第21話 神童の弟妹 ②


 帝国が攻めてきた。

 それだけを聞き、よくわからなかったが、大変な事になったことだけは分かった3人は、王都に向かう事にした。









「3人とも疲れてない?」


 そう、アリアから書かれた3人


「うん、だいじょうぶ。」

「「うん。」」

「そう。馬が休んだら出発するから、それまでは休んでてね。」  


 アリア一行は夜も休まず強行して王都に向かっていた。3人は次第に心配になるが。ハンスに会えばなんとかしてくれると思っていた。そう思えるほど3人から見たハンスは圧倒的な強さと優しさを持っていた。


「お兄ちゃんに会えたらもう大丈夫かな?」

「そうだね。お兄ちゃんならなんとかしてくれるよ!」

「父上達大丈夫かな?」

「大丈夫!みんな強いから!それにゴクウもいるし!」

「さあ、みんな行くよ!」
















 アリア一行が王都へ向かってから11時間。

 帝国が国境に軍が到着した。この軍の総大将でもある、帝国西方軍総大将のシュバルツは合図を待っていた。


「閣下!全軍配置につきました!」

「よろしい。合図があるまでしばしまて。」

「「はっ!!」」


「シュバルツ様、進軍しないのですか?」

「いや、合図が来るまでは動けないのさ」

「合図ですか?それは誰からのですか?」

「エギル様だ。」

「なるほど、して、狙いはなんですか?」

「辺境の姫さ」

「っっ!!まさか、あの暴れ姫ですか?てことは、ブルーダー家にも既に間者を放ってるって事ですか?」

「いいや、エギル様がどんな情報を掴んでいるかは知らんが、姫さんが離れるタイミングを掴んでいたらしい。そして、そのタイミングで狙うから襲った後はブルーダー領を潰してくれってさ。」

「なるほど」

「カリーとアリアが居ては勝てん。それに、その息子は2人を超える傑物らしいからな。そいつが出てくる前にあそこは潰さねばならぬ。」

「確かに、彼等に加えて息子まで出てこられては厄介極まりないですからな。」

「その通りだ。しかし、エギル様が出てくるとなってはこちらは勝ったも同然だろう。」

「ええ、今回ばかりはブルーダーに同情します。」


 エギルとは帝国軍の大将でもあり、総大将でもあるアギルの双子の弟でもある。その正体は魔族であり、帝国は以前から自国の強化を目的として秘密裏に魔族を受け入れてきた。そして、その魔族がすでに軍のトップにまで上り詰めてしまっていた。魔族はこの大陸から海を挟んで向こう側にある大陸の者たちで、その大陸では太古に竜種と人の戦争で敗北し、大量の魔素が吹き荒れ何も育たなくなった大地に適応した人間であり、広大な大地を求めてこの大陸にやってきては侵略を繰り返している種族であった。

















「兄上、ハンスの設置した罠の使い方は大丈夫か?」

「ああ、丁寧に罠の発動順番まで書いてある。」

「そうか、一度魔物で試したことあるが、起動の瞬間だけ魔力を発するからほとんど反応はできないだろう。Bクラスのゴブリンキングでも無理だった。」

(あの時は驚きすぎたぜ。1000体以上いるゴブリンの集落を見て、罠の実験台にするって言い出した時は。しかも、ほとんどが全滅。そして今までいろんな罠を見てきたがどれも初めて見る者だった。)

「兄上、どのくらいの数の罠が仕掛けてあるんだ?」

「ああ、書いてあったのは、四方を囲む対魔素結界が800個、毒霧が後方に100個。真ん中に水爆が200個。前方に沼地が300個。らしいが、わかるか?」

「ああ、そうか。まず、対魔素結界は内側の空気中の魔素を外側に放出する結界だな。それ以外は別に閉じ込めないが、魔法を使おうとしたら外側に放出されるから使えない。そして、毒霧はハンスが言うには致死性は無いらしいが、幻覚と腹痛になる。ゴブリンにも効いたらしいし、極小量で自分で試したらしい。水爆ってのがやばいな。俺が見た限りでは3つでアリアの火属性魔法くらいの威力があった。そして、沼地は入ったら抜け出せなくなる沼地を作るやつだな。1時間で元に戻るがそのまま地中で潰れることになる。」


