自己紹介!

「じゃあ自己紹介するやつは立って始めてくれ。待たなくていいからな」


川上先生が1年生を見て言った。


なかなかハードルが高い。


自己紹介に自信はないが、トップバッターは緊張する。


『ガタッ』


悩んでるとすぐ横の小柄な1年生が立ち上がった。


「じ、自分は広西中出身、東海斗(アズマカイト)です!ポジションはFW!よろしくお願いします!」


自己紹介が終わると盛大な拍手が起こった。


すると川上先生が言った。


「トップバッターは緊張するだろ?けどな、みんなの印象に残りやすいんだ。東、よく頑張ったな!」


そういうと小柄な1年生は少し照れた様子で着席した。


すると即座に別の1年生が立ち上がる。


「自分は駿河中出身、山口龍(やまぐちりゅう)です。ポジションはFW!よろしくお願いします!」


龍!


小学校の選抜で同じだった龍だ。


身長は170後半で、体格が小学生とは思えなくパワーで押し切るタイプのFWだ。


龍がいると心強い。


当然、自己紹介が終わると拍手だ。


「山口か。兄貴はもう大学に行ったのか?この春卒業していったからな。兄貴以上に期待しているぞ!」


川上先生がそう言うと、2、3年生もざわざわしていた。


そう、龍には3つ上の兄がいて、去年まで大上のエースだった。


そのプレーが買われ、関東一部リーグに所属する大学へ進学したばかりだった。


「はい!卒業式が終わってすぐに向こうへ行きました!よろしくお願いします!」


そう言うと、龍は着席した。


座ってすぐに別の1年生が立ち上がる。


「佐賀智弘(サガトモヒロ)です。ポジションはキーパー。青葉第一中出身です。キーパーで出れるチャンスは少ないかもしれませんが、よろしくお願いします。」


トモも選抜で同じだった。


身体が大きく、今は恐らく180半ばくらいはありそうだ。


「佐賀、でかいなぁ。身長は?」


川上先生が目を丸くして聞いた。


「185cmです。」


そう言い終わると、ゆっくりと座った。


トモは人前で喋るのが苦手だが、氷の上では積極的に支持を出すほど性格が変わる面白いやつだ。


残りはマネージャーを抜いて3人。


ここいらで行っておかないとならない・・・!


えぇい!どうにでもなれ!


そう決心し、勢いよく立ち上がった。


『ガタガタッ』


勢いよく立ち上がりすぎて、椅子が倒れてしまった。


慌てて椅子を直す自分に向けて川上先生が


「なんだ、緊張したか!?大丈夫だ。この自己紹介よりインターハイの方がよっぽど緊張するぞ?」


と言われ、ますます恥ずかしくなった。


それと同時に、インターハイを考えると確かにそんな緊張する必要もなく、自ずと楽になれて自己紹介を始められた。


「自分は滝澤都です!青雲中出身!ポジションはDFです!大上には昔から憧れていて入学しました!」


大声で言うと川上先生が


「うちの学校のどこに憧れてたんだ?」


まるで面接官のように質問してきた。


「あお・・・白峰さんが所属していたアイスホッケー部があるからです!」


そう言うと、2、3年生の目の奥が光るのがわかった。


「そうか!蒼が連絡してきたやつは滝澤のことだったのか!話は聞いてる!3年間しっかり頑張れ!」


蒼にぃちゃんは川上先生にも連絡してくれていたんだ。


その事実だけで嬉しさが込み上げてきた。


すると川上先生が1年生に向けて言った。


「1年生で知らない奴もいるかもしれないから話しておく。白峰蒼は俺がこの学校に来た当時の部員だった。とんでもない努力家でな。蒼が3年の時、インターハイで優勝したんだ。今はアメリカに行って大活躍だ。日本人初のプレーヤーNHL選手になるかもな?」


そう先生が言い終わると、清田さんが立ち上がり口を開いた。


「白峰さんと入れ替わりで俺たちが入った。そこから俺たちは1年生の時こそインターハイに出場できたが、去年は逃している。だから今年こそは、インターハイに出る気満々なんだ。そのつもりで一緒に頑張ろう!」


