テスト勝負!
翌日
入学式直後に行われたテストの結果が返却される時が来た。
今回は科目も少なく、単純なものが多いため返却は担任からまとめて行われるようだ。
昨日の夜、紅音さんにテストの感触とお礼のメッセージを送った。
『終わったものはどう足掻いても変わらないからね。結果、楽しみにしてるよ!』
紅音さんから返信があってから布団に入ったが、さすがに結果が自分以外にも影響を及ぼすことになるのは気が気じゃなく、なかなか寝付けなかった。
クラスでは返却が始まる。
「呼ばれたら撮りにこいよ〜」
担任がそう言いながら返却を始めた。
「滝澤〜」
いよいよ名前が呼ばれて返却の瞬間だ。
解答用紙は3枚あり、まとめて折り畳まれている。
もらってすぐに点数を確認する人もいたが、俺は席まで確認することができなかった。
一呼吸置いて、開封の瞬間・・・
「ミヤ!どうだった???」
そう肩を叩きながら樹が話しかけてきた。
「なんだ、まだ見てねぇのかよ。お前にしては珍しいな。中学じゃすぐ見てたのに。俺はこんな感じだったぞ?」
そう言うと樹はなんのためらいもなく、自分の解答用紙を俺に見せてきた。
「漢字92点、数学80点、英単語95点かぁ。悪くはないけどちょっと準備不足だったかな?」
普通なら嫌味にも聞こえそうだが、俺と樹の仲なのでそう言われても特に気にはしない。
「やっぱり樹はすげぇな。」
そう言いつつ、解答用紙を開けない自分がいた。
「ミヤ、いつまでそうやってんだよ?ほら、開いてみ?」
通常は自分一人で確認したいところだが、先に見せてもらったことと特に隠す相手でもないので樹の前で開くことにした。
一枚目を捲ると漢字の結果が出てきた。
記載された数字は82点。
「おぉ、ミヤの割には頑張ったじゃん」
背中をバシバシ叩かれながら樹に言われたが、正直入学トップ相手に最初に82点の点数は喜べなかった。
「ん〜、もう少し頑張れたかなぁ?」
俺が不満そうに言うと、樹が次の結果を急かすようにジェスチャーしてきた。
漢字テストの解答用紙を横に置くと、数学の結果が出てきた。
え?
「待って?は?」
俺はそこに書き込まれた点数を目にして、言葉にならない声を出しながら、樹にすがった。
「ミヤ・・・おまえ・・・これ・・・」
樹も言葉にならない声を繰り返していた。
点数は100点とあった。
下には◯ばかりが並んでいる。
「た・・・樹・・・・!どうしよう???俺満点取っちゃった・・・・」
夢なのか現実なのかもうよくわからなくなっていた。
「おま・・・カンニングじゃないよな?いや、途中計算があるからカンニングは無理か・・・」
樹も俺が満点を取ったことが信じられないようだ。
2人でたった今起こっている現実を受け入れられずにいよいよ言葉を失っていると席の横を人が通り、風で数学の解答用紙が捲れた。
出てきたのは英単語の結果だ。
「ミヤ・・・これ・・・お前らしいわ・・・w」
樹が正気を取り戻し、そう言った。
英単語は74点。
最も感触がなかった英単語がこれだった。
「いや、俺もがんばったんだぞ?数学に力入れすぎたけど・・・」
俺がそう言うと、樹が席へ戻る途中で言った。
「けど数学すげぇな。俺の惨敗だ。」
そう言いながら戻ると、樹は肩を落としていたように見えた。
ただ、俺が数学で満点!?
いや、しかしこの点数で学年1位の宮崎綾愛に勝負できるのか・・・
けど数学で満点なんて、小学校の算数のテスト以来だぞ・・?
嬉しい気持ちと勝負の心配が交互に押し寄せ、いてもたってもいられなくなった。
とりあえず紅音さんにはメッセージをしなければならないと思い、先生の目を盗みながら机の中でなんとか得点を打ち込み、確認した後送信ボタンを押した。
しかし、やっぱり勝負は厳しいか・・・
そう思っているうちにホームルームは終了した。
休み時間となり、樹に勝負のことを言おうとしたその時、教室の扉が勢いよく開く音がした。
その音に驚いて教室入り口を見ると、宮崎綾愛が見えた。
すごい勢いで教室に入ってきた。
周囲では、入学式代表挨拶をしたことで名前を知られているためか、ヒソヒソと話し声が聞こえる。
姉の紅音さんに負けずとも劣らずの美人であり、身長も170cm近くはありそうだ。
あぁ、こいつに負けたのか・・・と悔しい気持ちでいっぱいになっていると、まっすぐこちらへ向かってきた。
いや、俺の存在は知らないはず。
知っていたとしても、顔と名前は一致していないはずだ。
きっと俺の後ろの席のやつが元中学が同じで、そいつに用事があるに違いない。
そう思ってその場をやり過ごそうとしていると、宮崎綾愛は俺の目の前で止まった。
「ちょっといい?」
そう言うと、宮崎綾愛は後ろを向いて歩き出した。
俺?なんで知ってんだ?
