8.息ぴったり

「そういえば晴君さ」


 広瀬川を渡る仙台西道路の歩道の上で、隆太君はスマホを手にしてそう言った。隆太君はスマホを横に倒し、少しだけ遠くに見えるビル群や高架下に広がる住宅街を撮影しているみたいだった。日が少しだけ傾き、空が少しずつオレンジ色に変わっていく。


「なに?」

 と僕は訊いた。


「巨人と戦う時、俺のこと囮にしたでしょ」

「うっ……。だめだった?」


 隆太君が僕を分かりやすい怒り顔で責め立てる感じじゃなく、きょとんとした顔で訊いてくる。な、何その顔……。


「いや、普通に人を上空に放り投げるのやばいと思うけど。てかどういう腕力してるの」


 やっぱり怒ってる!


「え、だってあの時は巨人が隆太君を狙ってたから仕方なく……。結果的にうまくいったし……」

「それでも俺はビビりました。何か言うことは?」


 やっぱり謝らなきゃいけないのか……。


「び、びっくりさせてごめんなさい……」


 僕がしょぼくれた声で言うと、隆太君はにっこりと笑ってスマホをショルダーバッグに入れた。


「な、なんで笑うの……」

「いや、なんか、合って間もないはずなのに、晴君とはめっちゃ話せるなーって。息ぴったりっていうか」


 隆太君が真っ直ぐな笑みで言う。

 一瞬、心臓がドキッとした。何だよこの子! 天性の罪な男なのか! ただ単に僕がちょろいだけか!


 車が通り過ぎて、ちょっと赤くなった僕の体温を風がさらう。


「でも、ありがと、晴君。二度とごめんだけど、空中浮遊楽しかったよ。守ってくれてありがと」


 そう言って、隆太君は歩き出した。僕は、巨人との戦いで隆太君にカッコつけたことを思い出して、滅茶苦茶恥ずかしくなっていた。

 

 僕達はそこから、東北にある大学のキャンパス周辺にある、比較的森に囲まれた住宅街へと歩いていった。僕は、隆太君にとって、ここがどれだけ馴染の土地だったのだろうかと想像した。


 +++


「りゅーくーん!!! めちゃくちゃ会いたかったよ! 久しぶり!」


 やっぱり、樋口翔太ひぐちしょうたの無邪気な明るさは健在で、翔太にぎゅっと抱かれながら懐かしい気持ちになった。ザ・野球少年って感じのぼさぼさ頭も変わらない。幼馴染の翔太は玄関前で俺達が来るのを待っていて、俺を見るや否や、俺にダッシュで抱き着いてきた。相変わらずボディタッチが多い。


「俺もだよ。二泊三日よろし……」

「う~! りゅうくんが居なくなってからめちゃめちゃ寂しかったんだからな!」

 俺の言葉なんか耳に入ってこないようで、今すぐにでも泣き出しそうな声で翔太はそう言った。

「も~、何回もそれ通話で聞いたって」

「はずいからやめて! って、あ、もしかして君が青森でのりゅうくんの友達?」


 翔太はゴーグルを内ポケットに隠した晴を見ると、さっきのウルウルした目はどこへ行ったのやら、水分がはじけ飛んできらきらと輝いた目に変わった。切り替え早いなオイ。


「どうも! 青森での隆太君の友達の晴です!」


 翔太は後ろの晴の方に駆け寄って両手で握手した。晴君、ごまかし方下手すぎだろ……。


「りゅうくんから話は聞いてるよ! 上がって上がって!」

「うん、おじゃまさせていただきます!」


 まあ、翔太君はそんな細かいこと気にしないか……。と言うかこの二人、どっちも明るい人間だからなのか、めっちゃ息ぴったりだ。晴君が気まずくなっちゃうかな、なんて心配は無用みたいだ。


 

 


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