超えられない差

「一旦交代だ。」


俺が全員に向けて声をかけると、全員がベンチへ戻っていった。


アイスホッケーは特定の場合を除いて、自由に交代ができる。


通常開始5秒で笛が鳴っても交代はしないが、一旦仕切り直す必要があった。


「なんだよあれ・・・高校生かよ・・・」


敏樹が言った。


「マークサボったわけじゃないぞ?抜けられたんだよ。スルって・・・」


敏樹のテンションはガタ落ちしている。


「気を落としてばっかじゃいられないだろ!まずは1P、チェッキングラインとして出るぞ」


チェッキングライン。


通常は5人1セットのかたまりで数え、3セット目は1セット目、2セット目を休ませる目的で守り中心のプレーを行う。


チャンスになっても深く入らずにすぐにパックを放り込む、基本的に攻めの場面でも相手ゾーンに入るのは1人、もしくは2人程度であとは守りに徹するプレーとなる。


試合は1P(1ピリオド)から3P(3ピリオド)まで行われる。


得点の多かった方が勝者となるため、1Pはまずは守りに徹するということだ。


「マジか・・・俺たちが・・・?」


蓮が絶望にも似た表情でつぶやいた。


しかし、今までこんな相手とは試合をしたことがない。


苦肉の策だ。


「必ずチャンスはあるはずだ。それを狙おう」


俺たちに指示を出せる監督やコーチはいなかった。


顧問の先生は引率してくれるのみ。


それでも、学校から離れたリンクでの練習に毎回来てくれたり、こうして遠征に着いてきてくれるだけありがたい。


ただ、できることならアイスホッケーを知っている顧問のもとが良かった。


作戦を立てている最中に、第2セットが得点を取られてしまった。


「暗い顔してんじゃねぇよ。行くぞ!」


俺はそう言いながら樹の元へ行った。


「俺たちがまずは全力で守る。頼むぞ守護神!」


すると樹が


「頼むわ。どっからでも打ってくるしコースも半端じゃねぇ・・・」


いつもは強気の樹も暗い。


いくらキーパーのせいではないにしても、最後の砦であるが故にキーパーは落ち込む。


声をかけなければどんどん沈んでしまうため、声かけは忘れてはならない。


点数が決まった後は再び中央からのフェイスオフ。


パックが落ちた瞬間、再び攻められるかとも思ったが今度はマークできている。


守りに意識を集中させるとなんとかついてこれるようだ。


相手がゴール裏までフェンスにパックを滑らせながら放り込む。


こうなると、俺と相手FWのパックの取り合いだ。


追ってきたのは相手の18番。


体格差からいって勝ちを確信した。


先にパックを取り、前を向く。


相手の18番はアウト側からこっちに向かってくる。


方向づけだ。


「方向づけを突破できればパスコースは広がる・・・!」


そう思って、あえて相手のいる方へ進んでいき突破を図る。


ゴールから見て45度の位置に昇が見える。


蓮もうまい具合に戻ってきているので、パスコースが2つ。


相手を突破できればパスが出せる!


と思った次の瞬間・・・


「えっ・・・」


世界がひっくり返った。


何が起こったのかわからず、放心状態でいると・・・


『ピーーーーーーッ」


「18番!」


どうやら相手は販促を取られたようだ。


アイスホッケーの反則は反則をした選手がパックをキープするまで続行となる。


しかし、すぐに笛が鳴ったということは、何かしらの反則を受けてパックを取られたということだ。


「なにが・・・」


なんとか俺は立ち上がった。


するとぼんやりと18番の背中が見える。


「TAKAHASHI・・・」


ユニフォームに書かれた名前を読み上げた。


「おい、大丈夫か?」

「試合、出れるか?」


チームメイトが寄ってきて声をかけてくれる。


しかし、誰が声をかけてくれたか気にするよりもまずは盛り上げなければならない。


「大丈夫だ!それよりパワープレイだ!チャンス!」


アイスホッケーの反則は数分の退場となる。


今回はマイナーペナルティーなので2分間。


この間は5対4となり、5のほうからするとパワープレイ、4のほうからするとキルプレーと呼ばれる。


チャンスだという言葉に、一同が活気づく。


「1点取ってくるから!」


敏樹が明るく声をかけてくれた。


さぁ、ここからが反撃だ。

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