第15話 調査活動①



 大呪界の調査メンバーを発表した。


 俺と工房のみんな、スパイク、ウーガン。それに妻二人だ。

 ティーレにはアシェさんという専属の護衛がついていて、マリンにはプルガートから来たガモウという守護騎士がいる。

 合計で十人になる大所帯だ。魔山デビルマウンテンにのぼったときよりも人数は多い。


 愛馬のデルビッシュには悪いが、荷馬車を牽いてもらうことになった。

 今回の調査範囲は大呪界でもかなり奥地。ここまで踏破している冒険者は少なく、スパイクやウーガンでさえまだ足を踏み入れたことがないという。


 そんな場所なので、いつもより慎重に下調べしてから調査に臨んだ。


 もちろん、ドローンでの調査もすませてある。上空からの調査なので森のなかまではしらべていないが、大体の地形は把握している。

 今回目指すのは、大呪界のなかほどにある場所だ。地殻変動で隆起した岩棚。その地下に鉱物資源が眠っている。


 森を切り開いたり、道を整備したり、採掘場を建設したり……トンネル並に時間のかかる大事業だ。

 だから段階を踏んで一歩ずつ進めることにした。


 まずは森も魔物や植物の生態系の調査。それと平行して道を整備すべく順路を選定。後日、順路をもとに森を切り開き道を造る予定だ。本格的な鉱物資源の調査は道が完成してからになる。

 それまでに降下艇にある調査機材を持って来ないと。




 鉱物資源獲得の第一歩として、大呪界の調査を開始した。


【フェムト、地下資源が眠っている場所へはどうやって道を切り開きたい。ガイドを表示してくれ】


――では、埋蔵量が多い場所へ道を繋いで、そこから枝分かれするようにしましょう――


【そうだな。それが効率的だ】


 道々、目印となる杭を打ちながら大呪界を進む。


 いまやメジャーとなった走竜ダッシュドラゴンや、かつて手こずった地獄極楽蜘蛛ヘブンスバイダーを駆逐しながら進む。


「あっ、これ金蛇草! こっちはアラクネラウネ! おおっ、龍涎石もッ!」


 ピンク髪のインチキ眼鏡が、狂ったように素材採取に励んでいる。

 価値のわからない素材なので、ローランが眼の色を変えて漁る光景は勉強になるのだが……。


 真面目な木工職人の少年――フェルールは冷めた目で同僚を見ている。

「まったく、浅ましい錬金術士ですね。威厳も知性も見当たりません」


「そう言うなよ。あれでもいろいろ手伝ってくれるているんだ。たまにはいい目を見ないとな」


「そういうものでしょうか」


 フェルール少年は手厳しい。しっかりしないと、俺も裏で言われそうで怖い。


 話を変える。

「ところでフェルールはあれから特許を取得したのか?」


「いえ、僕は工房長ほど才能はありませんから」


「そんなことないと思うぞ。フェルールは頑張り屋さんだし、きっと芽が出るはず」


「そうでしょうか?」


「そうだよ。いまは将来に向けて経験しているんだ。きっと成果が出るはずだ」


 工房長っぽく言うと、フェルールはなんとなくわかってくれたようだ。


「そうですね。フィギュアのことばかり考えていては、ろくなアイディアも出ませんから。たまには考えを切り替えるのもアリですね」


「ところで、そのフィギュアなんだけど……」


 遠回しにやめさせようとしたが、言い切る前に反撃を食らう。


「問題はありません。かなり精巧につくることができました。ご覧になりますか工房長?」


「えっ、ああ、うん!」


 フェルール少年が腰のポーチから取り出したフィギュアは、この間、見せてもらった以上の出来映えだった。食品サンプルを見て触発されたのか、塗りの技術も格段に上がっている。濃淡をつけた立体的なグラデーションと、どんな素材をつかったのかテカりも抑えている。

 植毛こそしていないものの、髪質は滑らかでとても木彫りとは思えない。おまけに手足が動く! 球体関節をここまで目立たず組み込むとは……。


「凄いでしょう。ケモ耳と尻尾のフサフサ感。それに染料……自然な仕上がりで薬品特有のテカリがありません。まさに御神体に相応しいお姿です」


 満足な染料をつかっていない見本の自作フィギュアから、トリムの外部野データにあるオリジナルと酷似したケモ耳巫女少女フィギュアをつくりあげたのだ。

 問題は完成度だけではない。フィギュアのケモ耳様は、トリムの外部野にあるオリジナルデータとまったく同じだったのだ!

 恐ろしいを通り越して、恐怖だった。


 この少年、俺の思考ガイブヤを読めるのかッ!


 薄ら寒いものを感じつつも、妙に頼もしい木工少年。何かはわからないが、凄まじい熱量を感じた。


 この際だ、トリムの個人データにある〝オタク〟文化の再現を任せてみよう。

 フェルールの専門外だろうが、リアルなドールやコスプレ衣装を製作するのに必要な知識を与えることにした。


「と、等身大のケモ耳様もつくれるのですかッ!」


「可能だ。皮膚の代用品が完成すれば、添い寝も可能だぞ」


「そ、添い寝ッ!」

 木工少年は静かに鼻血を垂らした。


「服もつくれば、いつでも好きな衣装を着せられるぞ」


「ふ、服ッ!」


「当然だろう。素っ裸なフィギュアじゃ飾れないしな」


「やりますッ! 僕、その開発やりますッ! 人生をかけて完成させますッ!」


 思わずドン引きしてしまうほどの食いつきだった。

 なんというか、フェルールがとんでもない世界へ行ってしまった感がある。

 でもまあ、本人は満足そうだし、いっか。


 フェルールの熱意が冷めないうちに調査に移ろう。

 あとで資料を渡すことを約束して、大呪界の調査に専念してもらった。

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