7.いちいちって言わなくてよろしい
巨人が爆発するのを見下ろしていると、俺を爆風が襲った。
「うわっ⁉」
俺は咄嗟に目を瞑る。何にも守られていない不安定な状態の中で必死に晴の存在を思い浮かべる。
すると、首周りと脚に腕の感触がした。晴君だ。安心感の中、俺は目を開けた。また晴は俺のことをお姫様抱っこした。
「晴君……」
「これで一件落着だね。当分あの巨人は出てこないと思うから、安心して」
水色のレンズのゴーグル越しに、晴の真っ直ぐな瞳が俺を見下ろす。想定していないことばっかりでめちゃくちゃだけど、こういうのも割とありかもしれないと、俺は思った。
俺の鼓動が高鳴るのが分かる。俺、晴君のことガチで好きなのかも。もしかしてこれが吊り橋効果? 何にも吊るされてないけど。
「ぷはーっ……」
俺達は大きなこけしの像がある公園に降り立ち、自販機で水を買って、ベンチでひと休みしていた。この状態で立てと言われても、足が少しだけすくんでうまく立てない気がする。
涼し気な風が、俺を落ち着かせてくれる。
「だいじょぶだった?」
隣に座る晴が訊いてくる。
「いろいろありすぎて感覚麻痺ってるからよくわかんない……」
「そう」
「と言うか、あの巨人はなんなの? 人のストレスの集合体って言ってたけど」
俺は雑多な建物の前の道路を通る車両を眺めながら訊いた。
「言葉通りの意味だよ? 頻度は少ないんだけどね、人々のストレスが小さく積もっていって、だんだんそれが雲みたいに概形をつくっていって、ああいうバケモノになるときがある」
「へ、へえ……」
「人ってさ、何気ない言葉でいちいち傷ついたりするでしょ?」
「いちいちって言わなくてよろしい」
「ごめん……。とにかくそれで、人の体に爪痕ができることがある。そこを発生源に巨人が少しずつ生まれていくんだ。大勢の人から生まれることもあれば、個人から生まれることもある。今回の場合は前者だね」
晴の言動が気にかかって、俺は訊いた。
「それってさ、巨人が生まれる前に、その爪痕自体を閉じることってできないの?」
「できるよ?」
「ああ、そう」
「でも、本人の気分を晴らすっていう曖昧な条件を満たさないと爪痕を閉じれないし、今回みたいに大勢の人から生まれた場合じゃ対処しきれないよ。個人の場合も難しいけどね。何にせよ、人の心って難しいからね」
まるで、晴は自分が単純な人間みたいに話す。まあ、ぱっと見そんな感じだけど。晴はベンチから立って背伸びをすると、俺を見下ろした。
「そういえば、最初の目的地って言ってたよね。ホテルにでもチェックインしに行くの?」
「あ、いや……」
なんて説明しよう……。
+++
隆太君はなんだか少しだけ考えて、ちょっと地面に目を逸らしながら言った。
「前ここに住んでた時の友達と言うか、幼馴染と言うか、その子の所に泊まりに行くんだけど……」
「ああ、ちゃんとあてがあったんだ。……まって、じゃあ僕はお役御免って感じ?」
「いや、多分大丈夫じゃないかな? 晴君は他人に認識してもらうこともできるんだよね?」
「うん。え、じゃあ僕も泊っていいの⁉」
「最近知り合った人の友達の家に泊まろうとするって何気に凄いな」
「え、だめ?」
そう言うと、隆太君は前に下げているショルダーバッグからスマホを取り出した。
「いや、たぶんいける」
「まじ?」
隆太君はその友達か幼馴染に電話を発信した。もしもーし! と、くっそ元気な声が小さく聞こえ、隆太君は「一人じゃ危ないからってことで青森での友達も一緒なんだけどいい?」と言うと、電話口から小さく「いいよ! じゃあご飯多めに炊いておくね! 楽しみにしてるよ!」と声が聞こえた。
隆太君は友達やら幼馴染やらとの会話を終え、電話を切ると、ちょっと面白おかしそうに言った。
「ほら、いけた」
「まじかよ」
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