初練習!

一般滑走でのスケーティング練習で、朝陽が2、3年生に混じっていたのが悔しかった。


そこで練習前の着替え中、俺は朝陽に声をかけた。


「なぁ、片足スケーティングっていつからできるようになったんだ?」


するとため息混じりに朝陽は答えた。


「あんなもん小学生のうちにできるようになるもんだろ。よくあれで中学までホッケーやってこれたな」


完全に馬鹿にしている。


「し・・・仕方ないだろ!あんな練習あるなんて知らなかったんだから!」


俺は言われたことが図星すぎてうろたえてしまった。


「けどエッジコントロールもまともにできないのに、よくあのスピードが出たな。力技もいいとこだ」


朝陽は呆れていた。


そこで俺は思いついた。


「待てよ・・・ってことは・・・俺がエッジコントロールを身につければもっと速くなれるってことか!?」


途端にワクワクしてきた。


「速くなるかは微妙だけど、スピードに乗りやすくなったり落ちにくくなることは間違いない。あとは体力的にも楽になる。」


朝陽が答えてくれたので、どんどん興奮してきた。


「あ、それからコーナーで加速できるようになるな。」


メリットばかりを教えてくれる!


「マジでか!!!ありがとう!絶対身につけてやる!」


その時、俺はエッジコントロールを絶対に身につけてやろうと思った。


この時までは、エッジコントロールさえ身につければ朝陽には追いつけると思っていた。


そう・・・


この時までは・・・・


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着替えが終わり、防具を身につけた俺たちはリンクへと向かった。