わけがわからず、さらには宮崎綾愛は確実に怒っている雰囲気だった。
なぜ俺が悪者になっているのか・・・。
ただ、ここで逃げるわけにもいかないので気が進まないが俺は宮崎綾愛について行った。
階段横の少し広くなったスペースまで行くと、宮崎綾愛は振り向いて紙を広げてきた。
「私の結果」
ものすごく無愛想に放たれた言葉だった。
目の前に出された解答用紙を見ると、漢字100点、数学98点、英単語100点だった。
見事に惨敗した。
「紅音に聞いたけど数学満点だったんでしょ?」
惨敗して落ち込んでいる俺に宮崎綾愛はイライラした様子で話してきた。
「え・・・あ、うん」
頭の中が紅音さんになんてお詫びしようと思っていた最中、突然満点の話が出てきたので混乱してまた言葉にならない声を出してしまった。
「あ〜もう!最悪!意味わかんない!」
そう言うと、嵐のように去って行った。
「なんだったんだ?総合で俺が負けたじゃん・・・ってか、勝負のこと知ってたのか?」
そう独り言を言って呆然としていると、スマホが鳴った。
グループが作られ、そこには蒼にぃちゃんと紅音さんがいた。
紅音『ミヤ〜満点おめでと〜』
蒼『惜しかったなぁ。ホッケーも1Pだけ勝っても総合で負けたら負けだからなぁ』
そうだ・・・俺は宮崎綾愛に勝負で負けた。
紅音『けど英単語は元々勝負にならないよ〜。綾愛は私より長くこっちにいたからね〜。』
そうだったのか・・・。そうなると、漢字で負けたのは惨敗と言ったところか・・・
都『紅音さんすいません。俺のせいで・・・』
率直に気持ちを打ち込むと、即座に返信が来た。
紅音『けど満点だし、私が教えたのは数学だし、勝ちは勝ちじゃない?けど蒼がそこまで言うなら・・・負け?』
確かに紅音さんからは数学しか教えてもらっていない。
漢字と英単語で負けたのは、俺の努力不足だ。
蒼『まぁ負けは負けだよな。負けの代償はショックかもしれないけど、勝負は勝負だ。』
負けの代償?
負けた時の話は一切聞いていなかった。
都『負けの代償って何?』
そう送信すると即座に紅音さんからの返信があった。
紅音『あ・・・ごめん!言うの忘れてた!ミヤが負けたら中学のユニフォームちょうだいって話だったの』
ユニフォームをあげる?
そんな話聞いていないし、名前入りの、さらにはキャプテンの証であるCマークもついていて、それをあげるだなんて代償が大きすぎる。
都『そんな話・・・それって酷すぎません?』
話をしていたかもしれないが、完全に後出しジャンケンだ。
蒼『聞いてないで勝負は都がかわいそうだな・・・。じゃあレンタルはどうだ?1年間ユニフォームをレンタルするってことで』
レンタル?
確実に返還されるのであれば、相手も蒼にぃちゃんと紅音さんだし、紅音さんに教えてもらった恩もあるので承諾せざるを得ない。
都『貸すのであれば・・・。蒼にぃちゃんからスタジャンももらったし。わかりました。レンタルですよ?返してくださいね?」
渋々だがOKした。
紅音『サンキュー!やったね!んじゃ、私はすぐ取りに行けないから綾愛に取りに行かせるから!蒼!ちょっと話がある!』
たまに紅音さんは怖い・・・。
蒼『ミヤ、今日部活は?』
今週は1年生と2、3年生で下校時間が異なるため、部活は来週からとなっていた。
都『部活は来週からだよ。下校時間が違うから合わせにくいみたい』
蒼『了解。じゃあ多分今日ユニフォーム取りに綾愛が行くはずだ。連絡先教えておくからあとはよろしく!』
そう言うと、2人からの返信がなくなった。
宮崎綾愛もあの剣幕で去って行って、どんな顔をして撮りにくるのだろう・・・。
そうしてその日の学校は終わった。
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家についてすぐ、スマホが鳴った。
宮崎綾愛からだ。
綾愛『どこに行けばいい?蒼の家の近くには来てるんだけど』
アイコンは紅音さんとのツーショットだった。
仲の良さが伺える。
蒼にぃちゃんの家ならうちと目と鼻の先だ。
近くに公園があるので、マップ付きでメッセージを送った。
都『もう家に着いているからすぐ行く。ここの公園に来て。』
そう返信した後、3年間の思い出が詰まったユニフォームを袋に入れて公園へ出かけた。
公園に着くと、宮崎綾愛はすでに到着しておりベンチに座っていた。
スマホをいじっているのでこちらには気づかない。
「宮崎・・・さん?」
俺が目の前まで行って声をかけると宮崎綾愛は顔を上げた。
「座れば?」
顔を上げた瞬間は目が合ったものの、すぐに視線を逸らしながら宮崎綾愛は言った。
嫌われているのか?
