入部!
入学式翌日は学校説明だったりカリキュラムの話、進路の話や対面式があった。
大上はとにかく部活が多いので、各部活の部活紹介などはなかったのが残念だった。
ただ、入部希望者は今日の放課後3年2組に集まるように言われた。
もういても立ってもいられなくて、すぐにでも教室を飛び出したいところだった。
「ミヤ、がんばってこいよ!」
部活道具を持ってきている樹が声をかけてくれた。
「おう!樹の分までな!」
ガッツポーズを見せながら、3年2組へ急いだ。
すでに2、3年生は対面式の後すぐに下校している。
目指す3年2組を見つけた俺は、扉を開けるなり
「っしゃーーーっす」
と、礼をしながら挨拶をした。
ホッケー部の2、3年生は残っており、一斉に自分に視線が集まるのがわかった。
しかもみんな坊主頭だ。
「お、1年か。どっか適当なとこ座れや」
教壇にいた先生が俺を席に促した。
真っ赤なシャツにサングラスをかけロン毛・・・
とても先生には見えなかった。
「失礼します!」
そう言うと、一番前の席には座った。
しかし、1年生は自分1人。
緊張して周りが見えなかった。
不思議と2、3年生も誰も話していない。
坂井さんがいるはずなんだけど・・・
さらに、ひょっとして1年生の入部は自分一人なんではなかろうかと思い、これから始まる3年間を不安視せざるを得なかった。
そんな時に
「失礼します」
『来たっ!』
心の中で大声で叫びつつ、入ってきた人物の顔を見た。
どこかで見たような気がする・・・。
すぐにどこで見たかはわからなかった。
それから1年生が6人ほど入ってきて、合計7人となった。
「よし、7人全員が来るとはびっくりだ。事前にホッケー部だったやつは7人だから、多分これ以上は来ないだろう。」
先生が話し始めた。
「お前ら1年、ここを大上のただの部活と思うなよ。地獄なんて甘いもんじゃないからな。」
低い声で、しかもそこまで大きくない声で先生は言った。
2、3年生も微動だにしない。
これが高校の部活なのかと覚悟を決めざるを得なかった。
「おいそこの!どこ向いてんだ!おい!」
後ろの一年生であろう人物が先生に怒られている。
ここが軍隊じゃないかと勘違いするほど厳しい部活なのだろう。
「今年の一年はだらしねぇ。とりあえず俺がいいって言うまで『ガマン』だ。背筋張って真っ直ぐ前見て、じっとして喋んじゃねぇ!」
これがホッケーとなんの関係があるのだろうか。
沈黙が続く。
「フラフラ動いてんじゃねぇ!」
容赦無く飛ぶ罵声。
「まだわかんねぇのか!コラ!」
先生がそう叫ぶと、着ていたスーツを脱ぎ捨て生徒に向かっていった。
体はプロレスラーかビルダーではないかというほど大きい。
「お前はうちの部にはいらねぇんだよ!」
一人の生徒が胸ぐらを掴まれ、椅子から持ち上げられた音がした。
『バシッ』
殴られるような音と同時に、机や椅子が倒れる音がした。
「お前は出ていけ!」
殴られた後先生にそう言われると、その生徒は前の席から教室を後にした。
血を流しながら・・・
それからもうどれくらい経っただろう。
あれほど憧れていた大上ホッケー部が、まさかこんな部活だったとは。
現代において、体罰は許されるものではない。
後悔と恐怖が入り乱れ、少しの音も出せない雰囲気が続く。
『バーーーン』
突然後ろから破裂音がした。
今度はなんだ・・・
驚いて少し飛び上がり、思わず後ろを見た。
椅子から転げ落ちている1年生もいる。
見ると迷彩服を着て大砲を持っている人が立っていた。
本当にここは軍隊なんだ・・・
頭が混乱していたその時
『パーン』
『パパーン』
今度は横で破裂音
見ると2、3年生がクラッカーを鳴らしていた。
「え?え??」
即座に横断幕が開かれた。
そこに書かれていた文字が目に入った
『駆けろ!』
『大上高等学校氷球部OB一同』
その文字を見て唖然としていると
「ようこそ!大上氷球部へ!」
一同が大声で叫んだ。
それと同時に、2、3年生が爆笑している。
「マジで今年の1年めっちゃビビってね!?」
「ギャハハハ!ヤベェマジでwww」
「椅子から落ちることないよな!?www」
気づくと2、3年生の頭には髪がある。
ズラだったのか!?!?
