第4話 融資①


 王女二人を連れてのお忍びなので、いつものように徒歩や馬での移動ではなく馬車に乗った。

 相変わらずの乗り心地の悪さだが、石畳を敷いて整備した道は快適だ。軽快なリズムで馬蹄が鳴り響く。

 うん、いかにも旅をしているって感じだ。


 車窓からの景色は石積みの堅牢な壁と面白味はないが、すれ違う旅人が軽装で魔物に怯えることなく往き来きしている姿を見ると、道を整備した苦労が報われる気がする。それに自身の手で整備した道を見ながらの旅は感慨深いものがある。なんというか、俺が造った感を味わえる。


 代わり映えしない外の景色を見るのも飽きてきたので、アシェさんにガンダラクシャのことをいろいろ尋ねることにした。


「ところでアシェさん、ガンダラクシャのことで、いくつか聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


「私に答えられることでしたら」


「交易都市――ガンダラクシャの規模なんですけど、貴族や商人、領民といった住民の比率や主な産業、税収。それと食糧事情を教えて頂ければと思いまして……」


「ラスティも領主が板についてきましたね。良い傾向です。いいでしょう知りうる限りお教えしましょう」

 残念美人は自慢げに眼鏡を指で押しあげる。


 スイーツで簡単に釣れるので、チョロいとは思っていたけど相当らしい。裏を返せばそれだけ信頼されているってことだ。ありがたい。


「ではまず人口から…………」

 驚いたことにガンダラクシャの人口は百万近くいるらしい。避難民や浮浪者、傷痍軍人を含めると軽く百万を超えているだろう。さすがはベルーガの誇る大都市だ。


 度重なる増改築で成長した交易都市は区画もまばらで、お世辞にも町並みは綺麗だとは言えないらしく、アシェさんは現状の町並みに満足していない様子。それでも大通りの石畳や城壁はこだわりがあるらしく、他の大都市にも引けを取らないそうだ。


 そういえば、道だけは広かったな。あの腹黒元帥らしい軍事的な都市計画といったところか。


 人口比率は、兵士、職人、領民の順に1:3:6となっている。貴族や商人の数は少ないので、比率には加えていない。ちなみに領民の多くは農民や木こりといった一次生産に従事している。


「それにしても兵士が人口の一割って、多くないですか?」


「ラスティが指摘するように多いですね。ですが、魔物を間引く仕事もあるので適正の範囲かと」


「なるほど」


 ちなみにメイン産業は木材と薬草、魔物肉、魔石と大呪界様々だ。


 農作物の食糧自給率はそれほど高くなく、痩せた土地でも育てられるマメや根菜類が多い。穀物のほとんどは、よその領地から仕入れている。


 そういう食糧事情だから、農地開拓の共同事業を勧めてきたのか。


 戦争と金、あと男にしか興味のなさそうなツェリが、農地開拓の話を持ってきたのが気になっていたんだけど、疑問が解けてすっきりした。

 

 税収は個人収入の五割五分が目安だという。


「それって高すぎませんか? 医療や老後の保障もないのに……」


「ベルーガでも高い部類です。ですが魔物の脅威から領民を守るのに軍費は必要です。それにガンダラクシャは交易都市、ちょっとした商いも可能です。子供にも可能な仕事もありますし」


 働き口には困らないようだ。

 言いたいことはわかるが、それとこれは話は別だ。税率が高いと生活が苦しくなるのでは?


「そんな高い税率で、勤労意欲はあるんでしょうか?」


「いまはマキナ聖王国との戦時中なので、何かと軍費がかさみます。こればっかりは仕方ありません」


「ところで、領主が国に収める税金は?」


「税収の半分が一般的ですね」


「一般的?」


「領地の税収は、領主が設定できます。国庫へ納める税に関しては、領地の特性を見て国が税額を決定します。人口や特産、賑わい具合などです。ですから大雑把で、一概にこれだけと決まっていないのです」


 ドンブリ勘定か……。

 人口の算出も、適当に選んだ区画をもとに弾きだした数値らしい。大雑把にもほどがある。


 紙も開発したことだし、戸籍制度も取り入れてみるか。それとは別に区画割り……じゃなくて、住所も割り振らないとな。


 次から次へとアイディアは浮かんでくるが、とてもじゃないけど全部は無理だ。事務系の人材が少なすぎる。事務用機器の開発も必要になってきたな。


 戸籍制度はあとから導入するとして、家を建てるついでだ。住所の設定もしておこう。

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