19話

 だらだらと過ごしていると夕方になる。夕日はもう沈み、外は暗くなる。

 カラスの鳴き声もスズメの鳴き声もどことなく寂しさを覚える。さっきまで聴こえていた子供たちの喧騒さも、気付けばなくなっていた。


 「そろそろご飯作ろっか」


 ふと、彼女は立ち上がる。


 「ご飯作るんですか」

 「せっかくならね」

 「作れるんですか」

 「ふふふ、私を舐めてもらっちゃー困るよ」


 ふふん、と胸を張って、鼻の下を擦る。

 つかつかとリビングから廊下へ向かい、そのまま冷蔵庫の扉を開けた。

 手際良く材料を取り出していく。


 「なにか手伝った方が良いですか。言ってもらえれば手伝いますよ」


 本来であれば確認せずとも、察してあれこれ動くべきなのだろう。というかそうするべきなのだ。しかし、状況がそれを許してくれない。キッチンは狭いし、他人の家だし。好き勝手動けばかえって迷惑になってしまう。手伝おうとして迷惑をかけるのは本末転倒も良いところだ。

 決して邪魔したいわけじゃないのに……と嘆くことになりかねないので、私はそう問いを投げる。言われたことをやる。時にはそういう控えめさも大切だ。


 「なんもしなくて良いよ」


 水道水の音に紛れて、彼女の回答が聞こえてくる。

 当然のように拒否されてしまった。正直なんとなくこうなることは想像できていた。だが、しっかりと言われてしまうと悲しくなるものだ。いらない子扱いされたような気がしてしまうから。


 「こう見えて私実は料理できるんですよ」


 自分の有用性をアピールする。

 友達が居なくて、遊ぶ機会もなかったから、家で料理を作って時間を潰したりしていた。だなら、料理スキルだけは他人よりも多くある。ちょっとした自慢だ。趣味とか得意なものとして言えるようなレベルではないけれどね。


 「そういうことじゃないから」


 私のアピールは一蹴されてしまう。やっぱり私はいらない子らしい。


 「お客さんなんだから素直に待っておけば良いんだよ」

 「でも……」

 「でもじゃないよ。家主が待っておけって言ってるんだから待っておけば良いの」


 家主は親だろ。というか、ここアパートなんだから、親すら家主ではないじゃん。

 一々指摘するほど無粋じゃないし、本人が不要だって言い切るのであれば、ここで大人しくしておくのが良いのだろう、ということで私は料理ができるまでベッドに腰掛けてのんびりとしていたのだった。決してサボっているわけじゃない。本当だよ。

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