「おいおい、この演出が素晴らしいと言え!」
そう言いながら、先生はサングラスとカツラを外してみんなに笑いかけた。
「今年はかなり大掛かりでしたねぇ」
迷彩服の人物も前に移動してきた。
「マジで自分の演技上手くなかったっすか!?」
そう言うと、さっき血を流しながら教室を後にした生徒が戻ってきた。
よく見ると上靴が2年生だ。
「確かに、よくあれだけの演技できたよな!主演男優賞だ!」
先生がそう言いながら頭を撫でると、その生徒はにっこり笑っている。
血どころか、顔も腫れていない。
殴られたフリだったのか。
「この学校は部活紹介もないからな。こんな感じの大上高校ホッケー部だ。ふざけるときでもどんなときでも真剣にだ!」
大上高校に来たことを一瞬後悔した自分が恥ずかしい。
そもそも、蒼にぃちゃんが悪く言ったことのない部だ。
本当に最高の部なのかもしれない。
「じゃあとりあえず自己紹介だな。俺は顧問の川上拓也だ。大上にはもう長いこといる。科目は地理歴史公民科・・・と言っても1年には馴染みがないか。社会科だ。よろしくな。」
そう先生が話し始めると、騒いでいた2、3年生がすぐに黙って先生を見つめている。
これがインターハイ出場校の部活だと感じた。
すると迷彩服の人物が話し始めた。
「私は田島祐介です。川上先生と一緒に大上ホッケー部の顧問をしています。科目は国語ですね。よろしく。」
この人も先生、さらに顧問だったとは・・・
続けて川上先生が話し始めた。
「俺は元々DFで、田島先生は現役時代キーパーだった。FW出身の指導者がいないところが痛いが、たまに特別ゲストが来て教えてもらうこともあるので安心してくれ。」
それでこの体格なのか。
キーパーコーチが専属でいる高校は珍しい。
大上の強さの1つかもしれない。
「この後自己紹介をしたいところなんだが、2、3年生は追々覚えてくれ。これは自分の時がそうだったが、ただでさえ同級生を覚えなきゃいけないのに先輩も覚えなきゃいけないとなると大変だ。さらに名前を忘れると当時は鉄拳が飛んできたからな。2、3年生もそのつもりで」
そう先生が言うと
「はいっ!」
と、部員が声を揃えていった。
「ただキャプテンだけは覚えてくれ。おい、清田!前に出てきて挨拶」
「はい!」
返事が聞こえると、一人の生徒が前に出た。
体はそこまで大きくなく、170cm前半といったところだ。
ただし体格が良い。
大きいと言うわけではないが、運動に理想的な体型をしていた。
「1年生、大上高校アイスホッケー部キャプテンの清田大地だ。うちの部は今、2年生5人、3年生6人、それと3年生のマネージャー1人の12人だった。それに1年生6人の合計18人になったな。よろし・・・」
清田さんが話し終えようとした時、突然後ろからガタガタっと音がした。
「あのっ・・・」
入口には1人の女子生徒がいた。
上靴を見るに、1年生だ。
すると座っていた1人の生徒が頭を抱える。
「亜里沙・・・お前なんで遅れて・・・すいません先生・・・妹が・・・」
頭を抱えていた生徒が呟くと、入ってきた女子生徒が口を開いた。
「マネージャーも募集してますか?」
そう言うと、川上先生は女子生徒に笑いかけながら
「おぉ、佐藤の妹か!もちろんだ!よろしく頼むぞ!」
と言い、続けて田島先生が
「じゃあ席についてください。これで1年生7人になったわけですね」
とその場を収めた。
「では改めて、1年生7人、2年生5人、3年生7人の19人、よろしく!」
そう言うとキャプテンは席についた。
「よし、じゃあ1年生だけ自己紹介をしてもらおうか。1年生同志顔と名前を覚えるのはもちろんのこと、2、3年生は積極的に声をかけてやるように!じゃあ席移動!」
そう川上呼びかけると、2、3年生はすぐに教室全体の机の配置を変え、円状の配置にした。
確かにこの方が全員の顔が見える。
「じゃあ1年生、自己紹介よろしく!誰からでもいいぞ!?自信のないやつからな」
そう川上先生が言うと、自己紹介が始まった。
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