9.同じ気持ち

「りゅうくんってたまにさ、真面目過ぎて言動よくわかんなくなる時あるんだよね!」

「めっちゃ分かる! てかさ、隆太君のことりゅうくん呼びなんだね!」

「そだよ! 小五から中一まで同じ学校でさ、いつの間にかりゅうくん呼びになったんだよね。可愛いでしょ」


 翔太の部屋に荷物を置いて、翔太のお母さんがご飯を作っている間に、俺達三人で近くの銭湯に行くことになったのだが……。この短時間に何があったというのだろうか。思ったより晴君と翔太君の仲が深まっている……。さっきから二人の背中を追う感じになっていて、何だか話に入り込めない……。


 銭湯は広瀬川の堤防を歩いた先にあって、小さい頃、このくらいの時間によく通っていた。銭湯で部活帰りの翔太と会うこともよくあった。二人から目を逸らし、枯れ草と砂利で覆われた浅瀬の川を見つめる。夜へと変化していく空の色と、それを遮る橋の影が、そこには映し出されていた。


 二人の話に割り込みたいという気持ちと、俺と翔太の二人だけじゃなくて良かったという安心感が混ざって、心がもやもやとしていた。

 

 銭湯に着いても、晴君と翔太君は湯船に浸かりながら俺に背中を向けて話していた。これは、俺が体を洗うのが遅いせいなのか。いざ、翔太と話すとなると、気まずくなってしまう自分のせいなのか。むわむわとした熱い湿気の中、そんなことを思っていた。


「おーいりゅうくん! りゅうくんも入りなよ!」

「そーだそーだ!」


 晴と翔太にそう言われて、単純に心が跳ねる。


「ちょっと待ってー」


 俺は急いでシャワーを浴びて、翔太の隣に行った。湯船に浸かった瞬間、今までのありえない出来事の連続を思い出し、自分の体が思っていたより疲れていたのだと自覚した。


「というか晴君、俺のことりゅうくんって呼んだ?」


 俺は翔太の隣で湯船に浸かっている晴に言った。


「う、うん、僕もりゅうくん呼びしたくて……」


 晴はちょっと照れたように目線を逸らしたように言った。


「りゅうくんはどこに行っても愛されてるなー。あ、そうだりゅうくん、二人でサウナ入ろうよ」

「え、あ、うん」


 翔太はそう言うと、二人で話したいという風に、俺を真っ直ぐな目で見つめた。翔太に手を握られ、ちょっと胸が飛び跳ねた。


「晴君、ちょっとりゅうくん借りてくね!」

「ああごめんごめん、何だか僕だけ盛り上がっちゃったね。いってら~」


 晴の言葉を聞いて、遠慮なんかしなくても二人の話に入れたんだと分かると、ちょっと後悔した気持ちになった。きっと翔太は、気まずくて話せない俺のことを気遣ってくれたのだろう。


 俺と翔太は一緒にサウナに入り、俺は翔太の隣に座った。


「……なんか、久しぶりに会ってみると、何から話したらいいかわかんなくなるね」

「そうだね……」

「ごめんね、なんか気まずくなっちゃって」


 俺は翔太の体から目を逸らし、「ううん、だいじょぶだよ」と言った。そうか、気まずいのは、俺だけじゃなかった。


「青森では元気にやってる?」

「うん」

「晴君めっちゃ明るいし、りゅうくんにはピッタリだね」

「うん、晴君には、いろいろ助けてもらってるから」


 嘘は言ってない。体を刺すような温度の中、ピストンで押し出したみたいに体全身から汗が湧き出て、頭がくらくらしてくる。


「明日はさ、俺達がよく行ってたところ、行こうよ。明日は気まずいのなしで行こうぜ?」 


 翔太はそう言うと、俺は翔太がどんな景色を思い浮かべているのかを想像した。行きたい場所はたくさんある。


「うん。明日もよろしくね」


 俺達はサウナから出て水風呂に入り、晴と一緒に銭湯を出た。俺は用意してきた部屋着を、晴は翔太の夏用の半袖半ズボンの部屋着を借りて、今度は三人でおしゃべりしながら帰った。翔太の部屋でUNOとか人生ゲームとか、ありふれたゲームではしゃぎながら、俺はなんだか懐かしい気持ちになった。そうだ、俺はこういう時間が大好きだったと、ぼんやりとそんなことを思い出した。

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