小さいこと

2日目の朝


東海斗は1人、宿舎の影に座っていた。


「高校・・・マジレベルたけぇよ・・・」


昨日のスケーティング練習やパス練習を行い、自分の力のなさに絶望していたところだった。


陸トレでも他のメンバーに遅れをとってしまうこともあり、『このままではついていけないのでは』という考えで頭がいっぱいだった。


「おまけに俺、身長も小さいしな・・・」


海斗の身長は160cm前半だった。


他のメンバーは180前後が多い中、身長が小さいハンデもありこのまま部にいても良いのかまで考えていた。


「俺・・・このままホッケー部にいてもいいのかな・・・もっと他にやることがあるんじゃないかな・・・」


そんな独り言を言いながら、ぼんやり流れる雲を見ていた。


「あれ?海斗じゃん。そんなとこでなにやってんの?」


海斗に近づいてきたのは2年の栗山光だった。


光も海斗同様、身長が小さかった。


「光さん!いや、ちょっと・・・」


海斗が今まで考えていたことを払拭するよう努力し、気丈に振る舞おうとしたがいまいちできなかった。


「ま、気持ちはわからなくもないよ?俺も去年そうだったから」


海斗が何も言わなくても、光は察してくれたようだ。


「違ってたらごめんな?海斗さ、身長低いしスキルもないから部活続けていいのかって思ってたべ?」


図星だった。


下を向いた海斗に対し、さらに光は続けた。


「みんなデカいしうまいよなぁ。身長も勝てない、体格も勝てない、スキルも勝てない。足手まといじゃないかって思っちゃうんだよなぁ」


光は腕組みしながら昔を思い出すように語った。


「けどさ、今のホッケーって俺らみたいな身体がちっちゃくてもできる競技に変わってたって知ってたか?」


え?


自分が知っているホッケーは今のホッケーなので、何を言っているかわからなかった。


「光さん・・・どういうことですか?」


思いつくままに海斗は言った。


すると光はスマホを取り出して


「これ見てみ?」


と言って画面を見せてきた。


少し映像は古いが、ホッケーの試合のようだった。


見るとパックのないところで身体をぶつけ合っている。


しかも身体を抑えるというわけではなく、叩きつける感じで相手にぶつかっていた。


「なんですかこれ?ホッケーの試合みたいだけどこれじゃ乱闘に近いじゃないですか!」


海斗は光に『ふざけてるのか?』と言わんばかりの雰囲気で言った。


「あはは!そう思うよな?けど昔のホッケーってこんな感じだったんだよ?」


『やっぱりそう思うよな?』というリアクションをとりながら、光が答えた。


その後、一旦スマホをしまって光は説明を始めた。


「確か冬季のトリノ五輪の後かな?大幅なルール改定があって、こういうホッケーから今のホッケーに変わったんだよ。昔はまさに『氷上の格闘技』だろ?笑」


確かに、格闘技と言われても違和感はない。


「今はパックがない場所で進路を妨害しても反則、フェンスに相手を押さえつけても反則だ。昔と今じゃ違いすぎるよな」


光の言う通りだった。


この頃のホッケーだったら、多分自分は何もできない。


「この頃のホッケーも小さい選手はいるにはいたけど、今ほど活躍の場はなかった。そう考えると、今のホッケーなら俺らにも活躍する場ってあるんじゃないか?」


光の言う通りだった。


けど活躍するだけの技術は持ち合わせていない。


そんな海斗を見透かしたように、光は言った。


「あとはスキルだな。大丈夫だって!1年練習すれば俺みたいになれるから!」


昨日の練習を見る限り、光のスキルはチームでも違和感がない。


それどころか、チーム上位のスキルだった。


「光さんうまいっすもんね。俺、中学までもそこまでうまくなかったから・・・」


すると光が真面目な顔になって海斗に向き合って話し始めた。


「俺の中学はほぼ他の学校に勝ったことはなかったし、その中で中くらいしかスキルはなかったよ。けど努力した。やるかやらないかは本人次第じゃないか?」


海斗は雷を浴びたようなショックを受けた。


「言い訳するのは簡単なんだよ。『身長がない』『体格がない』『スキルがない』『環境がない』。けどな、そう言うのはチャレンジした後でもいいんじゃないか?」


チャレンジ・・・・


そうか、自分はチャレンジもせずに言い訳を並べていただけなんだ。


「高校3年間やってみても諦めるのは遅くないよ。言い訳を出すのが今なのか、大学進学を諦める時なのか、プロを諦める時なのか、NHLを諦める時なのか、決めるのは自分だよ。」


光が話し終えた時、海斗は涙ぐんでいた。


「じ・・・・自分・・・・まだ言い訳したくないです!!!!」


そう言い切った海斗の肩に光は腕を乗せてさらに海斗の頭をクシャクシャにして言った。


「うん!いいじゃん!あとは頑張るだけだな!」


気づくと海斗は泣いていた。


「うっ・・・ひっ・・・」


なぜか涙が出ていたことに、海斗自身も不思議だった。


「なんだよ、そんなに思い込んでたのか?けど泣くほどの決意が固まったってことは、これから期待してるぞ!」


笑顔で言う光の横で、泣きっ面の海斗がいた。


「努力も時に大変かもしれないけどさ、大上ホッケー部の部員も顧問もちゃんと教えてくれるし助けてくれる。この1年間、俺が感じたことだ。だから不安にならずに頑張ろうぜ!」


「ふぁいっ!」


光の言葉に対し、海斗が泣きながら返事をしたものだから、変な声が出た。


「さ、そろそろ泣き止めよ?笑。うまくなるために練習に行くぞ!」


今まで劣等感の塊だった海斗に、練習の目標、試合の目標、選手としての目標ができた。


「がんばります!」


海斗は力強く応えると、練習のための準備をしに宿舎へ戻っていった。

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