第17話 調査活動③



 魔法による先制攻撃を成功させたが、まだ何頭か生き残っている。


 ティーレが一頭、アシェさんは傷を負わせるに終わった。意外なことにローランが三頭も仕留めている。地面から真上に伸びた石の槍は、重量級の魔物には有効打らしい。〈石槍〉か、状況次第ではつかえるな。今度教えてもらおう。


 ちなみに俺の並列化した〈氷槍〉は素晴らしい命中精度だったが、頭蓋骨までは貫けなかったらしい。ほとんどが頭蓋に命中したので決定打には繋がらなかった。倒したのはズレて着弾した目玉を貫いた二頭だけ。無駄に高い命中精度が仇になってしまった。


 魔族組はマリンが二頭、ガモウが一頭。闇の手槍が当たるなり、破砕牛クラッシュブルはその場に崩れ落ちた。魔族の攻撃は相変わらず恐ろしい威力だ。

 これが敵だと思うとゾッとする。


 マリンたちが仲間になってくれて本当によかった……。


 倒したのは九頭。全部で十二頭いたから、残りは手負いの三頭。


 先制攻撃が終わると、武器自慢たちの出番だ。


 スパイクが先陣を切った。ひと息に抜いた細身剣サーベルを構えて突撃する。

 突進してくる破砕牛の攻撃を最小の動きで躱すと、首の付け根に振り降ろしの一撃。

 熟練の技を見せてくれたが、残念なことに硬い骨に弾かれた。それでも皮と身は切り裂いており、勢いよく血を迸らせている。致命傷だが即死ではない。


 スパイクは素早くバックステップで木陰に隠れた。

 手負いの破砕牛は、そうとう怒っているらしく、木陰に隠れたスパイクに狙いを定め蹄で土を掻いている。


 そこへ相棒のウーガンが忍びより、最高の一撃をお見舞いした。

 脳天直撃の大振りのハンマーが、強靱な魔物の首をぐ。


 その側では飲んだくれの鍛冶士兄弟が、別の破砕牛に仲良くタイミングの合った一撃をお見舞いしている。兄弟合わせての力は相当なもので、破砕牛の頭が胴体にめり込んでいる。


「やったなソドム」

「おうよッ!」


 拳をぶつけ合い勝利を喜ぶ二人。


 奥の方では、残った一頭がきょろきょろと頭を左右に振っていた。


 どうしたんだ?


 攻撃する優先順位で迷っているのだろうか? そう思っていたら、突然、緑の天蓋からフェルールが降ってきた。


 木工職人の少年も一応は冒険者だがランクは低く、請け負う仕事は森のガイドくらいだと聞いている。

 そのフェルールが破砕牛の背に跨がっているのだ。


 危険だと思い、剣を抜いて駈け寄った。


「フェルール、気を抜くなッ! 振り落とされるぞッ!」


 注意するも少年はしたり顔。


 完全に魔物を見下している。危険だッ!

 恐ろしい未来を予想しつつも、破砕牛に斬りかかった。


 破砕牛は俺に狙いを定めると力を溜めるように身を縮めた。全身のバネを最大限に利用して、飛ぶように身を伸ばした瞬間、フェルール少年が伸びきった破砕牛の喉笛を掻き切った。


「ブモモォーーーーーッ!」


 破砕牛が激しく暴れる。


 フェルール少年は角を握りしめ、両足で破砕牛の横腹を挟み込んでいる。

 しばらく暴れると、破砕牛は巨体を大きく左右に揺らし、その場に崩れ落ちた。


「これで終わりっと!」


 フェルールが何事もなかったかのように、ひらりと地面に降り立つ。


 死体を確認する。


 まだ流血している傷口は綺麗な断面だった。丸太ほどもある首下半分を骨まで綺麗に切り裂いている。

 飲んだくれ兄弟の打った魔法剣だとしても、断面がざらついていないのは凄い。躊躇いなくひと息に仕留めている。暴れる破砕牛の背に乗りながら、これをするとは、なかなかなの腕だ。

 戦闘に不向きだと思っていた木工少年の評価をツーランク上げる。


「どうですか工房長。僕もなかなかやるでしょう」


 陽気に笑うフェルール。こっちとしては心臓に悪い。


「あまり危険なことはするなよ」


「大丈夫です。こう見えても密偵のオファーとか来ますから」


 密偵のオファー?! どうりで手慣れているはずだ。木工以外も優秀なのだろう。しかし、オファーとかって…………バイト感覚で暗殺とかやってないだろうな。


 まあ、根は良い少年だ。悪事には手を染めていないだろう。……そう願いたい。


 こうして、無事に魔物の群れを退治したのだが、新たな問題が発生した。

 後始末だ。


 デルビッシュに牽かせた荷馬車では十二頭なんてとても運べない。野営の荷物もあるし、荷馬車に乗るのはせいぜい二頭くらいだ。仲間と食べるにしても一頭が精一杯だろう。残り一一頭を無駄にしてしまう。

 どうしようかと考えていると、ローランが声をかけてきた。

「ねえ、ラスティ、これ山分けよね」


「そうだけど、持って帰るのは一苦労だぞ。一回じゃ運べないし、運んでいる間に森の魔物に食われるだろうし。かといって俺の領地まで人を呼ぶのも危険だ。二手に分かれることになる」


「だったら氷漬けにしたら。ラスティ、さっき氷系の魔法つかってたでしょう?」


「えっ、あ、うん。でも氷漬けにしても見つかったら割られるんじゃ?」


「大丈夫。氷でガッチガチに固めて、それをアタシの土魔法で囲えば問題ないわ。匂いも姿も見えないから、魔物には岩にしか見えないわ」


 俺としたことが盲点だ。土魔法がつかえるから可能な発想だな。

 並列や直列を発見したという自負があったので、それなりに魔法を極めたつもりだったが、さすがは専門職。ローランの知識は頼りになる。


 ピンク髪のインチキ眼鏡を褒めようとしたら、それよりも先に手の平を突き出された。


「なんだこれは?」


「アイディア料。勉強して大銀貨一枚」


「…………」


 商魂たくましい娘である。


 フェムトに相談すれば、ほかにも解決策は出てきそうだが、魔法二つで解決できるのは魅力的だ。

 負けた気はするものの、大銀貨一枚を手の平にねじ込みローランの案を採用した。

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