防具はほとんどが中学から使っていたものだが、ヘルメットとパンツを新調した。


これは中学までが青いヘルメットに青いパンツだったのに対し、大上では白いヘルメットに黒いパンツだからだ。


新しい防具は馴染むまで違和感こそあるものの、新品を使うというテンションが勝ってウキウキする。


「よし、じゃあまずは2人1組でパス練習だ。スタンス広げて並べ」


川上先生の声がかかり、リンクに乗った俺たちは中心から縦に並んでいってペアと向かい合った。


俺の相手はよりによって朝陽だった。


「じゃあまずはグリップ側の手だけでパスを出せ。」


大上先生が指示を出すと、部員たちは5mくらいの距離で片手のパスを始めた。


「ブレードの根本から先へパックを滑らすんだ。しっかり手首のスナップを効かせろよ」


朝陽が俺のブレードの中心にドンピシャのパスを出してくる。


「う・・・うまい・・・・」


思わず呟いてしまった。


俺も負けじとスナップを効かせながらパックを押し出す。


しっかりと前にパックが出た感覚があった。


『よし!』


と心の中で叫ぶと次の瞬間


「わっ!バカ!どこ出してんだ!」


という朝陽の声が聞こえた。


「へ・・・・?」


よく見ると、隣にいた翔さんのブレードにパックが到達していた。


「ミヤ!お前相手間違えてるぞ?w」


翔さんが笑いながら俺にパックを返してきた。


「そんなはずじゃ・・・」


翔さんにも朝陽からもからかわれ、顔が赤くなってしまった。


「最初は力そんなに入れないで出してみろよ」


朝陽からアドバイスを受け、ゆっくり狙いながら出してみる。


「今度こそ・・・・」


そう願いながら出したパックは朝陽が構えているブレードの逆に行ってしまった。


「・・・っつ」


朝陽がなんとか取る。


結局うまくいかなかった。


「よしー、次!もう少し離れて普通にパスを出せ。ブレード目がけてな」


先生の声かけのもと、今度は普通に両手でパスを出す。


「これなら大丈夫だ!」


スムーズにパス練習ができていると思っていた。


しかし、翔さんが大声で言ってきた。


「ミヤ!レシーブの音がでかい!パックを受け取る瞬間引け!」


言われてみると確かに、周りの人たちはパックを受ける際にほとんど音がしない。


俺はパックを受けるたびに、「パシッ」と音が出てしまっている。


さらに追い討ちがかかる。


「お前のパスは取りずらい。ブレードの中心目掛けて出せよ」


朝陽からクレームが入る。


確かに朝陽からのパスはブレードの中心に来ていた。


スケーティングはおろか、パスまでもここまで差があるとは・・・・


次のメニューはフライングパスだ。


パックを横回転させ、フワッと浮かせたパスを出す。


俺が中学全道でやられたパスだ。


「こ・・・今度こそ・・・」


俺は浮かせるようにパスを出した。


・・・つもりだった。


『ズドーーーーン』


パックがフェンスに当たる音と共に、朝陽の怒号が飛び交った。


「バカッ!お前殺す気か!恨みでもあんのかよ!」


そう、俺が知っているパックを浮かせるのは、シュートの時しかなかった。


そのため、フライングパスと言っても少し力を抜いたシュートくらいにしか考えてなかった。


「おぉ、滝澤。フライングパスの出し方からおしえなきゃな」


そう言って川上先生が来てくれた。


「こうやって、手首のスナップでブレードにパックの側面を乗せる感じだ」


先生のプライングパスは綺麗にパックが横のまま飛んでいき、ストンッと氷に着いた。


「スナップとタイミングだな。やってみろ」


先生にそう言われた俺は、見よう見まねで、スナップを意識してやってみた。


「あれ・・・」


全く浮かない。


何度やっても浮かない・・・・


「ま、最初はそんなもんだろ。これから練習だな!」


先生はそう言ってくれたものの、今までずっとやってきたホッケーでできないことがあったことにショックを受け、テンション駄々下がりだった。


その日の練習はスケーティングも含めた基本的な練習で終わったが、これほどまでに自分ができないと思っていなかったので1人宿で落ち込んでいた。


1年生は全員大部屋に入っていた。


「ミヤ、俺もできなかったから一緒だって!」


そう声をかけてきたのは太一だった。


「あんまりこういう練習してこなかったからさ!がんばろうぜ!」


そうやって言ってくれるのは、嬉しかった。


「そうだな・・・ほら!こういうの伸びしろっていうもんな!」


俺は無理にでもプラスになろうとして、強がった言葉を言った。


「そうだよ!これから覚えることたくさんだから、ワクワクしてかなきゃ!」


太一がものすごくプラス思考なので、それに少し引っ張られた。


「俺とDF組む頃には、当たり前にあれくらいできてくれよ?」


朝陽が言った。


一瞬嫌味にも聞こえたが、パス練習で散々迷惑をかけたこともあって、そこでは頷くしかなかった。


気持ちが晴れなかったため、蒼にぃちゃんにメッセージを送ってみた。


躓いた時はいつも蒼にぃちゃん頼りな面もある。


都『今日から合宿だけど、エッジコントロールもダメ、パスもダメで踏んだり蹴ったりだったよ』


するとすぐにメッセージが返ってきた。


蒼『合宿おつかれ!色々大変そうだな。多分今の問題はエッジもスティックも、ただの道具にしかなってないってことだ。』


ただの道具?


一体どういうことだ?


そんなに雑に扱った記憶はない。


都『そんな雑にあつかってないよ?どういうこと?』


蒼『別に魂込めろって意味じゃないよ。体の一部になってないんだよ。エッジに関しても、今どの角度で氷に接しているか感覚で掴むんだ。ブレードにしても、下を見ないでもブレードのどの位置にあるのか、どの角度なのかを感じられるようになるんだよ。」


俺はその時気づいた。


確かに、そこまで意識したことはなかった。


蒼『あ、言うタイミングなかったけど、ミヤは下見すぎだ。パスもハンドリングも、常にパック見てるだろ?』


おっしゃる通り・・・・


都『だって下見ないとパックがどっか行っちゃうんだもん!」


蒼『さっき言った感覚を掴めば、下見なくてもパックはどこかいかないよ。見るんじゃない!感じるんだ!』


蒼にぃちゃんがその言葉に続いて、黄色いジャージを着た映画俳優のスタンプを送ってきた。


見るんじゃなくて感じる・・・・


確かに自分はそこまで感覚を気にしたことはなかった。


都『わかった!やってみるよ!』


蒼『ちなみに、パックを見なければ視野が広がって余裕ができる。危ない相手が向かってきててもかわすのは余裕!』


都『いいことだらけだね!やってみるよ!』


スマホを見ながらニヤニヤしていた俺を見て、龍が話しかけててきた。


「ミヤ・・・おまえ・・・どした?おかしくなったか?」


そう言われてもニヤつきは止まらなかった。


「ん〜?なにがぁ???」


その日俺は、しばらく周りから距離を置かれた・・・・

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