SH(スーパーヒロイン)部隊が創設され、部員を募集していると聞いた時、大森華純は、空手の指導員で生計を立てていた。

 彼女は中学を卒業後、高校には進学せずに、ずっと空手漬けの日々を送っていた。そして十八歳にして、道場生に、空手を教える立場にもなっていた。

 彼女は空手だけでなく、他の武術や格闘技も、積極的に学んでいた。どんな相手と戦っても、必ず勝つための稽古を、彼女は続けていた。

 大森華純は、十歳の時、強盗から母親を殺され、自らも、その時に強姦された。そしてその後もずっと、彼女は、死の恐怖に怯えていた。いつかその強盗が、再び自分の前に現れて、自分を殺すだろうと、生々しく予感していた。

 しかしそのときの強盗二人組は、彼女が十三歳のときに、松岡菜々緒の手によって、殺害されている。

 それで彼女は安心したが、しかし、暴力に対する恐怖というものは、その後もずっと、彼女を支配し続けていた。そして彼女はその恐怖を乗り越えようと、懸命に、努力を続けていた。

 十八歳になったときの彼女の身長は、175センチ。女性としては、かなり、高身長な方である。体重は80キロ。男勝りの、たくましい肉体の持ち主だった。

 彼女は〝女〟を捨てていた。相手が男でも、誰であろうとも、負けるつもりはない。誰よりも強い人間になることだけを、彼女は目指していた。

 そして彼女の身につけた空手は、単なるスポーツ空手ではなかった。それはどこまでも実戦的な、戦闘空手であった。

 立技にも寝技にも投げ技にも関節技にも絞め技にも、すべての攻防に対応できる。そんな〝総合空手〟とも呼べそうな空手を、彼女は身につけていた。

 そしてその最強の空手を、日々、磨き続けていた。


 *


 SH部隊の入隊テストに、百人を超える女性たちが参加していた。

 彼女たちはみな、心の底から性犯罪を憎んでいた。そしてほとんど全員が、過去に、暴力的にレイプされた経験を持っていた。

 テスト会場は、殺伐としていた。

 女性たちはみな、殺気立っていた。鋭く、暗い目つきをしていた。

 会場内に、女性らしい雰囲気は、みじんも無かった。彼女たちはみな、〝女〟を捨てていた。

 彼女たちは、ふてぶてしかった。しかしその表情は、怯えを含んでいた。彼女たちは、暴力を酷く恐れていた。そしてその恐怖を、克服しようとしていた。そんな彼女たちは攻撃的で、凶暴そうに見えた。


 そんな殺伐とした雰囲気の会場に、明るい天使が舞い降りた。ニコニコ顔の小柄な少女は、ピンク色のセクシーなミニスカートを穿いていた。少女は、女の子らしく、繊細そうで、柔らかい雰囲気に包まれていた。まるで太陽のように、明るい少女であった。

 会場はどよめいた。

(あの子が松岡菜々緒……? 嘘でしょ、あんなに小さいの……?)

 スポーツ万能の大柄な女性たちは、みな一様に、驚いていた。

 太陽のように、底抜けに明るい笑顔。柔らかく、優しげな表情。まったく暴力とは無縁に思えるその少女が、〝ミニスカサイクロン〟――松岡菜々緒――彼女たちが目指している、スーパーヒロインである。

 強いとは聞いているが、到底、強いようには見えない。ここにいる誰よりも弱そうに見えるし、そもそも、闘う姿が想像もつかない。十歳で屈強な強盗三人を蹴り殺し、ライオンもヒグマも倒してのけるほどの猛女だとは、到底、思えない。

 参加者たちはみな、キツネにつままれたような表情である。

 松岡菜々緒は、まだ十五歳の若さである。彼女は、ニコニコ顔で、立っていた。

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