過保護の女

京都 憩

過保護の女

ある1人の女がいた。その女は妊婦である。生々しい話になるがお腹の中にいる子は女が付き合って2ヶ月という浅い関係性の当時の彼氏との予期せぬ妊娠で授かった子であった。その彼氏は無責任なもので妊娠が発覚した1ヶ月ほどで女の前から姿を消した。

しかしエコーでお腹の中に1つ生命の灯火があるのを見て、女は1人でも産むことを決意した。

そんな女がいま自分の子供を出産した。

元気な男の子であった。


女は自分の胎盤と男の子を繋いでるへその緒をみて何を思ったか

助産師がへその緒を切ろうとするのを拒んだ

助産師は女の意見を聞いてへその緒を切らなかった。

女はその後赤子とへその緒が繋がったまま病院に入院した。へその緒が繋がったままでも医者は彼女らの幸せを願う言葉を吐いた。

そして、女は退院した。

それから常時赤子とへその緒が繋がった状態での生活か始まった。女は何故へその緒を切らなかったのかは謎である。女は小さい頃から両親を亡くし親戚の家をを行き来していた。女は親からの愛情に触れられなかったのかもしれない、自分の子にはたっぷりと愛情を注ごうと言う考えだろうか、そうだとしても度がすぎた過保護である。

しかし生活は思いのほか続くものである。女は赤子にご飯を食べさせる必要も授乳する必要もない。へその緒から赤子へ栄養を与えることが出来るのだ。女は母親の力のみで赤子が成長出来ている事実を前に自分の考えが間違いではなかったと、そう感じた。

彼女の子供は幼稚園に行く年になった。そんなに大きくなったのにも関わらず、へその緒はついたままである。そのため子供が幼稚園にかようのにも女はついて行った。周りから見たら奇妙な光景だが周りはすんなり受け入れてくれた。

誰しもが切ればいいじゃないかと思うだろうが、女は切らなかった。

切らないことが普通だと感じるようになってしまった。子供が生まれてからずっと繋いでいるこのへその緒を切ってしまうと、子供が自分から離れていってしまうのではないかと女は感じていた。子供は小学生になった。もちろんへその緒は切らないままで。幼稚園から小学校が近かったため、小学校は幼稚園で同学年であった人が多く、小学校でも子供にへその緒がついていることを虐めたりする人はいなかった。

子供が小学生に入ってから2,3年程たった頃であろうか、女が病にかかってしまったのである。急な事だった。こんな状態で子供は学校に行けるわけもなく、学校に行かず家で女を看病していた。が、女は限界を迎えてしまった。

子供とへその緒が繋がったまま、女は死んでしまったのである。死体とへその緒が繋がった少年はどうすればいいのか分からなかった。


少年は何日も母親の死体と夜を明かした。死体からの栄養がへその緒を通じて少年に伝わるため、腹は減らなかった。

死体はどんどんと痩せこけていき、とうとう少年への栄養供給が止まった。

女の死体は軽くなり、少年でも持てるようになった。

少年は死体を青いブルーシートにくるめてタグにロープを結び背負い、街の市場へと食料を求めて出かけた。

少年は当分生き延びれるほどの食料を背中に担ぎ、家へ帰った。腹が減っていた少年は買ってきた食料を勢いよく食べ始めた。普通ならお腹が膨れるほど食べた、はずであった。何故だろう、まだ食欲が満たされてはいないような気がした。もっと、もっともっと食べた。一日中街で買った食料を狂乱状態で手当り次第口に運ぶが少年の食欲が満たされることは無かった。

1割にも、到底届かない程。

少年は泣いた。子供が体感していい苦しさでは無いだろう。腹が減る、これからも永遠に腹が減るかもしれないその絶望。


その時、少年は気づいた、恐ろしい事象に。











「死人が太る」という異変に。








生前よりも明らかに太った女の死体。

幾ら食べても足りない少年。

それらを結ぶへその緒。


そこから1つ、考えられること。

少年が得た食料はへその緒を介して死体に運ばれている。

そんな恐ろしいことを考えた少年であったが、


へその緒を切らなかった。


いや、


切れなかった。

少年に緒を切るという選択肢は携わってはいないのだ。生まれてから、ずっと。いつだって母親と繋がっているのが 「普通」 なのだ。ぶくぶくと太っていく死体を脇に

少年は食い続けた。

食料が切れた。


だが、恐らく少年はもう街へはいかないだろう。

そもそも、こんなに大きな肉塊を運んで歩けるものか。

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