。
だって、田舎の映像で、ホタルが綺麗で。
お祭りが凄く楽しそうで、つい。
まぁ、引っ越しまではまだ有るし。
そもそも荷物も少ないし、さっき見た時は家具付きぽかったし。
どうしてたんだろ、昔の人、本とか家具とか運んでたのかな。
いや、まだ真琴さんと会うには時間が有るし、引っ越し用に片付けとこ。
出さないとな、春物とか夏物も。
このままだとお腹が減りそうに無いし。
《ん?もう良いのか?》
「遅くにピザ、食べちゃって」
《あぁ、食わずに調べ物をしてたんだな、悪い子だな護ちゃんは》
「はーい、ごめんなさい」
《そう言えば、隣には?》
「あぁ、翼ちゃんには、言った方が良いですかね?」
《あの子はアレだけど、ご両親は良い方なんだし、一応は言っておいた方が良いんじゃないかな》
「じゃあ、親と挨拶にいきます」
《一緒に行ってやろうか?》
「何か、逆に時間が掛かりそうなので止めておきます」
《そんなに苦手か》
「まぁ、嫌われてるっぽいですし、ですね」
私のライバルとも言える隣人で幼馴染の翼ちゃんは、多分、αだ。
思春期特有の好き除けかとも思ったけど、凄い顔して拒絶されたと聞いたし、コレは心配しなくて済むな。
うん、助かる。
《帰ったら片付けか?手伝うよ》
「いえ、お風呂入って寝ます、明日と明後日に片付けすれば多分平気かと」
《相変わらず物が無いんだねぇ、手伝わせてよ》
「何もあげませんよ?」
《どうせ食事を抜くだろ?》
「ピザ、有りますし」
《野菜はどうする》
「野菜は買ってあったんで食べますけど」
《まーた、ウサギみたいにポリポリ食べるんだろうに》
「アレが1番美味しいんです」
《ウサギちゃん》
「食い意地っぱり」
《お、セロリだけ奪って帰るか》
「食べないくせに」
《動物達の食事にするから問題無い》
「心配しないでも大丈夫ですって、それより自分の時間を大切にして下さいよ、そろそろ婚期ギリギリですよね?」
《それはほら、護ちゃんが居るし》
「はいはい、ご馳走様でした」
《明日は暑くなるらしいから、アイスを買って帰ろう、護ちゃん》
「あ、そうなんだ、洗濯日和になりそうですね」
《そうそう、ご馳走様、行こうか》
「はーい」
素直で穏やかで優しくて、可愛いし。
可愛い。
もし、潜在的なΩが居たなら護ちゃんだと思ったけど。
真逆のΣ。
さ、どうすれば私も隔離区域で生きられるか、改めて方法を探すかな。
『ちょっと、何で急に引っ越しなんて』
「ちょっと事情が会って」
《まぁまぁ、ごめんね翼ちゃん、ご両親に宜しくね》
『そんな、真琴さん』
「お邪魔しました」
《ごめんね、じゃ》
私はα、α同士だから護の事が好きなのに、どうしても受け入れられないんだって思ってたのに。
急に行き先も言えないで引っ越すなんて。
そんなの、まるでΣじゃない。
珍しいΣが、αのカウンターって言われてるΣが、護だなんて。
『待ってよ!』
「何?」
『何処に』
「関係無いでしょ?近寄るなって言ってたんだし、問題無くない?」
『それは、私の』
「それ、僕には分かんないし、だとしてもあそこまで言われたの翼ちゃんだけだし。佐々木君って知ってる?彼は優しいよ、翼ちゃんと違って、だから僕も君の事はもう忘れてたんだけど。真琴さんが挨拶しろって言うから来ただけで、ご両親には母さんから改めて挨拶させるからもう良いよ、じゃあね」
『待ってよ』
「僕が待ってって言って待ってくれた?」
αなら、分かってくれると思ってたのに。
Σだなんて、αの効力が効かないΣ、女に囲まれるΣ。
『そう、良かったわね、ハーレムで』
「君ならそう思うんだ、そう、じゃあね」
違う。
違う違う、どうして分かってくれないの。
私がαで、護もαだと思ってたから、だから避けてても分かってくれると思ってたのに。
何でΣなの。
護がαで、私がΩ化して、子供をいっぱい作って。
それで、幸せになれるって思ってたのに。
運命の番だって、思ってたのに。
どうして。
《翼ちゃん、上手く言えないなら手紙とかどう、そこは護のご両親も教えられると思うよ》
『真琴さん、私』
《まぁまぁ、まだ思春期っちゃ思春期なんだし、仕方無いと言えば仕方が無いんだし。先ずは手紙に書いてみな》
『うん、はい、ありがとうございます』
《うん、じゃあね》
その日のウチに、護は引っ越してしまった。
それから数日後、手紙を出したくて書いたけれど、護の実家から転送される事に。
結局は居場所も分からないし、読んで貰えるかも分からなくて、会いたくて堪らないのに。
会うと、きっとまた、嫌味を言ってしまう筈。
言いたくないのに、つい、αの特性から忌避感が湧き出ちゃう。
抑えたいのに、抑えられない。
