冴子の長年の働きかけの成果が出た。

 警視庁に〝性犯罪特別対策課〟という部署が創設された。そしてその課長を、警視庁副総監の氷室冴子が兼任した。そこで彼女は寝る間も惜しんで、性犯罪の撲滅に取り組んだ。

 性犯罪を取り扱う部署は他にもあったが、冴子の課は特殊であった。警視庁ナンバー2の冴子がトップに立つ部署である。どの部署の下にもついていない、完全に独立した部署であった。

 そしてそのメンバーはすべて女性であった。性犯罪を本気で撲滅するためには、メンバーは全員女性のほうがいい。それが冴子の考えであった。


 そして今、彼女は到底手に負えないような巨悪に立ち向かっていた。

 暗黒組織デラゾーマ。世界的に売春ビジネスを展開している闇組織である。

 彼らは公然と女性を誘拐して、調教して、売春婦にしていた。そして誘拐された女性たちは商品として、売春組織に出荷されていた。

 そんなおぞましい人身売買が、公然と行われていた。

 そして恐ろしいことに警察の上層部も政府も、それを黙認しているのである。

(この世界は結局、男社会……)

 冴子はそう思った。

 凶悪組織デラゾーマを男社会は受け入れていた。

 その裏で、女性たちは泣いていた。

 女性たちは密かに誘拐され続け、その被害はどこにも報道されない。誘拐された女性を、誰も探そうとしない。身内からの訴えも、すべて無視されている。

 そんな信じられないような理不尽な事が、この世界ではまかり通っていた。

 デラゾーマは凶悪な戦闘集団である。

 彼らは武器を持たない。鍛え抜かれた己の肉体のみで、完全武装の軍隊とも闘う。そして互角以上の闘いを見せる。

 彼らが身につけている黒タイツと黒マスクは、防弾機能がある。それは銃弾も刃物も通さない。

 彼らを殲滅しようと思えば、そのアジトに核爆弾かロケットを打ち込むくらいしか方法がない。

 そのデラゾーマ壊滅を、氷室冴子は目指していた。そして誘拐された女性たちを救出したいと思っていた。

 しかしそれは女性だけの力では難しいのである。デラゾーマの男たちの圧倒的な暴力に、女性だけでは到底太刀打ちできない。

 かと言って、男たちは頼りにならない。

 男たちの上層部は、デラゾーマとズブズブだ。

 売春ビジネスの主な客は世界の富裕層であり、彼らは権力者である。その権力者たちにとって、デラゾーマは彼らに魅力的なサービスを提供してくれる、必要な組織なのである。だから本気でデラゾーマの壊滅に手を貸すはずもなかった。

 しかし冴子はそんな理不尽を許せない。なんとかしたいと思っていた。

 だから彼女は、松岡菜々緒に声をかけた。藁にもすがるような思いで、まだ少女の年齢である、菜々緒にすがった。


 冴子と菜々緒は、密室で長々と話した。

 冴子は菜々緒を子供だと思わずに、一人前の大人に向かって喋るように、自分の悩みや取り組んでいること、自分のすべてを語った。

 性犯罪を憎んでいること。この世界から性犯罪を撲滅したいこと。

 菜々緒は静かに、冴子の話を聞いていた。彼女自身も性犯罪者に母親を殺され、性犯罪者を心の底から憎んでいた。

「いいですよ」

 全て話を聞き終えて、菜々緒はそう言った。

「じゃあ私、あなたのいう〝スーパーヒロイン〟になりますよ。そしてそのデラゾーマとかいう人たちは、私が全員、やっつけてあげますよ」

 菜々緒はニッコリ笑って、そう言った。

 その笑顔は冴子には、神々しいものに見えた。

「菜々緒さんありがとう……。私も命をかけて、あなたをサポートします。一緒に頑張っていきましょうね」

 冴子は涙を流して、そう言った。彼女は深々と頭をさげ、両手で少女の手を握った。

 そして冴子はいろんな方面に働きかけた。

 そして松岡菜々緒に〝スーパーヒロイン〟になってもらうべく、そのための訓練を受けてもらった。

 そして菜々緒は十五歳で、〝スーパーヒロイン〟になった。彼女は本格的に、デラゾーマ壊滅に向けて、動き出した。

 それと同時に、SH(スーパーヒロイン)部隊も創設された。

 そこで第二、第三の松岡菜々緒――スーパーヒロインの育成を目指す。そしてスーパーヒロインを徹底サポートする。

 SH部隊――それはデラゾーマを壊滅させるために創設された、女性だけの戦闘部隊であった。

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