「・・・」

 カリーは息子から詳細な罠の説明は聞いていなかった。ただ、息子や弟から太鼓判を押されていた為使おうと決めたのだが。予想を遥かに超える凶悪性だった為、口を開けたまま閉じることができなかった。

「あ、兄上?」 

(そ、そうなるよな。俺もゴブリンが可哀想になったんだもんな。)


「馬鹿野郎!!!お前、なんてもん息子に作らせてるんだ!」

「ち、ちげーよ!俺はなんも教えてねーよ!本で見た知識で効率よくやってみました!って言われたんだぞ!」

「そ、そんなことより、毒を試しただと?!そんなことする奴がいるのかよ!」

「知らねーよ!俺の方こそびっくりしたんだぞ!でも、【これでもし、弟達に危害を加えようとしてきた帝国も大丈夫だね!】とか言われたら褒めるしかないだろ!」

「「はぁ。。」」

(そうだった。ハンスはハリー達の為ならなんだってするんだった。)

(いや、俺の娘も可愛がってくれてるから嬉しいけどよ、もし、3人が誰かに害されでもしたら、どうなるんだ?) 


 2人は弟妹達の為に頑張るハンスの姿を思い返した。

((まあ、ハンスなら大丈夫だろ))


















「ねえ、母上、ハンスにぃにから貰った魔道具で連絡してもいい?」

「「えっ?!」」

「うん?ダメだった?」

「しっ!!アン!ハンス兄上に言っちゃダメって言われたでしょ!」

「そうだぞ!クロエの言う通りだ!」

「うぅ。だって、にぃにと話したいもん。」

「俺たちも話したいに決まってるだろ!」

「ちょっ、ちょっと待って?どういうこと?ここから話せるの?」

「うっ。兄上から教えちゃダメって言われてて。」

「そう!話せるの!」

「あっ!アン!だめだぞ!」

「そ、そう。それじゃあ、私も話したいからハンスに連絡してくれる?」

「え!いいの?!わかった!」


 そういって、アンは四角の折り畳まれた物を開いて、何かを押して耳に当て始めた。









『おー!アン?どうしたんだ?もう着くのか?』

「ううん、にぃに、あのね助けて?」

『くっ、!!どうした?何かあったのか?』

「今ね、なんか帝国が来たらしくて、王都に向かってるの。」

『そうか、逃げ出せたか、近くに誰かいるのか?』

「母上達がいるよ!」

『それじゃあ、変わってくれるか?』

「わかった!はい、母上!」

「えっ?あ、これでハンスと話せるの?」

『母上?聞こえますか?』

「ハ、ハンスなの?」

『えぇ、母上の息子でアン達のお兄ちゃんのハンスです。状況を知りたいです。』

「そ、そうなのね、わかったわ、まずこんな物を作っていたのなら教えて欲しかったところだけど、いいわ、帝国軍は約4万、中には魔族もいたわ。」

『えっ?3人から聞いていないんですか?教えても良かったんですけど、それよりも、魔族ですか。。僕はどんな相手なのか分かりませんが、話では魔法に長けた種族なんですよね?』

「えぇ、そうよ、でも、カリー達なら大丈夫よ、ただ、お義父様達に知らせて、国王陛下に伝えてもらってきてほしいの。」

『わかりました。お祖父様に伝えてきます、何かあればこれで伝えてください。あと、僕とウルは母上達を迎えに行きます。それでは!』

「えっ?!ダメよ!え?聞こえない?」

「えー!にぃに酷い!私のこと忘れてた!まだ話せてないのに!」

「私も話したかったのに。」

「でも!兄上が迎えにきてくれるらしいよ!」

「ウルも一緒だって!」

「久しぶりにウルと寝たい。」

「ちょっと?貴女達?知らないことだらけだったんですけど?他に何を隠しているのかな?」

「そうねぇ、私も聞きたいわ、ハンスは来るみたいだし、それまで何を隠しているのか教えてもらいましょうかしら?」

「「「にぃに!助けてぇーー。。。」」」

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