第27話 秋斗からの誘い・2

(さすがの秋斗も、未成年の律が一緒の時には無茶な行動は取らないと思うけど、それでも絶対とは言い切れないからな……)


 楽しそうな秋斗を横目に、千紘は密かに眉を寄せ、そんなことを考えた。


 そして、誰にも気づかれないように溜息を一つ。


 千紘はこれでも秋斗との付き合い方に多少は慣れてきたと思っている。

 できれば思い出したくはないが、少し前にあったアンシュタート召喚事件のおかげとでも言ったらいいのか。


 もちろん、今でもたまに秋斗のことを面倒だと思うことはあるし、「どうして自分はブルーじゃなくてレッドなんだろう」と、今さら考えても仕方のないことを、つい考えてしまうことだってある。


 それでも、召喚される前よりは考えなくなったはずだし、秋斗のこともそこまで悪く思わなくなったような気がしているのだ。


 きっと自分も精神的に少しでも成長したんだろうな、などと千紘は漠然と考えていた。


「というわけで、さっき千紘からはオッケー出たけど、りっちゃんは昼どうする?」


 千紘の予想通り、秋斗は話題を律に向ける。


「えっ、あ、はい!」


 これまでおとなしく二人のやり取りを見守っていた律は、いきなり自分に話を振られたことに驚いた表情で両肩を跳ねさせた。


(『どうする?』も何も、すでに無言のプレッシャーをかけてるんだよなぁ……)


 そんな様子を眺めていた千紘は、秋斗自身が無意識のうちに有無を言わせない雰囲気を作り出していることに、また苦笑せざるを得ない。


 当の律は、すぐさま態度を戻すと、


「僕もいいですけど、その呼び方はやめてくださいよ! 子供じゃないんですから!」


 今度は眉間にしわを寄せ、不満そうに頬を膨らませた。


「十六歳だっけ? おれたちから見たらまだまだ子供だよ」

「もう十七です!」


 秋斗がからかうような笑みを浮かべると、秋斗をねめつける律の頬がさらに大きくなった。


 千紘は苦笑しながら二人を交互に見やり、着替えを再開する。


(こんな様子で子供じゃないって言われても、全然説得力ないよな)


 千紘の隣では、まだ秋斗と律が言い争っていた。


「背だっておれより低いし」

「身長のことは言わないでください! これから秋斗さんを追い越すんですから! 高校生だってまだ伸びるんです!」


 律の見た目は千紘や秋斗と比べてもかなり小柄で、顔立ちもどちらかと言えば可愛らしい方に分類される。


 本人は身長が低いことを気にしているようだが、今言った通り、まだまだこれから伸びる余地はあるだろう。秋斗を追い越せるかどうかは別の話として。


(俺も高校生の頃はこんな感じだったか……?)


 ふと千紘はそんなことを考え、手を止める。

 そのまま過去に思いを馳せてみるが、


(いや、俺はもっと冷めた子供だったな。うん、今の律みたいな可愛げはまったくなかった)


 すぐにそう思い直し、一人で勝手に頷くと視線を秋斗に向けた。


「秋斗、俺たちだって律より少し年上なだけだし、身長だって全然関係ないからな」


 そんなに偉いもんでもないぞ、と千紘は秋斗に釘を刺しながら、脱いだ服を詰め込んだバッグを手にする。


 そのまま先になって控室から出ようとすると、


「あ、ちょっと待ってくれよ!」

「千紘さん、待ってください!」


 秋斗と律も、慌てた様子で揃って後を追ってきた。


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