パワープレイ

力の差は歴然ではあるが、パワープレイならチャンスは見出せるはず。


ここで一矢報いるつもりでいる。


自陣でのフェイスオフは蓮がパックを引くことができた。


俺の元へパックが来た瞬間、敏樹が縦に走り出し長い縦パスが通る。


しかし相手も4人であることを自覚しており、すでに自陣へと戻っていた。


「敏樹!ステイ!」


通常パワープレイは相手エリアでセットポジションを組み、パスを回してチャンスを伺う。


相手もボックスという、4人が四角を作り守りを固めているので、早々得点が入るものでもない。


敏樹に続いて他のメンバーも一気に相手エリアへ流れ込む。


「敏樹!」


蓮が逆サイドからパスを呼ぶ。


ゴール裏のフェンスに反射させれば通る可能性が高い。


サイドが動くパスが続くと守りも崩れやすく、相手キーパーの位置もずれやすいので通ればチャンスが生まれる。


蓮がパスを呼んだことで、敏樹をマークしていた相手の気が一瞬後方の蓮に向いた。


その隙を敏樹は見逃さなかった。


「そっちじゃないんだよ!」


敏樹はサイドから一気にゴール前まで動き、シュートモーションに入った。


「昇!リバウンド!」


俺は昇に声をかけ、敏樹のシュートがこぼれたところを狙わせようとした。


敏樹もその声を理解したのか、低くて強いシュートを打った。


高いシュートだと得点する確率は高いが、キーパーの左手についている野球グローブのようなミットに取られてしまうとリバウンドが出ない。


さらに敏樹は、上がいるほうにシュートを打った。


昇もキーパーに近すぎず、ある程度の範囲をカバーできる位置に入り込めるタイミングの位置にいる。


低いシュートはキーパーのレガースに当たり、いつもならリバウンドが出て昇が無人のゴールへ叩き込むパターンだ。


しかし、リバウンドはゴール裏に飛んでいった。


「えっ・・・?」


シュートを打った敏樹が悔しさと不思議さで混乱している。


「敏樹!戻れ!」


すぐさま相手は俺たちのエリアへパックを投げ入れた。


5対5であればセンターライン手前から放り込んだパックがゴールラインを超えるとアイシングというルールがあるので試合が止められ自陣からのフェイスオフとなる。


しかし、キルプレーでは止められずに続行となるので、戻らなければピンチとなる。


ただ、相手も交代のタイミングで続々とベンチに戻っていったので、蓮がいち早くパックをキープしたのを確認して俺たちも後退した。


そして、納得がいっていない敏樹に向けて言った。


「リバウンドコントロールされてるよ」


俺は後ろから見ていたのでよく見えたが、シュートに対して相手キーパーがレガースの角度を調節し、リバウンドが叩かれる場所にパックを出さないようにしていた。


「マジかよ!そこまでできるなんてヤバすぎじゃん」


敏樹の言葉は半ば諦めにも似た言い方だった。


「マジで強いわ・・・ほんとに中学生かよ・・・」


普段弱音を吐かない駿までもこんな台詞を言った。


「どこまでできるかやるしかないだろ」


俺は自分に言い聞かせるように、全員に声をかけ続けた。

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