超高校生級キーパー
合宿最終日
そして練習試合の日
俺たちはリンクへ到着すると高校初となる練習試合にテンションが上がっていた。
「いよいよ試合かぁ〜。楽しみで仕方ない!」
俺がそう言うと、横から朝陽が話しかけてきた。
「相手はインターハイ常連だぞ?中学の時に俺たちと試合したのとは訳が違う。」
よく言えば冷静、悪く言えば盛り下げ役な朝陽は相変わらずだった。
「わかってるよそんなもん!けど楽しみじゃん!試合だぞ?試合!」
朝陽に何を言われようと、上がったテンションが下がることはなかった。
そんな時後ろから声が聞こえた。
「よう、朝陽!」
振り向くとそこには身長は180くらいだが、身体の大きさから巨人ではないかと見間違えるほどの人が立っていた。
「つ・・・翼さん・・・!ご無沙汰してます!」
「中学以来だから1年とちょっとぶりか?中学での全国優勝おめでとう!」
翼と呼ばれた人は、朝陽の肩を叩きながら笑顔で話し始めた。
少し長くなりそうなので、俺は控室に戻ることにした。
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朝陽と井口翼(イグチツバサ)は立ち話を始めた。
「まさかお前が大上に入るとはな。なんで地元から離れたんだ?」
翼にそう聞かれた朝陽は、俯いて照れながら答えた。
「大上に憧れている卒業生がいて、そうなりたいなって思って・・・」
「けどその先輩はもういないんだろ?」
鋭い翼からのツッコミが入る。
「いない卒業生を追いかけたところで、一緒にプレーできなきゃ学べるものはないことはわかってるよな?」
さらに追い打ちをかける翼に対し、小さな声で「はい」と呟いた朝陽だったが、突然顔を上げで翼に言い放った。
「東豊市から出たかったんです。小学生から同じメンバーでホッケーしてきて、自分の成長に限界を感じたから大上を選んだんです!」
そう聞いた翼は安心した顔をした。
「そっか。よかった。もし看板だけで高校を選んだなら朝陽らしくないし未来はないと思う。初めからそう言えばいいのに。」
他所行きように準備していた朝陽の志望動機は、翼には通じなかったようだ。
「東豊市から出たことに関しては俺も同じだけどね?俺は大変だったなぁ」
そう。
有望な選手が東豊市から出ると、あからさまにその兄弟や親戚の扱いが変わる。
ジュニアチームで試合に出れなくなったり、指導もおざなりにされることがあることは知っていた。
「翼さん、まだ弟が東豊市でホッケーやってますもんね・・・」
「朝陽のところは姉ちゃんがジャパン入ってるし結果も出してるから何もないだろうけどさ。俺のせいで弟の扱いが変わるってのは、なかなかこたえたよ・・・」
中学時代には見せたことのない翼の表情だった。
「けど翼さん、こっちに来ても活躍してるって・・・」
「そうだよ。中途半端な気持ちでホッケーはできないからね。だから今日も油断するつもりはないよ」
そう言って、朝陽の胸に拳を当ててきた。
「自分もやれるだけのことはやります!」
そう言って、朝陽は翼に宣戦布告するのであった。
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一方控室では
俺は身長が変わらないのにも関わらず巨人に感じた翼という人物について考えていた。
「翼って人、朝陽の先輩なのかなぁ・・・」
そう呟くと横で2年生の一ノ瀬陸斗(イチノセリクト)が話しかけてきた。
「塩原工業の井口のこと?そっか、言われてみれば朝陽の先輩だな」
何か陸斗さんは知っているらしい。
「どんな人なんですか?」
俺はそう聞いてみた。
すると陸斗さんは「ヤレヤレ」というジェスチャーをしながら答えた。
「今の高校生で一番注目されてるんじゃないかな?リンクの上での指示は的確だし、キーパーとしての実力は超高校生級。そして井口はちょっと特殊なんだよ」
特殊?
特殊と言う言葉がとても引っかかった。
「特殊ってなんですか?まさか目を合わせると決まったコースにしかシュートを打てなくなるとか?」
某テニス漫画で自分のところに相手が打ち返してくるようになる技が思いついたので、そう言ってみた。
「あはは!そんな技は漫画の世界だけど、それに近いかもね?見たらわかるよ。」
想像だけが膨らむ。
「中学の頃から有名なキーパーだったけど、高校に入ってさらに名前は売れたかなぁ?U18の代表にも入るとか噂は聞いてるけどね。」
U18
18歳以下の日本代表ってことか
「とにかくすごいキーパーだし、その相手と練習試合をよくできるうちは幸せなんだよ」
陸斗さんは、一通り話し終えるとアップの準備を始めた。
「さらにワクワクしてきた!」
俺は試合に対する気分が最高潮になっていた。
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