6.相当ヤバいこと
さ、懲りずにまた隆太君にかっこつけちゃったから、ちょっと張り切っちゃおうかな。
「じゃあ、行ってくる!」
僕はツルハシを両手に持って走り出し、屋上から飛び降りてここよりも低いビルの屋上に降り立つ。駅前にいた巨人は、僕からビルを一層分隔てたところまで迫っている。
巨人は四肢など関係なく、頭から、肩から、腰から、腹から腕を生やし、僕に向かって伸ばす。僕は腰を低くしてツルハシを構え、閃光のようにビル群の中を駆け巡る。僕の視界の中で世界が何度も回転し、ギザギザに走った光がビルに反射しているのが分かる。僕を避けていくいくつもの腕に突進を仕掛け、腕はちぎれ断面から離散していく。
巨人から距離を取り、この中でもひときわ高いビルの上に降り立ち、僕は巨人を見下ろす。
吹き荒れる涼しい風が、僕の髪とパーカーを靡かせる。
「なんだこれ、すっごい違和感が……」
僕は巨人の目をまっすぐに向く。どこまでも黒いその眼は、僕の高さとほぼ同じ位置にある。しかし、すぐに巨人は僕から目を逸らした。
「おかしい、前戦ったときは僕の方をまっすぐ狙ってきたのに……」
自分を潰しにかかる存在と、自分が捕食しないといけない存在。力を持つものであれば、普通なら前者を潰しにかかるはずだ。しかし、こいつからは僕を攻撃する意思を感じない、それにさっきの猛攻だって、腕は僕の方を向いていたが、僕を避けるようにバラバラに動いていた。
「もしかして……」
なんかすっごい嫌な予感……。
巨人はまた体のいたるところから腕を生やし始める。
……来るか⁉
巨人は道路を引き摺るように爪を研ぐと、僕の方ではなく、僕の視界を避けるように腕を伸ばし始めた。
「やっぱり狙いは隆太君かよ!」
+++
巨人がまた腕を生やしたかと思うと、腕は、晴の方ではなく、別の方へと方向転換した。
「え、いや、まさか……」
腕はビルを分岐点にするように、枝分かれして俺の方に向かっていく。
「えええええちょっとマジで言ってんの⁉」
俺の居るヘリポートに真っ先にたどり着いた巨人の手が、俺を掴もうとするみたいに開く。
その瞬間、降りかかった一本の閃光が、俺を搔っ攫った。
気づけば俺はがっしりとした感覚に包まれ、路地の中を宙に浮いて移動していた。
ん? 宙に浮いて移動?
見上げると、過ぎていくビルとビルの間には青空がある。そして匂いや音が自分に備わった感覚を埋め尽くすみたいに、至近距離に晴の顔がある。この首と両足を支えるがっしりとした感触。すぐそこには晴の胸……。
「俺、お姫様抱っこされてる⁉」
「それよりヤバいよ‼ あいつ、僕じゃなくて隆太君を狙ってる‼」
晴がそう言うと、ビルの狭間から白い巨体が見えた。
「え⁉」
数多の腕が、俺達を追尾するように路地のアスファルトに降り注ぐ。
「どうすんのこれ⁉ あいつそのままにしたら人類滅ぶんでしょ⁉」
「最悪そうなる! でも巨人が隆太君を狙うせいでうまく戦えないんだよ!」
「じゃあどうすんのさ!」
晴は俺を抱えてものすごい速度で路地をダッシュする。風が起こり、雑多に絡まる電線が揺れ、月際駐車場に停まっている自動車の車体がぐらぐらと上下する。
見上げると、ゴーグル越しに必死に考えている晴の目が見える。
……この人、出会って間もない俺を助けてくれてる。それにこのがっしりとした感触、悪くないかも……。
「よし決めた!」
あ、そうだ。今の状況ヤバいんだった。
「どうするの⁉」
「投げる!」
「いや何を⁉」
「隆太君を‼」
え?
今までの人生の中で一番デカい空気抵抗と強烈な風を肌が感じ、一気に浮遊感が訪れる。目の前に映っているのは、青空と山脈の境界線。パソコンのキーボードみたいな、眼下に広がる仙台の風景。と言うか全然海見える。
「は……はああああああああああ⁉」
俺は仙台の上空に放り投げられていた。
見下ろすと、そこには握りこぶし一つ分ほどに小さくなった巨人のシルエットが見えた。巨人の黒い目は俺を見上げ、先ほどまでは見えなかった口を大きく広げ、俺の方に首を伸ばした。
「いやキモっ‼」
俺の足許にまで巨人の顔が接近する。すると、急に巨人の長い首がたわんだ。俺が目にしたのは、地上からまっすぐプラズマを発しながら伸びる閃光。首に波が生まれ、相当な応力がかかっているのが分かる。
機械で拾えば音割れしてしまいそうなほど、猛烈な爆裂音が上空に響き、巨人の首に穴が開いた。閃光は力の制御が訊かないのか俺の頬を掠めて上空へと走る。
巨人の体はまるでXYZ軸がバグったみたいにねじれ、大きな悲鳴をとどろかせて爆散した。
俺、もしかして相当ヤバいことに巻き込まれた?
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