入学

「いよいよ大上生になるんだ・・・!」


大上高校の校門を前に立ち止まり、息を整えた。


蒼にぃちゃんの後輩


ホッケー部への入部


そして・・・


入学式テスト・・・


今日までトレーニングの合間に紅音さんからリモートでの家庭教師を受けながら、数学は頑張ることができた。


しかし漢字と英単語は完璧とはいえない・・・


果たして入学トップの宮崎綾愛に勝てるのか。


負ければここまで力になってくれた紅音さんの報酬が0に・・・


そんなことを考えても仕方ない。


やってみなくちゃわからない!


そんなことを考えながら大上高校へ足を踏み入れようとしたその時


「おつかれ〜!」


思いっきり背中を叩かれた。


正体は樹だった。


「んだよ!樹!人がせっかく高校生への第一歩を踏み出そうとした瞬間だったのに!」


俺は人生の思い出になるであろう瞬間を邪魔され、少々苛ついていた。


「そんなに神妙になるこたないだろ?それより入学式テスト、大丈夫か?」


樹に助けを求めていたので、心配してくれていたらしい。


「準備万端ではないけどやれるだけやるかな?樹は?」


忙しいと言っていたので、俺は心配になり逆に聞いてみた。


「ん〜、俺春休みからバスケの練習出てたから全然やる時間なくてなぁ・・・」


春休み中から部活に出ていたことを聞き、衝撃と羨ましさが同時に押し寄せてきた。


「部活に!?春休みから!?なんで!?何で出れたんだよ!」


樹の肩を持ち揺さぶりながら俺は聞いた。


「いや、バスケ部の先輩がいるんだよ。で、こっそり練習に混ぜてもらってたんだ。」


揺さぶられる樹は俺の手を振り解いてそう言った。


「なんだよ・・・いいなぁ・・・俺もホッケー部の練習に出させてもらえばよかった・・・」


中学の先輩で2つ上の坂井斗真という人が大上アイスホッケー部に所属しているので、樹の原理で言えば練習に出させてもらえるはずだった。


「無理言うなよ。こっちのリンクはすでに閉鎖になってるし、ホッケー部は遠征行ってたらしいぞ?」


確かにこっちのリンクはすでに休業期間に入り閉鎖されている。


しかも遠征・・・


「遠征かぁ・・・。やっぱりすげぇんだな大上って!」


遠征という言葉を聞いてテンションを上げずにはいられなかった。


そうこう話しているうちに生徒玄関に着くと、クラスが張り出されていた。


「えっと・・・滝澤・・・滝澤・・・た・・・・タ・・・・お!あった!2組だ!」


大上はクラスが数字で割り振られている。


どうやら2組らしい。


少し下に目をやると、富条樹の名前もあった。


「お!樹!2組だぞ!同じ同じ!」


大上の1年は360人9クラスだ。


まさか同じクラスになるとは思ってもみなかった。


「おぉぉぉ!マジだ!まさか同じとはなぁ。よろしくな!ミヤ!」


「おう!よろしく!」


知らない人が大勢いる中で、クラスに元同じ部活のやつがいるのは心強かった。


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入学式


「滝澤都」


「はいっ!」


入学式特有の名前を呼ばれる行事だが、大上高校に入学を許可されたということが何より嬉しかった。


式は粛々と進んでいき、入学生代表挨拶となった。


「・・・入学生代表、宮崎綾愛」


そう挨拶を締めくくると、壇上から綾愛が降りてきた。


今回の勝負の相手は彼女だ。


『絶対勝つ』と思いながら見ていると、向こうもこっちを見た気がした。


しかし、すぐに視線を逸らして真っ直ぐ歩いて行き、自分の席に戻った。


見た気がしただけなのか本当にこちらを見たのかはわからない。


ただ、宣戦布告にも捉えられる。


俺はただ勝負の時を待った。


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そしていざ入学式テストが始まる。


終わってみるとあっけないものだった。


正直、漢字と英単語には自信がない。


しかし、数学は紅音さんの指導の甲斐あってかなり解けた気がする。


むしろ間違ったところが思いつかないほどだ。


「ありがとう、紅音さん・・・」


試験が終わり、気が抜けた俺は天を仰ぎながら心で呟いた。


そして明日はいよいよ対面式、そしてホッケー部に入部だ!

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