第20話 再戦・1

「……ホントに変身できるのか」


 千紘がほう、と感心したように息を吐く。


 秋斗ができたのだから自分だってできるはずだとは思っていたが、実際に変身してみると、これがまた何とも言えない不思議な気持ちになる。

 嬉しいような、恥ずかしいような、それでいて安心したような、とても複雑な気分だ。


 けれど秋斗の言った通り、先ほどまでよりも力の入り方がかなり違う気がした。身体もずっと軽くなったようだ。左腕の痛みも随分引いていて、これならだいぶマシな戦いができると思った。


 また、スターレンジャーに変身できたこともそうだが、今は一人ではないということが一番大きかった。精神的な安定感がまったく違うのだ。


「じゃ、やるか。秋斗、援護は任せた」

「おう!」


 二人揃ってラオムに向き直る。

 間合いを取って様子をうかがっていたらしいラオムは、刀を構え直すと嘲笑あざわらうように言った。


「二対一なら勝てると思っているのですか? そんな甘い考えでこのわたしに勝てると?」

「勝てるかどうかはやってみないと、な!」


 言うなり、長剣を手に千紘が駆け出す。


 やはり身体の軽さがまったく違う。これがスターレンジャーの姿のおかげなのか。秋斗の台詞もまんざら嘘ではなかったようだ、と納得した。


 斬りかかると、ラオムは当然のように刀で受け止める。それは想定内だ。


(じゃあこれは……っと)


 千紘が一歩後ろに退いて、次は横に払う。またもあっさり止められるが、別に構わない。


 最初の二撃は自分の調子を確かめるためのものでもあったから、そこまで本気を出していない。肩慣らしみたいなものだ。さすがにラオムもそれはわかっているだろう。

 思った通り、かなりスムーズな動きができていたことに千紘は安心した。


(さて、そろそろ本気で行かないとな)


 もう一度、先ほどとは逆に払う。今度はラオムが後ろに退いて攻撃をかわしてきた。


 ラオムが同じように横にいできたのを長剣で受け、そのまま弾き返す。刀のわりには重い攻撃だと思ったが、どうにもならないわけではない。


 千紘が上段から力を込めて振り下ろすと、ラオムは両手でつかを握って受け止めた。

 大きな金属音が響き、千紘の手がわずかにしびれる。


「アンタ、俺と同じで魔法は使えないみたいだな」

「確かに魔法は使えませんが、それがどうかしましたか?」


 やはりラオムは魔法が使えない。それは千紘にとっての安心材料になった。ならば自分が接近戦で引きつけておければ、後は秋斗の魔法でどうにかできるかもしれない、と思ったのだ。


 剣を交えたまま、しばし睨み合う。


「いや、お互いにフェアでいいんじゃないかと思って、なっ!」


 千紘が再度上から叩きつけるように斬ろうとすれば、ラオムはそれを余裕で受け流した。


 剣の腕なら同等か、ラオムの方が少し上なのかもしれない、と瞬時に考える。だが先ほどの一対一で戦っていた時とは違い、辛さはまったくない。むしろ今は余裕さえ感じられた。

 後ろに秋斗がいる。ただそれだけのことで、自分は絶対に負けない、負けるはずがない、と思えたのだ。


 ただ、このままではいつまで経っても平行線で、決着がつかないどころか、こちらが押され始めてしまうかもしれない。


 ラオムが人間ではないということは、おそらくだが疲労で体力が落ちるということはないだろうと考えられた。

 ならば長期戦はできるだけ避けるべきだ。一気に決着をつけるのが最善だと思った。


 千紘はラオムとやり合いながら、秋斗の援護を待っていた。

 だが、いくら待っても秋斗の援護が来ない。


(あまり長引かせるわけにもいかねーんだけど、秋斗はどうしたんだ……?)


 きっとタイミングを見計らっているのだろう、と漠然と考えていたのだが、あまりにも遅いので不思議に思い始めた頃だった。


「千紘!」


 ようやく、離れたところから秋斗の声がした。

 ちょうど来たラオムの攻撃を軽やかにかわしながら、後ろに下がり、秋斗の元へと一旦戻る。


「どうした?」

「いや、いい方法思いついたんだけどさ。ラオムは接近戦しかできないんだろ?」


 秋斗が口元に手を当て、コソコソと耳打ちする。視線はラオムに向けたままだ。


 どうやらこれまで遠くから戦いを分析していたらしい。自ら前線に立ちたがりそうな秋斗にしては珍しい行動だった。


 もしかしたら戦いにおいて秋斗はこういった指揮をする側が向いているのかもしれない、何たって魔法使いだもんな、と千紘は何とはなしに考えた。


「ああ、そうみたいだけど。それがどうかしたのか?」

「じゃあ少しだけ時間稼いでもらえるか?」

「よくわかんないけど、わかった」


 秋斗が何を考えているのか具体的にはわからなかったが、何かしらの意図があるらしいことはわかったし、少しの時間稼ぎくらいなら問題ない、と千紘は首を縦に振った。


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