12.俺の我儘
「そういやさ、晴君ってりゅうくんと友達になってどんくらい経つの?」
と、翔太がたこ焼きをつまみながら訊いた。
俺達は山を下りてバスに乗り、西公園の花見広場までやって来た。冬よりかは暖かい風が吹いていて、立ち並ぶ木々に桜のつぼみを咲かせようとしているみたいだった。俺達はそこにある屋台でたこ焼きと焼き鳥を買って、ベンチで座って話していた。
「あー、一日くらい?」
と、焼き鳥を食べながら晴が答える……。え? そこ誤魔化すとこじゃない?
「へ?」
「あっいや、一年一年! 晴くん結構こういう時天然なことあるから!」
「あー、そう……」
俺は熱くてハフハフしていたたこ焼きを急いで飲み込んで言った。胸の奥がやけどしそうなくらいに熱い。晴は俺の方を見て、あっそうかそういう設定だったか、と言いかけて、俺は慌てて晴の口を塞いだ。
「ちょいちょいストーップ!」
「あっごめ……」
と晴は謝りかける。晴くんってもしかして結構口軽い?
「えっなになに? 設定?」
「い、いやあ、晴くんってたまに人に伝わりにくいジョーク言ったりする癖があって……」
「いやどんな癖だよ」
と翔太は言い、またたこ焼きを頬張る。その隙に俺は小声で晴に「友達歴長い設定でお願い」とささやいた。晴はさりげなく片手で親指と人差し指を丸めてオッケーの合図をした。ほんとに伝わってるのかな?
空を見上げると、青空の下のタワークレーンに止まる鳥たちが楽しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。車の往来の音や人の楽しそうな声が行き交い、何だか幸せそうだなと思う。
一通りたこ焼きや焼き鳥を完食して、翔太がベンチを立つと、俺を見下ろして言った。避けたい話題が飛び込んでくるのは分かっているし、雰囲気が台無しになってしまうのは嫌だけど、こればっかりは俺の我儘を通してほしい。
「じゃあ、このまま帰る? あの先生、実はもう辞めちゃってるから、大丈夫かなとか思っちゃってたんだけど……」
翔太が申し訳なさそうな目をしている。翔太に未だにこんなことを言わせている自分が嫌になる。
「ごめん、それでも思い出しちゃうから……」
「そっか。じゃあ帰ってゲームでもすっか!」
「うん、そうしよ」
頑張って口角を上げて、俺はそう言った。俺と翔太のやり取りを、取り残されたように、不思議な顔で晴は見ていた。
+++
「今日は二人もうちに来てくれたから、ちょっと豪華なもの作ろうかと思って張り切っちゃった!」
僕達は人生ゲームではしゃぎながら時間を過ごした。リビングから翔太のお母さんの声が聞こえてテーブルに着くと、ミトンを付けた翔太のお母さんが、湯気のもくもくと湧く鍋を持ってきて鍋敷きの上に慎重に置いた。
「お母さん、この匂い、もつ鍋でしょ!」
翔太は目を輝かせて言った。なんか、他人の家庭をのぞき見してるみたいな感覚だ。
「そうよ」
四十代くらいだろうか。とげとげした感じのしない、柔らかい声だ。翔太は多分、こんなに優しいお母さんに美味しいご飯を作ってもらって、この綺麗なリビングの雰囲気に包まれながら成長したんだろうな。
翔太のお母さんは鍋の蓋を開けると、演出の凝った宝箱みたいに湯気がむわっと出て、ぐつぐつ煮えたもつ鍋が姿を見せた。
「めっちゃうまそう! いっただきまーす!」
「いただきます……!」
明るい翔太につられ、りゅうくんもそう言った。こんなごちそうになってもええんか? と思いながら、僕も普通くらいに聞こえる声でいただきます、と言った。
りゅうくんが麺を啜ると目に少しだけきらりと光が宿り、「あっ、うまっ」と控えめに言う。それに翔太は「あたりまえだろ! 俺のかーちゃんのもつ鍋はめちゃくちゃうまいんだから!」と返す。
なんだか、こんなに人に囲まれて食事したの久しぶりだな、なんて思いながら、僕はモツを口に放り込んだ。
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