第12話 面談③

 今度はローランとの賃上げ交渉。こちらはすでに要望を聞いているので、はやく終わりそうだ。


「で、要望はさっきの服代でいいか?」


「えー、それだけぇ~」


 相変わらずやりずらい娘だ。作業でおじゃんになった服代以上の金品をせびるつもりか?


「ほかにも要望があるのか?」


「開発に必要な魔導書とは別に、アタシが練習する用のもほしいんだけど」


 やはり金か。さすがはインチキ眼鏡、抜け目がない。


 しかし、俺に魔法を教えるにあたり、あれこれ売りつけてくるので利益は出ているはず。ここは社会の厳しさを教えてやろう。


「却下だ。相談するたびに魔導書を買い取っているだろう。ローランに損は出ていないはずだぞ」


「でも、仕入れとかぁ~、資料を購入したりとかぁ~、アタシ自身の勉強とかぁ~、いろいろ物入りなのよぉ」


「駄目だ。開発に必要ならまずは予算申請を通してくれ。正当な理由があるのなら申請は通るはずだ。用途不明の買い物にまで金は出せない」


「そんなこと言ってもいいの?」


 断固として拒否したつもりだが、なぜか強気に出てきた。

 転んでもただでは起きないインチキ眼鏡。怪しい、陰謀の匂いがする!


「ガンダラクシャの元帥様から引き抜きのオファーがかかっているんだけどぉ、どうしよっかなぁ~」


 汚い!


 ローランのことだ。俺とツェリ元帥を天秤にかけて、より良い条件を引き出そうとしているのだろう。

 それならツェリと口裏を合わせて……いや、もしかするとそれが狙いかもしれない。あの腹黒元帥と結託して、俺から吸い上げるつもりだ。


 インチキ眼鏡と腹黒元帥、二人が手を取り合って、俺から金をせしめる姿が脳裏に浮かぶ。


 それだけは絶対に駄目だ! せっかくロイさんに投資してもらったのに吸い上げられてしまう。

 まずは、どれくらい欲しいのか確認しよう。


「単刀直入に聞く、いくら欲しい」


「元帥様の提示してくれた年俸はこれよッ!」


 ローランは指を四本立てた。

 大金貨四枚か……侯爵お抱えの相場ってやつだな。さすがは侯爵位の元帥様だ、金のつかい方を知っている!

 俺が支払っているのは小金貨二枚。その差は実に二〇倍。ローランが強気に出るはずだ。しかし、そんな好条件なのになぜツェリに仕えないのだろうか?

 しばし考える。


 ホワイトな職場環境しか思いつかない。ケチンボなツェリのことだ、ブラック臭をプンプンさせていた可能性もある。だとすれば交渉の余地はあるな!


 俺は指を三本立てて、こう付け加えた。

「そんなに賃上げはできないけど、税収が上がったら臨時でボーナスを支給する」


「ぼーなす?」


 失念していた。この惑星にボーナス制度という概念はない。


 ボーナスに近いものはあるが、たいていは貴族や領主の気紛れで酒を振る舞うくらい。なんとも労働意欲に欠ける労いだ。

 通貨支給はよほど太っ腹な人しかしない。なので、そこをもっと強調してみることにした。


「いわゆる成果報酬だ。領地運営に貢献してくれたご褒美だと思ってくれ」


「それって頑張らないといけないってことなんじゃぁ……」


 この期に及んで、まだ楽して儲けたいのか……。


「頑張った分だけ評価するシステムだ。ローランの場合は、俺があれこれ質問して教えてもらってるだろう」


「ああ、あの臨時収入ね」


「そうだ。その臨時収入に色をつける。俺は気前よく出すけど、その辺ツェリは厳しいぞ」


「色をつけるって、どのくらい?」


「そうだな。魔導書とかの買い取りとは別に、年間で小金貨五枚をみているつもりだけど」


「小金貨五枚ッ! それって年俸以上じゃないッ!」


 んッ! 年俸以上!! ってことはツェリの提示した年俸は小金貨四枚。侯爵のくせになんてケチな女なんだ!


 そうなると話は変わってくる。後々、ボーナス査定で揉めそうなので、ここは一気にかたをつけよう。幸い、俺の提示した大金貨三枚のことを小金貨だと勘違いしているし、攻めるならいまだ!


「あーもう面倒だ。全部コミコミで年俸大金貨一枚! これ以上は出せないぞ!」


「乗った! アタシ一生ラスティについていくッ!」


 気のせいか、ローランの目に大金貨が映っているような……。


 ゲームで忠誠度を金で買うという仕様がある。まさか現実でそれを目の当たりにするとは思わなかった。

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