20話

 私はお客様である陰キャちゃん元い藤花琴葉のために料理を作ってる。

 さっき「こう見えて私実は料理できるんですよ」と言ってた。

 正直マジかよって思ったし、勘弁してくれとも思った。これじゃあ私が料理を作ったところですげぇーっ! とはならない。

 一緒に作って欲しいとか思うけど、啖呵切った手前、一人でやりきらないゃという気持ちになる。なんであんなこと言ってしまったのかという後悔が今更になって押し寄せてくるけどもう遅い。

 それでも何度か練習した料理なわけであって、そこそこの仕上がりのものが完成する。教えてくれた先生には感謝だ。あの時レシピとか教えてくれなかったら、きっとカッコイイ姿を見せるチャンスすらなかったから。

 お皿を持って、陰キャちゃんの元へ運ぶ。


 「オムライスですか?」


 くいっとお皿を見る彼女はそう問いかけた。

 机にお皿を置いた私は、人差し指を立ててチッチッチッという音に合わせて左右に指を振る。


 「コイツは生半可なオムライスじゃねぇぜ」

 「おぉ?」

 「半熟ふわとろオムライスだ」


 私は自分用のオムライスの卵に切れ込みを入れる。すすすと雪崩でも起きたかのように卵は崩れる。


 「どうよ」

 「すごいね」


 月並みの反応だった。

 オムライスくらいじゃこんなものか。もしかしたら陰キャちゃんにとって最高の賛辞かもしれないし……うん、そうだね。そういうことにしておこう。


 「どうぞ、召し上がれ」


 ぱくりと食べる。どうかなどうかなとドキドキしてしまう。美味しくないとか言われないとわかってても、人に手料理を食べてもらうという行為は緊張してしまうものだ。


 「本当にふわとろですね。ふわとろにしようとすると普通スクランブルエッグみたいになっちゃうものなんですけれど、見た目通り口の中でとろ〜って溶けますよこれ。スプーンが進みますね」


 語り口調。ツッコミ待ちなのか、美味しすぎて勢い止まらないだけなのか、判断付かずに戸惑ってしまう。迷ってるうちにツッコミタイミングを逃してしまう。今更ツッコんだってどうしようもないか。


 「うまうまでしょ」

 「うまうまですね」

 「うみゃうみゃでしょ」

 「うみゃうみゃですね」


 私の声は邪魔だとでも言いたげな様子で適当な返事をしながら、パクパクとオムライスを食してく。美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど、雑に扱われるのは悲しい。もうちょっと私にも構ってよー、なんて面倒な女みたいな感情を抱いてしまう。


 「ほら」

 「ん?」


 オムライスを掬って、ぐいっと彼女の方へ差し出す。突然のことに動揺するように手を止めて、私のことをじーっと見つめる。


 「あーん」

 「あ、あーん……?」

 「あーんはあーん。ほら、口開けて」


 少しだけ口を開ける。私は見逃さずにスプーンを無理矢理ねじ込む。ぐいぐいと。もう食べさせてあげるというよりも流し込むという感じだ。この無理矢理感は傍から見れば介護してるように見えるのかもしれない。

 まぁ、誰かが見てるなんてことはないからなんだって良いんだけどね。


 「美味しい?」


 私はこてんと首を傾げる。


 「同じオムライスですよね」


 陰キャちゃんは風情もなにもないことを口にした。

 そんなんだから友達できないんだよ、とか反射的に言ってやりたくなったけど流石にやめておく。


 「そのオムライスには友情、愛情、根性が入ってるから」

 「は、はぁ……?」


 なにいってんだみたいな目。


 「まぁ、そうだよ。陰キャちゃんの言う通り同じオムライスだから味は変わらないよ。そうですよーだ」

 つーん、とわざとらしい冷めた対応をしながら、ぱくりとオムライスを口にした。

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