第1話 北部行きならず


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※ §3 83から分岐 ※

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 トンネル開発に着手してから五ヶ月。


 この惑星の十三番目の月を過ごし、厳しい冬を乗り越えて、魔山の北と南を結ぶトンネルがやっと開通した。


 俺は大事業を成し遂げた。ティーレが言うには、ここまで長いトンネルを掘ったのは俺が初めてだという。この惑星の住人として、最初にして最大の功績だ。まさに感無量。


 ベルーガ北部と東部を結ぶトンネルが開通したわけだが、古都カヴァロへの旅はお預けになった。


 それもこれも腹黒元帥のおかげだ。

「ティレシミール殿下、それに婿殿。北へ行くのはしばらく待って頂きたい」


「なぜですかツェリ元帥! やっと北部へ行くトンネルができたというのに」


「マキナ聖王国が、北部と東部の連携を阻んでいるのだ。北部の事情がわからん。そんな場所へ王族を行かせるわけにはいかん。まずは道中の安全を確保してからだ」


「北部が危険だと? であれば、なおのこと北へ行くべきですッ! 姉上をアデルを手助けしなければッ!」

 憤るティーレ。婚姻のゴールが見えたので、抑えが効かないのだろう。


 俺としては、はやく北へ行ってティーレとの婚姻を認めて欲しいのだが、ベルーガの重鎮である元帥様の申し出だ。従うことにした。


 ツェリの介入により、安全重視の方針が固まった。当然、王族であるティーレは東部に居残り。

 俺だけ北部へ行っても、あまり意味がいない。そもそもベルーガでは信用が無いし、ぽっと出の成り上がり。王族の謁見も適うかどうか……。婚姻の許しをもらうのならば、なおさらだろう。一人だと、なぜ妻に迎える者を置いてきたのか、とかえって疑われそうだ。


 トンネルは開通しているので、いつでも北へ行ける。焦る必要はない。ここはじっくりと貴族としての実績を積もう。


 まず感情的になっているティーレを宥めて……。

「落ち着いて、まずはツェリの話を聞こう。抗議はそれからだ。ね?」


「あ、あなた様がそう仰るのなら……」


 ティーレの熱が冷めると、今度は腹黒元帥だ。


 つらを貸せと言わんばかりに、脇腹を小突いてくる。


『……何か?』


『婿殿も隅に置けないな。そうやって殿下を手懐けたのか?』


『失礼なこと言わないでくださいよ。やっと家族に会えるのに、そこで待てって言われたら誰だってこじらせるでしょう。俺はただ落ち着くように宥めただけです』


『ふむ、そういうことにしておいてやろう』


 内緒話が終わると、ツェリは明確な理由を説明する。

「北部へ行くのなら援軍の派遣も視野に入れておきたい。だから先に、派遣する兵の準備と北部とのやりとりが必要になってくる。それに殿下だけ北へ行っても士気が上がるとは限らん。味方の援軍無しと思われ士気が下がる可能性もある。婿殿の頑張りを最大限生かせるよう慎重に行こう」


「……それはそうですが」


「なぁに、こちらに攻めてこないところをみると、北はまだ無事だろう。下手に動くと東部までマキナに奪われかねない。殿下の気持ちもわかるが、一時の感情で事を誤っては、それこそ遠回り。まずは北部の情報を入手してからだ」


「……わかりました。ここで朗報を待つことにします」


「理解して頂けて何よりだ。ではティレシミール殿下にはガンダラクシャの我が居城に……」

 勢いを無くしてシュンとしたティーレだが、ここぞとばかりに反撃に出る。

「それはできませんッ! ラスティと一緒にいます」


「ティーレ殿下、我が儘を言わないでくれ。対外的にもここは我が居城にいてくれたほうが好ましいと思うのだが」


「なりません。領地開発を進めるラスティを支えます。王族が率先して立つのです。これ以上のアピールがあるでしょうか?」


「ぐぅ…………」


 我が妻ながら鋭い返しだ。久々に芯の強いところを見て、頼もしく思う。


 腹黒元帥から一本取ったところで、話は終わった。


 ツェリは乗り気ではなかったが、ティーレの強固な意志に負け、俺との領地生活を認めてくれた。

 まあ、アシェさんという監視はつくが、彼女とは気心の知れた仲だし、さしたる問題にはならないだろう。

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