第16話 調査活動②

 走竜や地獄極楽蜘蛛を蹴散らしながら、森を進む。


 道中、魔物シリーズ初となる牛と遭遇した。

 運のいいことに、まだこちらに気づいていない。呑気に草をんでいる。


 遠目でもわかる黒光りする角は大人の腕もあり、野生の熊をも凌駕する体躯。強そうだ。それも四頭。


 初見の魔物を発見して慎重になる俺に、スパイクがアドバイスをくれた。

「ラスティ、注意しろよ。破砕牛クラッシュブルは魔熊に比べると弱いイメージがある。立ちあがった姿は魔熊のほうが恐ろしいが、どっちも似たような強さだ。群れを成している分、破砕牛のほうが質が悪い。どうする? 戦うか? それとも迂回するか?」


「迂回するのは避けたい。ここまで杭を打ってきんだ、真っ直ぐ進もう。じゃないと道がずれる。可能なら退治しよう。いずれ駆除する魔物だ。それが、はやいか遅いかのちがいだ」


「だな、言うと思ったぜ。仕掛けるんなら各個撃破だ。気性の激しい魔物だ。手負いになると暴れて手がつけられない」


「わかった。まずは数を確認しよう。決断はそれからでも遅くはない」


 俺が言うと、スパイクは肩を叩いてきた。

「いい判断だ。俺もそうする」


 先輩冒険者の言葉で、幾分か気が楽になり、周囲を警戒する余裕が生まれる。

 樹木の陰へ目をやると、こちらの出方をうかがうように、じっと息を潜めている破砕牛を何頭か発見した。まるで俺たちが飛び込むのをまっているようだ。

 走竜もそうだけど、魔物の知能は野生の獣よりも高い。


 精度は低いが、周囲に音響式のスキャンを試みると同時に、破砕牛のちいさな耳がパタパタ動いた。人間では知覚できないそれを察知しているようだ。

 どうやら聴覚も野生の獣以上らしい。


 スキャンによる索敵結果は、破砕牛が十二頭と予想よりも多い。


 戦うべきか、やり過ごすべきか思案していると、寡黙なウーガンが呟いた。

「……ヤキニク」


「ウーガン、ニンニキは持ってきているか?」


 スパイクが尋ねると、無口な重戦士は白い歯を剥いた。


「……ニンニキある、塩だれもある」


 冒険者二人の覚悟は決まったらしい。


 後続の仲間へ目をやる。

 ピンク髪のインチキ眼鏡は、なぜか嬉しそうな顔をしている。少女らしからぬ汚い笑みだ。

 近くにいるフェルールに原因を尋ねると、破砕牛の素材はそこそこ金になるからだと教えてくれた。

 なるほど、ローランが不気味な笑顔を浮かべるはずだ。


 それ以外のメンバーは割と緊張のある表情をしていたが、俺は見逃さなかった。

 アシェさんが上唇を舐めたのを……。


 あの美食家の女性騎士が態度にあらわすのだ。破砕牛という食材は美味なのだろう。

 食べてみたくなった。


 仲間にハンドサインを送り、交戦準備をしてもらう。


【フェムト、俺たちも準備だ。まずはマーカーを打ち込んでくれ。それから魔法を……そうだな直列二ループで強化した〈氷槍〉を並列化。十二発分だ。それを破砕牛に叩き込む】


――了解しました。身体強化や索敵は?――


 近くに未確認の魔物がいるかも知れないな。慎重すぎるようだけど、念には念を入れて。


【索敵メインで……あと身体強化の代わりに射撃アプリを頼む】


――指定した魔法では威力が足りない可能性があります。レーザーガンもつかうのですか?――


【そうなるかもな。接近戦に持ち込むのはある程度倒してからだ。危険は極力排除しておきたい】


――了解しました。頭数を減らしてから、身体強化と近接戦アプリですね――


【さすがは第七世代、頼もしい】


――当然です。これが第八世代や第九世代になると…………――


 褒めたとたんこれだ。いつものように音声をミュートする。


 後方へ目をやり、仲間の準備が終わったのを確認する。

 今度はアタック用のハンドシグナルを送った。魔法での先制攻撃を指示。


 初撃はリーダーである俺からだ。


「〈氷槍〉」


 すりこぎ棒ほどの氷の杭が中空に形成される。氷の杭が飛ぶ前に、仲間たちが続々と魔法を行使していった。


「〈水撃ウィータージェット〉」

「〈風刃エアブレイド〉」

「〈石槍グランドスピア〉」


 ティーレ、アシェさん、ローランがつづく。若干遅れて、完成した氷の杭が飛んだ。


 新手を警戒してか、マリンと魔族の新顔ガモウは遅れて攻撃に移った。

 闇の溢れる手槍のようなもの生成し、それを投げつける。


 そういえば、一度プルガートでマリンが剣を生みだしたのを見たな。魔力を武器化したものだろうか?

 俺もやってみたいが、魔族と人では根本的に魔力量がちがう。なので諦めた。


 視界の端が明滅し、フェムトからの通信が入ったことを知る。慌てて音声をもとに戻した。


【なんだ?】


――マリンの見せた技を記録しなくてもいいのですか?――


【いつでも見られる、急ぐ必要はない。いまは戦闘に集中しよう。破砕牛の動きを記録してくれ、あとで行動パターンを解析して生態調査の資料にしたい】


――了解しました。では簡易録画で対応します――

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