第6話 住宅事情


 ロイさんの屋敷を出た俺たち一行は、ロイド少年の案内で改装中の借家を見学する。


 まずは一軒目。

 普通の二階建ての集合住宅だ。


 ロイド少年の説明によると、この惑星の住宅事情はおおむね集合住宅が多く、キッチン、洗濯場、風呂、トイレは一階にあり、どれも共用。アパートというより寮に近い。

 細長い家屋の一階は、共用設備と店舗スペース。二階は手前と真ん中、奥と三部屋ある。つまり入居者は二階に三人。

 ミシミシと床板を鳴らしながら部屋を内覧。


 独身者タイプの賃貸物件は一部屋で完結しているシンプルな間取り。部屋の広さは地球の〝畳〟単位だと十畳といったところだ。俺が住んでいたコロニーのワンルームよりも広い。あそこはたった六畳で生活に必要なすべてが揃っていたからな。

 据え付け家具は無く、窓がひとつあるだけ。天上までの高さは……二メートル半。一人暮らしの割りには広々としている。ここに家具を入れるともうすこし手狭になるだろう。

 みんなの意見を聞きたいところだ。


「これが普通なのかな?」


 ぽつりと零すと、賃貸事情に詳しそうなアシェさんが返してくれた。

「一般的な間取りより若干広いですね。私が騎士見習いの頃はこの半分ほどの部屋を借りていました」


 聞き捨てならぬ言葉であった。


 俺が住んでいたワンルームより狭いだとッ! アシェさんはティーレの護衛。いわば、いつも一緒にいる俺の家族的立ち位置。この部屋よりいい部屋をあてがおう!


 アシェさんにつづいて、庶民派に近いガモウが言う。

「自分が住んでいる騎士団の寮はさらに狭いです。家具といえば、ベッドと机ぐらいでしょうか」


 さらに下があるだとッ!


 なんということだ! この惑星は土地があり余っているから、個人の部屋は広々としているものだとばかり思っていた。それが、コロニーの格安ワンルームより酷いとは……。


 領民の心の健康のためにも、ゆったりした設計にしなければ。


 ちなみに、ティーレとマリンはこの間取りを物置と勘違いしていた。

「居室にしては狭いので衣装部屋かと思いました」

「あまりにも殺風景だったので、私はただの物置かと……」


 さすがは王族。住んでいる世界がちがいすぎる。彼女たちが寝起きしていた部屋はさぞかしゴージャスだったのだろう。


 妻二人には各々二〇畳の部屋を用意しているが、それでも狭そうだ。

 彼女たちの部屋は可能なかぎり広くしよう。建ててしまった領主の館は……仮住まいということにして、本格的な館を建てないとな。


 夫として甲斐性が無いのでは? と考えてしまう一幕だった。


 気を取り直して二軒目。

 こちらも奥に長い二階建てだ。

 家族用ファミリータイプで、一階と二階が別々で、二家族が収容可能。

 各階にキッチンや洗濯場、風呂、トイレが備え付けられており、世帯事に生活環境が独立している。宇宙でもよく見るタイプだ。


 間取りは十二畳のダイニングキッチンがひとつに、六畳の部屋が二つ、あと風呂やトイレ、隙間を利用した物置など。この物件に多いのは四人家族。たまに、剛の者が三世帯で住んでいるらしい。


 この惑星の一般常識が見えない。幅が振れすぎていて判断に悩む。


 三軒目。

 最後は高級物件。

 賃料の高い物件になると、家事をやってくれるメイドがつくのだとか。

 こういう高級物件に住む人は自営業が多く、富裕層がメインだという。


 ちなみに間取りは建物丸々。一階が二十畳の広々ダイニングとキッチンなどのスペースで、二階が各自の部屋。どれも十畳以上というゴージャス仕様。いつもは険しい表情のアシェさんも、うっとりするほどだ。気のせいか、ガモウも目を輝かしている。

 なるほど、庶民にとっては高嶺の花らしい。さすがは富裕層向け物件。


 相変わらずの王女様二人組はというと、

「別荘よりも手狭です」

「趣味の場として借りる物件でしょうか?」


 話にならない。それどころか、遠回しに責められている気がする。

 ……胃が痛い。


 いろいろ物件を見せてもらったが、領民のための参考というよりも、未来の嫁さんの要望を聞かされた感があるのは気のせいだろうか?


 まあ、だいたいの感触は掴めた。ティーレとマリンにはロイさんの屋敷よりも広い間取りが必要だとわかっただけでも収穫としよう。

 でないとやってられない。


 話は逸れてしまったが、領民たちへ提供する住宅だ。

 俺としてはコロニータイプのワンルームを推したい。

 生活のすべてが一部屋で完結するのは非常に合理的だ。魔道具という便利グッズもある。宇宙のそれには及ばないものの、ある程度は近づけられるだろう。

 しかし、この惑星の考え方も取り入れるとなると、それなりに広さが欲しいところだ。


 やはり夢の無い狭小住宅は嫌だ。


 こう、人生を幸せだと思える間取りにしたい。

 そんなわけで、キッチン風呂トイレはどの世帯にも標準装備にすることにした。それと部屋ごとに物入れも。こちらは古代史にある〝押し入れ〟を採用した。上下二段の合理的な収納スペースに、〝天袋〟という天上すれすれにスライドドアのある収納スペース。うん無駄が無い! 窓も大開口タイプを採用。スライド式の窓から外のベランダへ出られるように設計した。


 俺って建築家の才能もあるんじゃない?


 自分の才能に惚れ惚れしていると、相棒からの通信が、

――古代史地球の日本国にあるアパートに酷似していますね――


 えっ!


【どういう意味だ?】


――そのままの意味です。〝日本国〟は狭い国土ゆえに土地を有効活用する技術が必須でした。ラスティの発想と似通っていたのです――


【俺のアイディアがすでに実現していただとッ!?】


――それだけではありません。宇宙史になって開発されたと思われている〝ウォシュレット〟ですが、古代の〝日本国〟が発明しました――


 なんだってぇ!!! あれは宇宙史でもかなり経ってからの発明じゃなかったのかッ!


 衝撃に打ちひしがれている俺のことなどおかまいなしで、フェムトは続ける。


――アニメの多くも〝日本国〟が発祥です。特にラノベと称される文化は凄まじく、文学界に〝異世界系〟というジャンルを樹立したほどです――


【そ、そうなんだ……】


〝日本国〟のことについて熱く語る相棒。もしかして、以前トリムの外部野を覗いたときに、ウィルス感染したのか?

 もしそうなら、もっとはやくに症状が出ていただろう。


 わからない。最近、相棒の動向がわからない。コイツ、もしかして自我を確立したんじゃなくてバグってるとか?


 まあ、運用に支障がないようなので問題はないと思うが……。念のため、今晩にでもAIのヘルスチェッカーを走らせよう。

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