サラブレッド

初陸トレ翌日、筋肉痛が身体を襲いなんとか登校できる状態だった。


「いてぇ・・・」


俺は休み時間にどこか行く元気もなく、席でアイスホッケー雑誌『Face Off』を読んでいた。


すると後ろから突然樹が読んでいる雑誌を覗き込んできた。


「いやぁ、すげぇよな女子ホッケー!特集組まれてんじゃん!」


そう言うと、俺を押し退けて記事を読み始めた。


「樹・・・。バスケ雑誌より気になってんじゃないのか?もしかしてホッケーに未練タラタラか?」


そう聞くと樹は


「バスケはやるのが好きなんだよ!ホッケーは見て楽しむ!」


そう言いながら記事を読み耽っている。


「このエースの人、この前の試合ネットで見たけどめちゃくちゃすごかったぞ?高校男子でも通用するんじゃないか?」


樹が話している人の記事を見ると、コメントが載っていた。


「今聖香だってよ。うちにも今っているけどどっちがうまいんだろうな?」


そう言うと、樹ではない声が後ろから聞こえた。


「人の姉貴の話してて楽しいか?」


驚いて振り向くとうちの学校の今朝陽がいた。


ん・・・?


姉貴????


「は?今聖香って今のねぇちゃんなのかよ?ってか他のクラスに入っていいのかよ!どういうことだよ???」


俺は同じクラスではない今が教室にいることと、姉がジャパンのエースであることに混乱して訳のわからないことを言っていた。


「ミヤを読んだが全然気づかないから入ってきただけだ。入り口で俺は永遠に待ってたらよかったのか?」


全然気づかなかった・・・


「それより、今日の陸トレだけど1年は着替えて職員室前集合だと。伝えたからな」


そう言うと、今は教室を出ようとしていた。


「ちょ・・・!それよりこれ、お前の姉貴なの?」


本日最大の衝撃を訪ねると今が


「そうだ。常に俺より先にいるむかつく姉貴だ。」


そう言うと突然振り返り。


「ちなみに、女子アイスホッケー代表なら3年の先輩にもいるぞ?」


本日2度目の衝撃だった。


言いたいことが言い終わったのか、今は教室を出ていった。


終始黙っていた樹が口を開いた。


「今聖香が今朝陽の姉・・・?マジかよ・・・あいつ俺らが全道で負けた西ヶ峰中のキャプテンだよな?」


見ただけでよくわかったものだ。


「そうだよ。体力もすげぇし全国優勝のキャプテンが今朝陽だ。俺はぜってぇ負けねぇけど!」


俺はそう言うと握り拳を作り高く掲げた。


「けどよ、3年に代表がいるって言ってたよな?雑誌に書いてないか?」


樹はそう言いながら雑誌を取り上げで探した。


「あ!いた!マジかよ!!!楢崎早苗ってうちの学校だったんだ!キーパーだよ!こないだの試合で解説の人に天才って言われてた!確実に俺よりうまいし・・・」


楢崎早苗・・・


確か小学校の時に女子で鉄壁を誇る2つ上のキーパーがいるって聞いたことがあった。


ジャパン・・・身近にいるんだ・・・


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この日の放課後の陸トレは身体を動かすというより、フォーメーションの確認だった。


まずは先生が1年生に向け、黒板を使った説明をしてくれた。


「1年生はまともに練習する前に練習試合があるからな。今のうちに基本的なフォーメーションを覚えておけ」


チームによって決まりごとがあり、これがわからなければ5人はチグハグに動いてしまう。


「まずはブレイクアウト。攻め出しだな。動きに特別なことは必要ない。DFに合わせて45°にFWが入り、そのサポートにCFが入る。逆サイドのFWは縦に走り出し、反対のDFは逆に開く。今、これがなぜだかわかるか?」


すると今が答えた。


「なるべく多くのパスコースを増やすための動きです。」


「その通りだ。そのため、DFはどのパスコースが空いているのかを常に把握しておかなければならない。滝澤、ゴール裏から出てくる時に最大級に気をつけなきゃいけないことを一つ言ってみろ。」


俺は先生に当てられて、自信はなかったが答えた。


「ゴール前のフェイスオフスポット2つとゴールラインを結んでできる四角形になるべくパックを入れないことです。」


すると先生が少し驚いたような顔をしていった。


「おぉ!その通りだ!その他にもパスを早く出すことや1対1でパックを取られないなど色々あるが、今滝澤が言ったこと注意できないのが一番失点につながるパターンだ。」


正解でホッとすると同時に、今答えたことは失点の経験から絶対に行ってはならないことと覚えていた。


「じゃあそれを踏まえて今日は先輩たちとフォーメーション練習だ。今はセットは組んでいないからポジションごとに分かれて順番に入れ。」


続けて先生はこう言った。


「初の陸トレで筋肉痛だろ?一昔前は筋肉痛は動かさなきゃダメと言われていたが、実際はそうじゃない。筋肉が傷ついている時には休養が必要だ。しかし全く動かさないと固くなってしまうからな。身体が慣れてきたら休みはないと思え」


その先生の言葉に、海斗は青い顔をしていたのが印象的だった。


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その夜。


今家では・・・


朝陽は昼間のことを思い出していた。


雑誌に掲載されたのは全国優勝した時にされている。


しかし、『日本代表』という看板を背負ったことはない。


「俺は・・・日本代表になれるのだろうか・・・・」


ベッドに横になり自分の手を見つめながらそう言った。


『バタン!』


突然朝陽の部屋のドアが開く。


「朝陽!ごめん!ブレードテープ余ってない?切らしちゃって・・・・」


姉の聖香が壊れるのではないかと思うくらい力強く扉を開けた。


スティックの先端、ブレードに巻くテープがどうやら欲しいらしい。


朝陽はため息をつきながらベッドから立ち上がった。


「扉くらい静かに開けられないのか?ゴリラかよ・・・」


そう言うとみるみる聖香の表情が変わる。


「あん?」


実際に聖香はベンチプレス80kgを持つほどの力があった。


向かってこようとする聖香目掛けて、朝陽はブレードテープを投げつけた。


「あぶなっ!うちじゃなかったら当たって大怪我だよ?日本背負ってるんだからさぁ」


それなりの勢いで投げつけたのに取られたこと、さらには日本代表をちらつかせてきたことに朝陽は少し苛立ちを覚えた。


「用事はそれだけか?俺忙しいから」


そう言うと机に向かおうとした。


「あんたさぁ・・・冷たいもんだねぇ。どう?大上は?」


そう聞かれて朝陽は少しめんどくさそうに答える。


「他の高校を知らないからな。知らん。」


姉には散々他の高校を勧められたが、その声を一切無視して大上に進んだ。


「ま、あんだけ言っても大上に進学したんだからそれなりに結果残しなさいよ〜?」


そう言うと姉は部屋を出ようとした。


「日本代表のステージで待ってるぜ!」


ダサい決めポーズを取りながら去っていった。


てっきり姉は大上に進んだことをいつまでも否定的でいるかと思っていたが、そうではなかった。


むしろ応援してくれる立場だったことは意外だった。


しかし、日本代表という単語を出されるとどうもいてもたってもいられなくなる。


まずはU18に入ってやる!


朝陽はそう心に誓った。

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