26話
教室に戻る。当然ながら授業中だった。
ガラガラと勢い良く扉を開けて、視線を集める。いつもならば、すっと視線は黒板やら机やら隠してあるスマホやらに戻るのに今日は戻らない。ずっと私と琴葉ちゃんのことを見つめる。それぞれの双眸が攻撃的でブルブルと震えてしまう。
声も飛んでこない。口も開かない。
なにがなんだかわからなくて、さっさと教室に一歩足を踏み出してしまえば良いのに躊躇してしまう。
なんかやっちゃったかな私。またワタシ何かやっちゃいました? みたいな。
「お前らなにしてんだ。授業始まってんだからさっさと席に着け」
チョークを教卓の上に置いた担任はやっと口を開く。
静寂という名の閉ざされた空間を切り裂いて、どわっと時空が動き出す。
「りんちゃん……なんで手繋いでるの?」
私と琴葉ちゃんの間を雪乃は震える手で指差す。
「なんでって」
私はさらっと答えようとして、指差される先へ目線を落とす。ガッチリと繋がってる手と手を見て、カーッと頬が火照る。
「あーっと、これはね」
パッと手を離して、あははは〜と笑って誤魔化す。もっとも誤魔化してるつもりなだけであって、誤魔化せてないのは理解してるんだけど。
「……?」
内心バクバクで動揺しかしてない私とは打って変わって、なにがおかしいのと言いたげな様子の琴葉ちゃん。そういう演技なのかなとか思ったけど、そうは見えない。心の底からなにがおかしいのと思ってそう。
「友達と手を繋ぐのは普通のことなのでは?」
やっぱりこれを普通たと思ってたんだね。
友達が居ない陰キャってのは時折物凄いパンチをしてくるね。私には効果がバツグンだ。
でもそういうことにした方が都合は良い。
「そうだよ。手を繋ぐのは普通だよ」
吹っ切れた私はそう口にする。
「普通なの」
「普通だよ、普通。ね? 琴葉ちゃん」
「は、はい。普通です」
雪乃の問いに私はこくこくと何回も大きく頷いて、琴葉ちゃんに同意を求める。彼女は私の欲しい言葉をそのまま口にしてくれた。
「手を繋ぐとか繋がないとかどうだって良いからさっさと座れ〜」
担任の冷めた目が刺さる。
私と琴葉ちゃんはそれぞれ自分の席へと向かったのだった。
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