私はβから生まれたα、お爺ちゃんとおばあちゃんの為にも、お母さん達の為にもいっぱい子供を産むべきで。
だから、その相手は護が良いって思ってたのに。
《翼、そろそろ卒業なのだし、お見合いの準備をしましょうね》
「そうだな、護君も引っ越してしまったのだし」
今までは、護を言い訳に出来てたのに。
もう、護は居ない。
私は、今度こそ本能に振り回されて、好きでも無い相手を好きになって。
孕む。
丈夫なαだからこそ、相手は選べる筈なのに。
きっと、次もαが生まれて欲しい親は、きっとαを宛がう筈。
その組み合わせなら、生殖率が最も高い組み合わせだから。
どうして、私はαなんだろ。
せめてβが良かった、ならきっと、相手がΣでも。
いえ、多分無理。
相手がΣなら、私はどう足掻いても無理なんだ、この親が居る限り。
『少しだけ、もう少しだけ考えさせて下さい、お母さん、お父さん。αでも、出産で命を落とす場合が有りますから』
《そう、ね》
「あぁ、そうだが、お前はαとして選ばれたも同然なんだ。国の為だけでは無く、全人類の為にも……」
お見合いまでに、どうやってこの母親と父親を殺そう。
私はα、有能なαなんだから。
大丈夫、バレずに出来る筈、参考に出来る資料はネットに沢山有るんだし。
大丈夫、愛が有れば何でも出来るんだから。
大丈夫、私はαなんだから。
「宜しくお願いします、小泉マリモと申します」
偽名まで使うだなんて知ったのは、管理区域に入ってから。
まぁ、偽名って言っても字を変えたり、少し読み方を変えたりって程度なんだけど。
追い掛けて来る人、恨みを買ってた人の為の制度で、実害に関係無く一律でこうらしい。
中で恨みを買う場合も有るからって、最初は怖かったけど、こうしてからは事件は無いらしい。
ちゃんと規則を守れれば、なんだけど。
『宜しくね、僕は星野トウヤ』
《私は
コレ、偽名なんだよなぁ。
『では、今年の新人は以上ですが、偶に途中から来る方もおられますから。頑張って下さい』
『はい』
「はい」
《あの、質問しても大丈夫でしょうか》
『モノによりますが、どうぞ』
《全国でも、そうした人員配置なんでしょうか》
確かに、Σって少ないし、そもそもΣの割合って探しても見付けられ無かったし。
『あまり気にして頂きたくは無いんですが、そうですね、では少し考えてみて下さい。昨今の人口分配率は、都市部に集中する事無く各地に分散しています、そこでαの割合を当て嵌めて頂ければ自ずと答えは出るかと』
つまりは分散してるって思わせたいか、答えは謎のままなんだけど。
どうなんだろ、ココにはそれなりに人が居るし、ココでもΣって明かすのは限られた人にだけだし。
《分かりました、ありがとうございます》
『他に質問は有るかな?……では、コレから案内を始めますので、着いて来て下さい』
ココでもβ以外の身分の開示は厳禁。
しかも健康体のΣだけが入れる、ある意味では特別な場所。
引っ越しの荷物は全て検査され、飲食品や薬品関係の品は持ち込み禁止、衣類は全てココでもクリーニングされる。
だからミーシャの子は、未だに検疫中。
ただ持ち込み自体の相談は歓迎されたので、多分だけど無事な筈。
そして外部との連絡手段は、監視機能付きのメールか、内容を閲覧される手紙か電話。
ココに居る人間を守る為、外界との連絡手段は限られ内容が検閲される。
でも、外界に出てしまえばココの情報を漏らさない前提で、何をしても構わない。
ただ、自分達自身でも、居場所は分からない。
引っ越し先とされていた場所で更に車を乗り換え、目隠しをされた護送車に運ばれココまで来たから、脱走しようが無い。
『コレ、それだけ僕らも狙われてるって事ですよね』
『そう見えても致し方無いですが、そこも気にせず働いて頂ければと思います、ストレスはフェロモンを抑制してしまいますからね』
カビ分類に関係無く、人はストレスからホルモンバランスを崩す。
それが時に不妊にも繋がるのが、女性、Σ女性の生殖率の低さは主に睡眠不足らしい。
僕らΣの特性、良く眠る特性は大昔には惰眠だとか寝汚いとか言われてたらしいけれど、大食いよりはエコだと思う。
でも、働く為に生きる様な世界では、凄い不評だったらしい。
けど、睡眠時間は決して阻害しないって言うし、ココでなら生殖率も若干だけど上がるらしい。
ビルは無いし、自然がいっぱいだし、確かに生殖率は上がるかも。
まぁ、僕はどうでも良いんだけど。
「ホタル、見れそうですね」
『あぁ、良くご存知で、ココは夏になると良く見れますから、楽しみにしていて下さいね』
「はい」
源氏かな、平家かな。
楽しみだな、ホタル。
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