スケーティング
リンクに到着すると、『大上高等学校氷球部』と書かれたトラックが止まっていた。
トラックから川上先生が降りてきた。
「おぉ、ついたか。自分達の荷物下ろせ〜」
川上先生の号令で、みんな自分の荷物を下ろし始めた。
川上先生は学校行事の関係上一緒に行くことはできなかったので、荷物を置いて自分達はバスで出発したのだった。
この数を1人でトラックに積み込んだのか・・・
トラックには俺たちのジャージに書かれているスポンサーのロゴも書かれている。
「先生、これって部の持ち物なんですか?」
俺は率直な疑問を川上先生に投げかけた。
「いや?俺の私物だ。元々バイクのトランポに使ってたトラックだったんだが、こっちに名前を入れる条件で出資してくれた企業もあったからな。ま、俺にとってはどこに入れようと構わないからいんだけどな」
「トランポってなんですか?」
「簡単に言えばバイクを乗せるためのもんだ。『トランスポーター』の略称だな。山走ったバイク乗せたりするから、泥で中も汚れるしそんないいもんじゃないけどな」
そう言うと、先生はリンクへ向かって行った。
いくら元々あったものだとしても部のために私物を使うとは・・・
学校の先生は大変なのだと改めて思った。
全員が建物の中に入ると、川上先生が全員に向けて指示を出した。
「とりあえず今からは一般滑走に混じってスケーティングの練習だ。山崎!ここからはお前に任せるぞ」
「はい!」
そう言って山崎さんは颯爽とスケートを履き、リンクへ向かった。
これだけしてくれる顧問の先生が生徒に指導を任せると言うのがすんなり理解できなかった。
スケートを履きながら、横にいた三浦さんに質問した。
「三浦さん、なんでこれからは山崎さんが指導するんですか?」
すると三浦さんは、『そんなこともしらねぇのか?』と言いたいような表情で答えてくれた。
「山崎さんは小学生の頃ガチでフィギュアやってたんだよ。中学からホッケーに転向したんだけど、その頃はかなりの腕前だったらしい」
フィギュア・・・
それとこれとどう関係あるのだろうか・・・
「まだ理解できてないみたいだな。フィギュアのスケーティングはスケート競技の中でも一番難しいんだよ。エッジコントロールが半端じゃない。NHLチームやアジアリーグのチームも、スケーティング練習ではフィギュアのコーチを連れてくるほどなんだぜ?」
知らなかった・・・
全く畑違いだと思っていたが、意外な関係性があったのか。
『やっとわかったか』と言わんばかりの顔で三浦さんがリンクへ向かったので、俺も続いてリンクへ向かった。
「うわぁ・・・久しぶりのこの空気!」
スケートリンクはある種独特の匂いがあり、その匂いが俺は好きだった。
胸いっぱいにリンクの匂いを吸った俺の目の前を、素早い何かが通り過ぎた。
「えっ・・・・」
言葉を失っていると後ろから肩を叩かれた。
キャプテンの大地さんだった。
「春樹がアップしてんだよ。早いだろ?あれでまだ8割くらいだぞ?」
山崎さんの下半身の筋肉はすごかったが、それでもここまでスケーティングが早いことにも驚いた。
しかも一生懸命に足を動かしているのではなく、スピードスケートのようにゆっくり漕いでいるのにスピードはめちゃくちゃ早い。
「春樹は筋力もすごいが、エッジコントロールがうまくなればスピードの乗りが格段に上がる。さ、俺たちも練習するぞ!」
そう言ってリンクには乗ったものの、エッジコントロールというフレーズが気になった。
全員がリンクに載ったところで、山崎さんが説明に入った。
「じゃあ2、3年生は去年と同じく片足スケーティングで左右一週ずつのアップ。一年生は・・・」
そう言いかけた時に朝陽が口を開いた。
「自分も片足スケーティングに混じっていいですか?」
「あぁ、いいよ。東豊市出身のやつってスケーティングうまいからね。行ってきて!」
そう言うと、朝陽は片足だけでスケートを漕ぎながら行ってしまった。
というか、片足だけで前に進むということが理解できなかった。
すると山崎さんは言った。
「みんなこれやったことあるかな?片足スケーティング。インエッジとアウトエッジで交互に漕ぎながら進むんだよ。」
そう言うと、山崎さんはスムーズに前に進み出した。
実際にやってみると、インでは漕げるがアウトが全く進まない。
他の1年生も同様だった。
「大丈夫だよ!今の2、3年も基本的にそんな感じだったから!じゃあまずパワースケーティングからやろっか?しっかりエッジを意識してね?」
パワースケーティングはスケーティングの基本となる練習だ。
これは幼少期からやってきた。
「あ、今のところ!アウトエッジに乗るんだよ!」
山崎さんからの指導が入る。
見よう見まねでやってきたこの練習、実際にエッジを意識しながら行うと、めちゃくちゃ難しいし足に負担もかかる。
「そうそう!いい感じ!今までアウトエッジをあまり使わずにホッケーしてきてるんだから、アウトエッジが使えるようになったらみんなもっと一気にうまくなるよ!」
確かに・・・!
単なるスケーティングで感覚を戻すだけだと思っていた一般滑走だったが、思いのほか得るものも多そうだ。
俺たちは時間も忘れ、エッジコントロールの練習に励んだ。
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