第18話 革命の味



 十一頭の破砕牛クラッシュブルを凍りつけにして土魔法で隠蔽した俺たちは、大呪界の森の奥へと進んだ。


 夕食用の破砕牛を一頭荷馬車に乗せて、のんびり歩く。

 破砕牛の群れ以降は、それといった魔物に出くわすことなく本日の野営地へ。


 荷馬車に積んできた破砕牛はウーガンが頭を叩き落とした奴だ。スパイクとウーガンに聞くと、血抜きのために首を狙ったのだとか。さすがはベテラン冒険者、そこまで考えて魔物を退治するとは……。


 揺られてきたおかげで、血抜きはすんでいる。

 設営と解体の二手に別れて、作業をする。日が暮れるよりも先に作業は終わった。


 アシェさんが率先して解体作業に加わってくれたおかげで、破砕牛の肉は部位ごとに分けられている。カルビ、ロース、バラ、ハラミ、タン、ホルモン……なんと幻のシャトーブリアンまでッ! お宝の部位があるだけではない。肉質も素晴らしく、きめ細かな脂の差しが入っている。いい仕事だ! さすがはグルメ騎士。


 そのアシェさんが、せわしなく眼鏡をいじりながら聞いてくる。

「ラスティ、今日はどんな料理にするのですか?」


 言葉こそ発しないが、ほかのみんなも同意見のようだ。

 ギラついた目をこっちに向けてくる。

 どうやら破砕牛はそうとう美味いらしい。地球でいう〝マツザカ〟クラスなのか?

 となれば素材の味を存分に味わいたい。アレ一択だな。


「これだけ綺麗に切り分けてもらっているんだ。ヤキニクにしよう」


 こんなことになるだろうとタレは持ってきている。あり合わせでつくった塩ダレではない。ヤキニクに特攻を持つ専用のタレだ。

 たまたま行商人から〝ショウユ〟を購入することができたので開発した自慢の逸品。

 本当はジロウを再現するのに必須とされる〝カネシ〟なるものを入手したかったのだが、この惑星の住人は大雑把で、どれも〝ショウユ〟と一括りにしている。

 それでも粘り強く〝カネシ〟を探したのだが、薄口、濃口、甘口しか入手できなかった。

 非常に残念な結果に終わってしまったものの、収穫は大きい。

 これで地球の和食が開発できる!


 そんなわけで〝ショウユ〟を用いた地球料理を再現しつつある。

 この〝ヤキニクダレ〟なんかがそうだ。

 地球で有名な〝革命の味〟なるヤキニクダレ。もとからあったヘルムートのレシピを参考に試行錯誤を繰り返して完成させた自信作。

〝革命の味〟は、地球料理を提供する高級店には必ず置いてあるマストアイテムだ。力強い肉にも負けない芳醇で濃厚な味は、千年以上に渡って人類の舌を虜にしている。ある意味、魔法以上の存在だ。

 食べたことは一度しかないが、俺の胃袋はあの味を覚えている! だから再現できたのだッ!


 本来であれば、ヤキニクの友である炊きたてほかほかのライスがほしいところだ。しかぁーしッ! 今回は肉オンリー! 夢にまでみた肉のみの食事を敢行することにした。

 異論は認める。これは美しい作法に則ったヤキニクの食し方ではない。

 だが、誰もが一度は考えることだ。肉オンリーのヤキニク。A5ランクのお肉様を飽きるまで食う! まさに贅沢の極みッ!


 すべての宇宙の人々にごめんなさいと謝ってから、肉を焼いた。

 味については語るまでもないだろう。

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