第20話 神童の弟妹



 僕たちのお兄ちゃんである、ハンス・フォン・ブルーダーは神童だ。

 一歳の時に聖獣に選ばれて契約、5歳で魔物狩りを始めて、9歳にはイエローに到達し、他にもリバーシなどの娯楽品で商会を立ち上げて大成功し、その売上金で領内の孤児院を支援し優秀な人材を作る場としている。他にもとても10歳の子供とは思えない事を成し遂げている。

 けれど、そんなお兄ちゃんにも弱点がある。それは弟妹達に甘すぎる事。それはある日の事













「にぃに、にぃにともっと遊びたい!!」

「僕も!遊びたい!」

「私も遊びたい!」

 3歳になった僕たちは魔物狩りを始めたハンスと遊ぶ時間が減った事に不満を抱えていた。


「ごめんよ、アン、ハリー、クロエ。よーし!これからは3人との時間ももっと取るから許してくれる?」

「ほんと?!やったー!!」

「「にぃに、ありがとう!」」

 僕たちはお兄ちゃんとの時間が増える事にただ嬉しくなっていた。そして、実際に朝食の後からお昼までの間遊ぶ時間が増えた。

 しかし、お兄ちゃんは他の事に費やす時間を削っていたわけでは無かった。







「アリア様、少しお時間よろしいでしょうか」

「ん?シェリア?いいわよ?ユキも一緒でも構わないかしら?」

「はい、できれば、ユキ様にもお伝えしたく」

「ええ、わかったわ。ご一緒させていただきます。」

「それで?どしたの?」

「はい、ハンス様の事でご相談なのですが。」

「ハンスが?どうかしたの?最近はハリー達とも時間を取ってくれてるって聞いたけど?」

「はい、最近はハリー様達との時間も大切にされているんですが。その時間の取り方が心配なのです!!」

「ええ?時間の取り方?どうゆう事ですか?」

「はっ!!まさか?!あの子。。」

「アリア様、ユキ様、どうか、ハンス様とハリー様達を止めてください!このままじゃ、ハンス様が死んでしまいます!!」

「うっ!!ハンスは最近どう過ごしてるの?」

「ハンス様は、7時に起床、朝食後にはハリー様達と12時まで過ごし、昼食後には魔物狩りにいき、帰るとそのまま、家庭教師との座学やテーブルマナー、ダンスレッスンの後、夕食を取り、その後、夜遅くまで自室での錬金術や魔法、薬学などの自習をされております。そして、短時間睡眠か徹夜を繰り返しております。最近ではハンス様の体調を感じてか、ウル様も夜中に唸って怒っています。私も何度も止めましたが、やめないと言われ、他言もするなと言われました。しかし、最近はぼーっとするのを抑える為に、身体に電気を流しています。その度に傷ついているハンス様を見るのはもう耐えきれなくて。。。すみません!主人に止められた事を破るのはメイドとして過ぎた行為だとは存じております!いかなる処分も受け入れますので、どうか、ハンス様をお救いください。。」


 そう涙ながらに語るシェリア


「そう、シェリア。よくやったわ。貴女は正しくない事をしたのかもしれない。けれどハンスの為によく言ってくれたわ。少なくとも最もダメなのは母親なのに気づかなかった。私よ。」

「いぇ、そんなことは、アリア様、」

「アリア先輩!私は、ハリー達に話してきます!」

「私はハンスと話してくるわ。シェリア案内してくれるかしら?」

「っ!!はい!!よろしくお願いします!」










 そこからは凄かった。母上の怒った顔に。この家で1番は母上かもしれない。お兄ちゃんは母上に怒られて、反省したのか僕たちとの時間は減ったが、顔色も良くなり、元気な姿になっていった。僕たちはというと、ユキ義叔母様に怒られて、泣いてしまったが。ハンスお兄ちゃんには余りわがままを言わない方がいい事を知った。なぜなら、お兄ちゃんはそのわがままを絶対に叶えてくれるから。

 僕たちの最高のお兄ちゃんだ!!















「ハリー?準備できた?もう下に降りるよ?」

「アン、クロエ待って!今降りるよ!」

「もーう、おそい。急がないとハンスにぃの試合に間に合わないよ?」


 僕たちは王都のアドバン学園で行われる武術大会の決勝トーナメントに出場する、ハンス兄上の試合を見に行く為に王都に向かう予定だ。


「よし、それじゃあ、ハンスの応援頑張ってな!」

「ハンスによろしく伝えとってくれ!」

「「「はい!行ってきます!」」」


 そうして、馬車に乗り込んだ俺たちだが。





「うん?なんか、門のところが騒がしい?」

「ほんとだ!何かあったのかな?」

「うん、ハリー達はここで待ってて、ユキ一緒に行くよ!」

「はい、クロエも待っててね?」


 そう言って、母上と叔母上は馬車を降りて父上達のところに向かった。






「なんだろう、早くしないと遅れちゃうのに」

「そうだね。ハンスにぃに早く会いたいのに」

「そうだ!強くなったところ見せたら驚くかな?」

「うん!私もこのフェアとの技も見てもらいたいな!」

「私は、ハンスにぃの魔道馬車を見たい!」

「「「はぁ、早く会いたいなぁ」」」















「なに?!帝国が攻めてきただと?!」

「はい。帝国兵と見られるものが昨夜国境に向けて進軍した模様です。」

「どういう事だ!どこから出てきたんだ!その兵は。密偵の知らせでは軍に大きな動きは無かったぞ?!」

「いえ、それなんですが。敵兵の中に魔族と思われる者が多数いまして。そいつらが操っているように見られたとの報告も受けています!」

「魔族だと!?まさか、帝国が魔族に乗っ取られたとでもいうのか?!いや、それよりも!領内の騎士は今すぐ領民の避難を!そして、冒険者に緊急依頼で領民の護衛に当たらせろ!そして、領軍は直ちに招集を!!」

「カリー!何があったの?」

「アリアか、よかった。今すぐハリー達を連れて避難してくれ。帝国が国境を攻めてきた。」

「えっ?!いや、それでもなんで私たちまで避難しないといけないの?」

「敵兵は魔族と思われる者達に操られているそうだ。」

「うっ?!それじゃ、魔族の侵攻ってこと?」

「おそらくはそうなるだろう。アリア達はそのまま王都に避難してくれ。そして、父上達と共に領民を避難場所まで誘導して欲しい。幸いハンスがこういう時の避難先を選定してくれていたからな。後は領民を安心させる為にはアリア達がいれば安心するだろう。だから、ハリー達を連れて先行して行ってくれ!領民は騎士がこのルートで送る事になるから、王都で父上と合流次第迎えにきてくれ!」

「わかったわ。ハンスがここまでやっていたとは。母親である私が失敗はできないね。でも、カリー?領民を避難させ安心させたら私は戻ってくるからね。それまでは怪我したらダメよ?

「あぁ、頼んだよ。それに、驚いた事に帝国が攻めてきた時の戦術もハンスとマリクで練ってある。俺たち3人しか知らないトラップ型の魔道具も仕込んであるから大丈夫だ。安心してくれ。」

「そう、ハンスが居てくれて助かったわね。」

「姉上、ユキとクロエもよろしくお願いします。」

「マリク?私もアリア先輩と戻ってくるからね?マリーはどうする?」

「私はここに残るよ。冒険者の誘導なら私が行ったほうが聞いてくれると思うし。」

「そう、それじゃあ、私たちが戻ってくるまで頼んだわね!」

「はい!任せてください!姉上達!」

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