そう言い終わると、1年生が口々に「はい!」と自然と声が出た。


自分の自己紹介が終わり座ると、さっきどこかで見たことのあるやつが立ち上がった。


「今朝陽(コンアサヒ)です。ポジションはDFです。西ヶ峰中でキャプテンでした。よろしくお願いします。」


西ヶ峰・・・


そうか。


あの試合でキャプテンだったから覚えていたんだ。


試合前の挨拶で握手したけど、顔はそこまで覚えていなかった。


身長は俺と同じくらいか・・・


そう考えていると、川上先生が口を発した。


「通りでさっきのバズーカでも微動だにしなかったんだな。どうだ?全国一位になった感想は?」


そう言われた今は少し考えて


「もう一度味わいたいくらい最高でした。だから、インターハイ出場じゃなくてインターハイ優勝を目指します!」


そう言うと静かに座った。


「だってよ、清田!インターハイ出場じゃ足りないってよ。優勝目指すぞ!」


そう川上先生が言うとすぐに清田さんがまっすぐ先生を見て


「はい!」


と返事をした。


周りの先輩たちからも肩を叩かれている。


盛り上がりが収まった頃、川上先生が今に向けて訪ねた。


「ところで差し支えなければ聞きたいんだが、なんで東豊市からこっちに来たんだ?色々推薦もあっただろうし、あっちにいた方が環境的に良いだろ?」


聞かれた今は答えた。


「自分が小学6年の時に家族がこっちに引っ越してきてて、祖父母の家で中学3年間過ごしてたんです。その頃に大上の試合見て、絶対に来たいと思ってました。」


蒼にぃちゃんがいた時代の大上だ。


「自分のしたいホッケーが大上だったので、それで目指しました。」


すると川上先生が


「そうだったんだな。大上のホッケーを好きになってくれてありがとう!」


そう言い終えると、続けて


「さて、プレイヤーではもう一人だけになったが・・・大丈夫か?できるか?」


そう言うと、残り一人に注目が集まった。


見るとさっき驚いて椅子から転げ落ちてたやつだ。


「は・・・はいっ!東京のあずま台東中出身、藤澤太一です!FWです!」


オロオロしながらも答えた。


「東京からわざわざか。なんでまた厚条市の、さらに大上なんて来たんだ?」


川上先生がそう尋ねると藤澤は恥ずかしそうに言った。


「東京でホッケーやってた時、インターハイの決勝を見て・・・そこから大上に来たいって思いました。」


なんと、蒼にぃちゃんのプレーを見たことのある人物か6人中3人もいるなんて驚きだ。


「そうか。あの決勝はほんと奇跡みたいなもんだったんだけどな。それでも印象に残ってよかったよ!厚条にはご両親も来てるのか?」


そう聞くと藤澤は答えた。


「はい。元々父の実家が厚条市だったこともあってよく来てました。父もリモートでできる仕事なのでこっちに引っ越してきたんです。」


今といい藤澤といい、すごい覚悟だ。


「今と藤澤はまだ厚条市に慣れているわけではないから色々と大変かもしれない。そこまでして大上でホッケーがやりたいって思ってくれたこと、本当に嬉しく思う。もし家族でも困ったことがあれば相談してくれ。できる限り力になるから!」


そう言い終わり一息つくと、先生は残り一人のマネージャーに目を向けた。


即座に立ち上がり


「あっ・・・えっと・・・佐藤亜里沙(さとうありさ)です!一つ上に兄がいてホッケーはずっと見てました。大上の試合も見てて・・・えっと・・・その・・・杉浦先輩に憧れて来ました!」


そう言うと、顔を真っ赤にして座ってしまった。


「ほぉ。杉浦。だそうだ。はい、杉浦さんから一言」


そう言うと、奥に座っていた女子生徒が立ち上がり話し始めた。


「杉浦絵真(すぎうらえま)です。憧れるほどの仕事した記憶はないけどありがとう。」


そう短く括った。


杉浦さんの髪は長く、正に大和撫子的な感じでファンもさぞかし多いだろう。


「ということで、佐藤、しっかり杉浦に仕事教えてもらってくれよ」


そう聞くと佐藤さんは深くうなづいた。


「さぁ、ここで部活動オリエンテーションは終わりだな。ここから2、3年生は陸トレに入れ。杉浦は佐藤に今日から仕事を教えてやってくれ。田島先生、陸トレお願いします。」


そう指示を出すと、2、3年生は即座に机を元に戻し、行動を開始した。


自分達も周囲に合わせる形で机を元に戻す作業に取り掛かった。


佐藤さんも杉浦さんに促される感じでみんなについていった。


「さて、1年生はここからしばらくお勉強だ」


突然の川上先生の言葉に、全員の頭の上にはてなが浮かぶ。


「身体を動かす前にお前らは絶対に理解しなければならない、身体ができるまでと栄養についてだ」


そう言われると、確かに今から身体を酷使するのに知っておいたほうが良い内容だ。


ただ、今までも普通にホッケーできていたので絶対と言われてもあまりピンとこない。


それを感じ取ったのか、先生はこう言った。


「身体が大きくならない、疲労で怪我をする、さらには選手生命が断たれる・・・なんて人間をたくさん見て来た。」


確かに、高校や大学、プロでは聞かない話ではない。


「さらに、俺もその一人だ」


そう言うと先生は、左足を捲って見せた。


そこには小さな傷跡がいくつかあった。


「俺は大学最後のインカレでホッケーを最後にしようと思ってたが、縁あって社会人チームで楽しんでた。けどこの傷、前十字靭帯断裂と半月板損傷だ。」


難しい単語が並ぶ。


それがどれくらいの怪我なのかわからない。


「2週間の入院手術、5週間完全に左足を浮かせた状態、さらには10ヶ月のリハビリの後、1年後にピンを抜く手術だ。」


疑問に思ったことに的確に答えてくる。


先生はエスパーなのか。


「これがきっかけで俺はプレイヤーとして引退することになった。まぁ今でもある意味スポーツの趣味はあるが、これが社会人じゃなくお前らだったらどうだ?高校のホッケー人生はもう諦めなきゃいけないぞ?」


そう考えるとゾッとした。


せっかく大上でホッケーをやりたくて入ったのに、怪我でもうホッケーができなくなると思うと悲しさが込み上げる。


「前十字靭帯は衝撃で断裂することが多いが、俺の場合は栄養バランスと筋力バランスが崩れた結果だった。大きなきっかけがあったわけじゃない。そう考えると、身体の作り方と動かし方を覚えておいて損はないだろ?」


先生の言葉に全員が前のめりになった。


ここにいる全員がホッケーがやりたくて、怪我などでできなくなることは避けたかったからだ。


「とりあえず今から話す内容は諸説あるから、受け入れられない部分があれば後でもいいから言ってくれ。」


そう言うと、黒板を背にした先生が授業を始めようとした。


「ちなみに、否定するのはいいが今から話す内容は、栄養士、理学療法士、柔道整復師、薬剤師、プロチームトレーナーから集めた情報だ。否定された場合、それらの人たちに再確認してくる。理論も変わる場合があるしな。」


少し悪い顔をした先生が言った。


「もちろん全て実行する必要もない。ただ、チームの共通意識として持っておいてほしい知識だ。」


そう言うと、先生は講義を始めた。

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