FACE OFF(フェイスオフ)
控室を後にし、いよいよリンクサイドに出た。
そこには眩しいくらいの照明と、目の前を製氷のためのザンボニーが通り過ぎていく。
「おい・・・あれ・・・」
駿が天井を指差す。
アメリカのプロリーグであるNHLでしか見たことのない、中央に大きな電光掲示板がある。
『西ヶ峰中 VS 青雲中』
この掲示板に自分達の中学校である青雲中の名前が入っていることが誇らしかった。
10分間の練習が始まる。
途中で蓮が
「相手、なんか身体でかくないか?」
不安そうに俺に話しかけてきた。
「んだよ、びびってんじゃねぇよ。よく見たらお前くらいなやつもいるじゃん」
蓮は身長が165cmほどだった。
「あ、あの18番か?確かに・・・。いいよな、身長のでかいやつは」
俺は身長がもう少しで180に届きそうだった。
「身長でホッケーするわけじゃないだろ?」
「まぁな」
うちのチームは身長が大きい方ではなかった。
DFの自分と駿、そして樹がかろうじて170cm後半で、あとは160台前半。
身長差は確かに不安になる。
「ブーーーーーッ!」
色々と考えているうちに、練習時間終了のブザーが鳴った。
いよいよ試合開始だ。
CFがサークル中央、FW2人がサイドに、そして後ろにDFがつく。
レフェリーがパックを落とす、FACE OFFで試合開始だ。
全員が位置に着いたのを確認し、蓮がリンクの中央、フェイスオフスポットに着く。
蓮はレフトハンドなので左に引きやすく、そのパックを素早く処理するために駿が少し前で構える。
「ピーーーーーーッ」
レフェリーのホイッスルが鳴り、両チームのCFが向き合う。
「パンッ」
試合が始まった。
と同時に、相手のCF、FW、さらにはDFの1人、合計4人がフリーの状態でこちらへ攻めてきた。
一瞬のうちに自チーム4人が抜かれ、自分1人に対して相手4人の状態。
通常は目の前の相手をマークするのでこんな状態になることはあり得ない。
つまり、1対1で全員が抜かれたのだ。
「おい!マーク!!!」
俺は必死で叫ぶが、現状が変わることはない。
「クソっ・・・」
なるべく4人に自由にさせないよう、さらにはパックキャリアをフリーで打たせない位置をとり、ジリジリ下がっていく。
しかし、1人が4人を止められるわけがない。
クロスパスを通され、GKのタツキが大きく横に振られる。
一瞬パックに意識が行ったが、次の瞬間後ろを何かが通った。
「マズっ・・・!!!」
注意がパックに移った瞬間、パスを出した相手が自分の裏側からゴール目がけて走り出した。
一番まずいのはGKの後ろ側に入られ、フリーで打たせること。
必死で相手に着いていく。
しかし、出遅れた俺は身体ひとつ分追いつかない。
ただしここで唯一の救いが、パックキャリアがゴールに近づきすぎてしまったことだ。
アイスホッケーはゴール裏も使うことができるが、角度0からシュートを打っても当然入らない。
さらには、パスを出してもGKにカットされる可能性が高い。
このままゴール裏に流れ込もうとした次の瞬間・・・
「なっ・・・・」
タツキが声にならない声を出した。
タツキがちょうど取れない高さでフライングパスを出してきたのだった。
ただ単にパックを浮かせるだけであれば、スティックで掬い上げるようにすれば簡単に上がる。
上がりはするが、それではコントロールが聞かないことと、パックの形状からしてヒラヒラと上がるだけなのでリンクに着いても強いシュートは打てない。
しかし相手の出したパスはパックに回転を効かし、横の状態でのフライングパス。
さらに俺のすぐ前にいる選手のブレードの手前でぴったり着氷した。
俺も必死になって滑り込むも、全く届かない。
得点が入った証である赤いランプとレフェリーのホイッスルの音が鳴り響いた。
「おい!FW、なにやってんだよ!仕事しろよ!」
タツキが叫んでいるのがわかる。
「ごめん、俺もマークできてなかった。」
タツキに対し、俺が謝る。
最悪の試合展開だ。
開始5秒で1点を取られた。
そして、俺たちは相手を甘く考えていた。
予想以上の強者が目の前にいたことをやっと悟ったのだった。
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