第5話 融資②

 いろいろと考えている間に、ガンダラクシャに到着した。


 領地開発でしばらく離れていた交易都市だが、やはりデカい。見上げないとてっぺんが見えない城門からして王者の風格がある。

 なんせ人口が百万。領民が千に届くか届かないかの、ちっぽけな辺境とは格がちがう。


 圧倒的な存在感を見せつけられてから、城門をくぐってホランド商会へ。


 馬車から降りる際、ティーレとマリンをエスコートしようと思ったが、気の利く護衛二人に先を越されてしまった。


 みんな仲良く背伸びする。


 屋敷の入り口――立派な両開きの玄関へ行くと、すでにジョドーさんが待っていた。


「ティレシミール王女殿下、ラスティ様、お久しぶりでございます」


「お久しぶりです、ジョドーさん」


「お久しぶりです。いろいろと世話になりました」


 ティーレは王族でもなく、旅の仲間でもなく曖昧な言葉遣いだった。

 王族としての立場とかつて旅をともにした立場の間で板挟みになっているのだろうか? ともあれ、相手を気遣おうという姿勢は好ましい。

 もっと気楽にできるよう、ここは俺が頑張ろう。


「今日は貴族や王族としてではなく、ともに旅をした知人として参りました」


「左様でございますか。ではラスティ様、スレイド夫人どうぞなかへ」


 機転の利く執事は、友好的な口調で屋敷へ入るよう勧めてくれた。ちょっとしたサプライズだ。これにはティーレもご満悦。なんせと明言してくれたのだから。


 満面の笑みで俺の腕に抱きつくと、ティーレは笑顔でこう言った。

「あなた様、参りましょう」


 対抗意識を燃やしたのか、マリンが反対の腕に抱きつく。そしてジョドーさんへ一言。

「私もラスティ様の妻です」


「これは失礼を、可愛らしいスレイド夫人」


 マリンも笑顔になったところで屋敷のなかへ。


 それから応接室に通され、一分と待たずにロイさんがあらわれた。

 慌てて走ってきたのだろう。恰幅の良いロイさんの額には大粒の汗が浮いている。


 額の汗を拭きながら、おそるおそるといった口調で、

「お久しぶりですラスティ……様、ティレシミール王女殿下」

 ジョドーさんと同じくだりになったのは言うまでもない。


 狼狽しながらも、ロイさんはともに旅をした知人として接してくれた。

「住宅事情……ですか?」


「はい、領民の住む家を建てたいと思いまして」


「別にラスティさんが建てずとも、土地を貸しだせば勝手に家屋を建てるのでは?」


 そういう考え方か。たしかに元手はかからないけど、街の景観がね。

 俺としては整然と規則正しい町並みを望んでいる。コロニー育ちということもあるが、ガンダラクシャのように高さがちぐはぐな建物が多いと気になって仕方ない。


 この惑星の領地事情はガンダラクシャしか知らないが、ごちゃごちゃした町並みはいただけない。

 それに俺の領地は北と東を結ぶ要所。トンネル利用者なら一度は足を運ぶ場所になるだろう。辺境の領主と馬鹿にされたくはない。街の美観にも力を入れないと。第一印象は大事。遠くからの見た目も綺麗でなくちゃ。


 やるなら徹底的にだ。妥協は許されない、間取りにもこだわろう。

「今日来たのは、手本となる住宅の視察です。ロイさんならそこら辺の事情にも詳しいかと思って」


「でしたら改装中の借家が何軒かあります。それでよろしければ内覧しますか?」


「改装中でもかまいません。参考にするだけなので」


「わかりました。ではロイドに案内させましょう」


 ロイさんはこれで話が終わりだと思ったらしく、呼び鈴に手をかける。

 すかさず一言。

「あのう、よろしければの話なんですが……個人的に融資を頼みたいのですが」


 不甲斐ない話だが、領地開発でかなりの出費がかさんでしまった。なので、これから着手しようとしている鉱脈調査や採掘所の建設にまわす資金が心許ない。

 領地の収支は現状マイナスで、特許の収入をあててなんとか凌いでいる状況だ。

 穀物や野菜の収穫はまだ先。魔道具や工業製品の販路がととのえば経済状況も好転するだろうが、それもすぐにとはいかない。


 そんなわけで、安定した収入を得るまで、繋ぎの資金が必要なのだ。


 こっちの都合を押しつけるのは心苦しいが、この惑星で頼れる人といえばロイさん以外に心当たりはない。

 ダメ元で頼み込んだのだが、すんなりと了承してもらえた。

「いかほどですか」


「ええと、とりあえず大金貨で五〇枚ほど……」


 手書きの資料を手渡し、根拠を示す。


「ほう、鉱脈調査ですか。ギャンブルですな」


「……一応、大呪界の奥地でそれらしい小高い岩棚を見つけまして」


「もし鉱物が出なかった場合はどうなされるのですか?」


「領地の税収と特許の配当から捻出します。最悪の場合は特許を手放す覚悟もしています」


「いいでしょう。ご融資しましょう」


 ほっと胸を撫で下ろしたところで、ロイさんの追撃が始まる。

「利息はいりません。ですが、鉱脈を掘り当てた暁には……」


「暁には……」


「私にも一枚噛ませてください」


「それなら喜んで。窓口をロイさんだけに絞ってもいいですよ」


 それとなく出た言葉だが、ロイさんの目が輝いた。


「でしたら、融資ではなく投資という形にいたしましょう」


「投資?」


「資金提供ですよ。鉱物売買を一手に仕切るのですから利益は莫大。商業ギルドや別の商人から融資を受けられては困りますからな」


 そこから、あれよあれよと話は大きくなって、気がつくと大金貨一〇〇枚が俺の手に……。


 どうしよう、これでカスみたいな鉱物を引き当ててしまったら……。


 こんなことなら先に現地調査してから来ればよかった。


 胃が痛い。


 ストレス対策に、金策にも着手しよう。

 金になる開発研究も平行して進めることにした。

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