第10話 面談①
妻二人と関係を持ってから、生活も一変するかと思いきや、そんなことはなかった。
ティーレ、マリンともに
当然ながら側付きの騎士たちはこのことを知っている。
アシェさんは非常に深い皺を眉間に刻み、魔族の騎士ガモウはなぜか喜んでいた。
対極的な反応を示す護衛の騎士に問う。
「その、なんで二人の態度は真逆なんだ?」
「私の場合は言うまでもないでしょう。正式な婚姻と認められていないからです。そもそも王家の血を色濃く受け継いだ王女殿下が降家など馬鹿げています!」
「ベルーガの事情は存じませんが、プルガートとしてはめでたいことです。クレイドル陛下もさぞかしお喜びになることでしょう」
理由はわかった。しかし魔族の王が喜ぶとは意外だ。一応、間違いのないよう確認しておこう。
「騎士ガモウ、クレイドル王が喜ぶのはなんでだ? 式も挙げていないのに」
「式も何も、以前プルガートでの宴の折、文武の要人たちの前で宣言されたではありませんか」
そういこともあったな。あれは蟲の一件を解決して、マリンとの婚約表明だとばかり思っていたのだが……。
まあ、クレイドル王のお叱りを受けないのは朗報だ。下手にほじくり返して問題沙汰になるのも嫌だし、このまま曖昧にやり過ごそう。
となると夫として甲斐性を示さねば。失望されないよう成果を出そう。そのためにも領地運営をしっかりこなさないと。
鉱物資源の埋まっているとおぼしき場所は特定している。しかし降下艇から調査資材を持ってきていないので、すぐには調査に移れない。急がなくてもいいだろう。
それよりも優先させるべきは金策だ。役立つ魔道具や工業製品を増やして……。紙も量産化を推し進めないとな。あとは……俺が領地を空けてもいいように、周辺の魔物も間引いておこう。
今後の領地運営や農業方針もしっかり決めておきたいな。
領主としてやることは多い。
先に鉱脈調査のメンバー選定や必要な道具や資材を手配しておこう。事務的な手続きはオズマに任せればいいだろう。
とりあえずの指示を数少ない文官要員のオズマに手渡す。
ここのところ開発に関してあまり携わっていないので、アイディアを書き綴ったメモを元に工房の面々に開発依頼を出そう。ついでに金属の製錬方法も聞いておこう。
方針も固まったので工房へ向かう。
貴族らしく馬車に乗って行くのもいいけど、ちいさな領地だと
街の視察も兼ねて、今日は歩いて行くことにした。
内地の町並みは設計したとおり、コロニーを思い出す整然とした区画割り。無駄がなく、洗練された設計だ。我ながら誇らしい。
景観こそ良いものの、予想外の難点が一つ。どれも同じ道なので領民がよく迷うらしい。
一応、道沿いに
ま、そのうち慣れてくれるだろう。
孤児たちの小遣い稼ぎに街の清掃を委託して、傷痍軍人たちには警笛を持たせて警備を任せている。問題があったら警笛を鳴らせば兵士が駆けつけるようになっている。これならそれほど体力もつかわないし誰でもできる。街の衛生や治安維持にも繋がるし、悪くはない。
街も活気に溢れている。店の軒先には、内地で収穫された早採れの野菜が並んでいる。目に見えて成果が出てきている。頑張って領地開発した甲斐があるというものだ。
気持ちよく歩いていると、すれ違う領民の悉くが「領主様、領主様」と俺に頭を下げてくれる。そのたびに一言二言交わすのだが……。数が多い。
う~ん、徒歩での移動も考えものだな。
次からは意地を張らずに、馬車で移動しよう。
おおむね良好な視察結果に満足しつつ、工房へ。
なかに入ると、街以上に活気のある喧騒が吹き荒れていた。銃弾の嵐舞う戦場みたいに、怒号と鎚打つ音が工房内に鳴り響いている。
「おめーら鍛冶には火傷がつきものだけどな、注意だけは怠るなッ」
「火傷は素人の証だ。へっぴり腰だと火花がとんでくるぞ! しっかり鉄とに向き合えッ!」
飲んだくれのイメージだったが、鍛冶士兄弟は親方らしく職人見習いの孤児たちを厳しく指導している。いい傾向だ。
家族と死に別れて辛いだろうが、これを乗り越えれば自活できる技術を身につけられる。労いの言葉をかけたいところだが、孤児たちの表情は真剣だ。声に出さず陰から応援するに留めた。
邪魔をしないよう、工房の奥にある俺の部屋へこっそり行く。
ちょっと広めの工房長の部屋に入ると、そこにも孤児たちがいた。
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