第6話 異世界召喚とミロワール・1

 三人は草の上に円を描く形で座り込んで、しばらく話をしていた。


「じゃあ、ホントにおれたちはここに召喚された、と」


 秋斗がなるほど、と納得したように膝を叩き、頷く。同じように、というか仕方なしに千紘も頷いた。

 さすがにこの状況では納得せざるを得なかったのである。


 リリアの説明を要約するとこういうことだった。


 リリアが住んでいるタフリ村では十六歳になると、成人の証としてミロワールと呼ばれる小さな鏡のようなものが与えられる。

 先日成人を迎えたばかりのリリアも例に漏れず、ミロワールを与えられた。


 また、このアンシュタートという世界の人間は皆生まれた時から何かしらの能力を持っている。

 ミロワールは生まれつきのそれとは別に、新しい能力を与えてくれるものだという。


 ちなみに、ミロワールを与えられても使いこなせる者とそうでない者がいて、使いこなせない者にとっては無用の長物になってしまうそうだ。

 さらに、使える者でもその能力は人によってそれぞれ違うものになるらしい。


「まあ、そこまではいい」


 千紘は十六歳で成人だということに少々驚きはしたが、そこまでの話はきちんと飲み込んだ。


 そしてリリアは、ミロワールで使える自分の新しい能力を調べようとこの森に来ていたのだと言う。


 元々備わっていた能力から何となく察してはいたが、やはりリリアのミロワールを使った能力が召喚術だった、ということらしい。


「話はわかったし、アンタが嘘を言ってないってことも信じる……が、何で俺たちが召喚されてんだよ」


 ふてくされたように千紘が愚痴ぐちる。


「普通そこは精霊とか魔物とか、何かそういうのじゃないわけ?」


 そこまで言うと、秋斗が瞳を輝かせて食いついてきた。


「精霊!? 魔物!? 漫画とかゲームみたいでかっこいいな!」


 随分とお気楽な秋斗に溜息を漏らしながらも、千紘は続ける。


「でも、俺たちはたまたま召喚されただけで、用事があったわけでもないだろ?」

「ええ。ミロワールで召喚術を試したら、たまたまあんたたちが召喚されてしまった、ってだけね」


 リリアが真面目な顔で、素直に肯定する。


「じゃあさっさと元の世界に帰してくれよ」


 もう疲れた、とばかりに千紘が頭を振った。


 それはもっともなことだった。用事も何もないのに勝手に呼び出したのだから、すぐに帰してくれてもいいのではないか、というのが千紘の言い分である。


「えーっ! おれはもう少しこの世界見てみたいけどなぁ」


 対照的に秋斗は楽しそうな声を上げた。


 最初にこの世界に来た時の様子とはまったく違って、今は遊園地にでも来たどこかのお子様のようだ。千紘がじろりと厳しく睨みつけても、さっぱり気づかない。


「確かに、さっさと帰したいところではあるんだけど……今は無理だわ」


 リリアは残念そうに言うと、小さく嘆息した。


「……まさか、『この世界を救ってくれ』なんておかしなこと言うんじゃないだろうな?」


 先ほど秋斗が言ったように漫画やゲームの話じゃあるまいし、と千紘がいぶかしむと、


「今のところ、少なくともこの国は平和だからそんなことは言わないわよ。ただ……」


 千紘を見ていたリリアはその視線を静かに自身の手のひらに移し、じっと見つめる。そこにあるのは割れてしまった青いミロワールだ。


「ただ?」


 この国が平和だということは、とりあえず「この世界で勇者になれ」などという意味不明の超絶めんどくさいことはなさそうで、千紘はほっとした。


 これが漫画やゲームの話だったら、絶対「勇者になれ」だの、「世界を救ってくれ」だの言われるに決まっている。そんなことになったら、頭を下げてでもこちらからお断りしたい。


 だがリリアの話がまだ続くのが何となく気になって、次の言葉をじっと待つ。

 すると、


「あんたたちがこれを壊したから無理なのよ!」


 リリアは一転して怒鳴りながら、ずい、と手の中にあるミロワールを見せつけてきた。


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