ジャージ!

高校生活もいよいよ本格始動し、フルで授業が始まった。


「初日から授業って普通か?オリエンテーションだとばっかり思ってた・・・」


昼休み、樹は俺に弱音を吐いてきた。


「さすがに高校の内容となるとキツいわ・・・ちょっとでも予習が必要かも・・・」


学力に定評のある樹ですら、このセリフが出るとは思ってもみなかった。


「樹でもキツいんだ・・・。樹でダメなら俺なんて・・・」


俺がそう言うと、思いっきり樹に背中を叩かれた。


「何言ってんだよ!数学満点男が!嫌味かぁ?」


満点を取ったことでクラスの中でも変なイメージがついてしまったようだ。


自分の実力ではないんだが・・・


「たまたまやったところが出ただけだよ。」


謙遜してどうにか切り抜けようとした時、放送が鳴った。


『連絡します。アイスホッケー部一年は職員室前に集まるように。繰り返す。アイスホッケー部〜・・・』


川上先生の声だった。


俺は樹がまだ話があるような顔をしているのを横目に、即座に職員室へ向かった。


職員室に着くと、3年マネージャーの絵真さんが段ボールを開けながら、川上先生と話していた。


俺がついたことに気づくと、先生はこちらに話しかけてきた。


「おぉ滝澤!早いな!陸トレに間に合ってよかった!来たぞ!」


そう言うと段ボールを指差した。


「これってもしかして・・・」


心を躍らせているうちに、ゾロゾロと1年生全員がマネージャーの亜里沙を含めて全員が集まった。


そこで先生が口を開いた。


「いよいよ大上ホッケー部ジャージセットが届いたぞ!今日からこれを着て陸トレだな。杉浦!配ってやれ!」


そう言われた絵真さんは、1人ずつジャージを配布し始めた。


「滝澤君?」


名前を呼ばれ、ジャージを受け取る。


袖には「2」という番号入りだ。


「おぉぉぉぉ・・・・!!!」


ジャージを広げ、さらには羽織ってみた俺を見て今が言った。


「2番に恥じないプレーしなきゃ恥ずかしいぞ?」


そう言われ、先日のプレッシャーを思い出して具合が悪くなってきた・・・


「くそ・・・周りから『白峰の再来』って言われるぞ?絶対!」


俺は強がりを見せつつ、そうなろうと決心した。


「重圧はなにも滝澤だけじゃないぞ?な?山口?」


「は・・・はい・・・」


俺以上に顔色が悪く、今にも吐きそうな山口がそこにいた。


「山口君の背番号、お兄さんと一緒だもんね?」


絵真さんが山口に話しかける。


「他の番号にしようかとも思ったけど、中学から10番だったからつい・・・」


去年のエースだった山口の兄も10番だったのだ。


「なんだよ!お互い番号負けしないように頑張ろうぜ!」


俺はそう山口に声をかけた。


同じ気分なのが自分だけではないと言うことだけで心強かった。


「先生・・・これ・・・私もよかったんですか?」


そうか細い声を出したのは亜里沙だった。


亜里沙にもジャージが配布されているが、番号部分に『333』と書かれていた。


「1〜99は選手が選ぶ番号だからなるべく空けておきたいんだ。それ以外ならマネージャーだって番号があってもいいだろ?」


アイスホッケーで使える背番号は1〜99だ。


これなら番号が被る心配もないし、チームの一員である気持ちになれる。


「背番号なんて初めて・・・!」


亜里沙はそう言うと、ジャージを大事そうに抱えていた。


「全員配り終わったな。じゃあ今日からそれを着て陸トレ開始だ!大上ホッケー部として頑張ってくれよ?」


川上先生がそう言うと、気持ちが引き締まる。


「じゃあ放課後部室前だ!解散!」


いつもの号令の後、新品のジャージを抱えて俺たちは教室に戻っていった。

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