とりあえず横に座り、ユニフォームを差し出そうとしたがその前に宮崎綾愛が口を開いた。
「宮崎さんて、なんか嫌。」
ん?
そう言われても、今日初めて会ったばかりだぞ?
「えっと・・・でも今日初めて話したからさ・・・」
そう言うと
「綾愛でいい。」
とてつもなく無愛想に言われた。
「ん・・・じゃあ俺も・・・」
そう言いかけた瞬間。
「ミヤでいいよね?」
突然宮崎綾愛、いや、綾愛はこちらに視線を向けて言った。
「お・・・おぉ・・・・」
勢いに圧倒されてしまった。
今日の一件がなければ、普通に美人として認識していただろう。
その一件について考えていると綾愛が口を開いた。
「今日はごめんね。初めて話したのに。普段は数学でミスすることないはずなのにちょっとミスっちゃって満点逃して、そしたら紅音からミヤが100点だったって連絡があって・・・つい・・・」
気まずそうに話し始めた。
そもそも勝負のことは知っていたらしい。
「勝負について知ってたんだ?俺ユニフォームがかかってたの全然知らなくてさ。綾愛が去ってったすぐ後に知ったんだ」
そう言うと、再び今朝の表情に戻った綾愛が言った。
「は?マジ?紅音のやつ、肝心なこと言わないんだから!ほんとひどすぎ!」
たまに怖くなる紅音さんと負けないくらい、綾愛も怖い・・・
「後出しジャンケンだったから1年レンタルってことになってよかったかも?・・・はい、これ。よろしく。1年後、ちゃんと返してね?」
そう言いながらユニフォームの入った袋を手渡した。
受け取った綾愛はユニフォームを広げた。
一瞬ではあるが、満面の笑顔を見せたように見えたが、すぐに元の表情に戻った。
「じゃあこれ、紅音が帰ってきたら渡しとくね!あいつ明日、ってか向こうでは今日か。アメリカで蒼とデートすんだよ?」
綾愛がまた怒り顔で言った。
グループで話があると言っていたのは、リアルで2人が会っていたからだったのか。
「大学には研究の用事とかなんだとかうまいこと言ってサボりやがって!許せない!」
なぜここまで紅音さんに対して怒っているのかわからないが、一応なだめなければ・・・
「ま・・・まぁまぁ。滅多に会えない2人だから少しくらい多めに見ても・・・ね?」
そう俺が言うと、綾愛は一呼吸置いて少し落ち着きを見せた。
「ふぅ・・・。憧れの人と付き合えてるからほんと紅音は幸せ者だよ。私は・・・」
『私は』と言ったような気がしたが、よく聞き取れないくらい小さい声になっていて確証が得られなかった。
「えっ?」
俺が聞き返すと即座に
「なんでもない!今日はありがと!じゃあね!」
そう言うと、綾愛は即座にその場を離れてしまった。
「う・・・うん。わざわざありがとう」
なんとか返事はしたものの、色々と不明点もあるため少し公園で考え込んでしまった。
ユニフォームを見た時の笑顔はなんだったんだ?
私は・・・?
次の日、目が覚めると夜中にグループのメッセージが入っていた。
それと同時に、そのグループに綾愛も追加されていた。
恐らくアメリカのディズニーランドであろう場所で、蒼にぃちゃんと紅音さん、そしてその隣には大きなクマのぬいぐるみが抱えられた写真が1枚貼り付けられていた。
その下には綾愛のメッセージがある。
綾愛『ねぇ、ずるくない?』
その下には紅音さんの聞こえないフリのスタンプ。
そして蒼にぃちゃんが滝汗スタンプ。
どうやら自分はユニフォームを取られ、さらには紅音さんはしっかり報酬を受け取ったようだ。
恐らく自分が教えた数学では俺が勝っていたから報酬がないのはおかしいと迫ったのだろう。
ほんと、蒼にぃちゃんに迫れるとはすごい人だ。
『おしあわせに』と書かれたスタンプを送信し、朝の準備を進めた。
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