第2話 見送り
待機とはいえ、ただぼうっとしているのは俺の性に合わない。時間もあるし、領地開発を進めておこう。
まずは現状の把握から。
大呪界を開拓して、俺はそこそこの領地を手に入れた。
区画も領主の館のある中心、内地。そしてそれを囲む外地。外地だけでも人口一〇万は収容可能な広さだ。外地にある新たな農業区画も問題なく運営されていて、三ヵ月もすれば野菜が収穫できて、穀物がつづく。農作物の生育も順調で自給自足が見込める。
主な産業は魔道具や工業製品の製造販売。
近々、鉱物資源のある場所へ道を繋げるつもりだ。
ドローンによる上空からのスキャンなので、どのような鉱物が地下に眠っているかわからない。だが大呪界に鉱物があるのは確か。
大呪界を冒険した際、土壌のサンプリングもすませている。フェムトの見立てではニッケルが産出の可能性が高いらしい。
ニッケルは優れた工業金属だ。
大呪界にはまだ未踏破の場所が多い。調査すれば鉱物以外の資源も獲得できるかもしれない。
おっと、その前に俺が乗ってきたポンコツ降下艇から、調査用の機材を回収しないとな。アレが無いと分析できない。
ナノマシンを用いた簡易的なスキャンでは、精錬された金属の塊しか解析できない。金貨やインゴットなら問題ないが、鉱石のなかに微量に含まれている金属までは精確に解析できないのだ。
鉱物以外にも地下の水脈や地層なども詳しくしらべておきたいし、化学薬品の原材料もしらべたい。惑星調査用の機材は必要不可欠だ。
それらの機材以外にも降下艇のなかには、一人では持ち出せなかった
あれらは有用なアイテムだ。
降下艇のある辺りはマキナの兵がいるので、そいつらがいなくなってから回収しに行こう。
幸いなことに、ツェリも東部を掌握するために動くと言っているし、安全を確保できるまでの間、大呪界を切り拓こう。
それと俺の領地とは別に、ツェリ元帥との共同事業――大農業地帯も形になりつつある。
木柵で敷地を囲って、魔物を駆除しながら城壁を建設している最中だ。
大農業地帯さえ完成すれば、人手に余裕ができる。それまでに、鉱脈調査をある程度進めておかねば。
大体の構想がまとまったので、各自に指示を出す。
領地開発は傷痍軍人組――文官のオズマ、切り込み隊長のヒックス、騎兵隊長のマクベインに任せた。
ルチャたちにも大呪界の調査を手伝ってもらおうとしたら、
「悪いなラスティ、俺たちは北に用がある」
「すぐに戻ってくるんだろう?」
「いや、そこから先――西へ行く予定だ」
用事については話してくれなかった。ルチャは遊び人風のチャラチャラした感じの男だが、その目は真剣だ。それなりの身分だと思う。護衛一人、主一人、楽な旅ではなかっただろう。
彼らにも事情があるのだ。深くは追求しなかった。
「そうか、寂しくなるな。西への旅、頑張ってくれ」
持ち合わせで悪いが、小金貨や大銀貨の入った革袋を手渡す。
「おい、ラスティ、俺たち金には困ってないぞ!」
ルチャの押し返す手を遮り、
「そう言うなよ。信頼できる飲み友達だ。旅の支援をさせてくれ」
「う~ん……」
ルチャは気難しい顔をしながら、護衛のクラシッドを見やる。
「若、受け取るのも友情です」
「……でもラスティ、領地開発とかいろいろと金が必要だろう」
「それくらいはなんとかする。ルチャには魔法剣のつかい方を教えてもらった。その礼だ」
「…………」
ルチャは悩んだ挙げ句、
「この礼はいつか必ずする。約束だ」
「ああ」
「そうだ。
ルチャから玩具みたいな、ちいさな曲刀をもらった。
「ラーシャルードへ行って困ったことがあったら、それを出すといい。気さくな草原の民が手助けしてくれる」
「いいのか? いつも腰帯に差していたやつだろう。大切な物じゃないのか?」
「飲み友達だからな。特別にやるよ」
「……ありがとう」
北を目指す飲み友達を笑顔で送った。
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