3.いいよ別に
「ねえ、関わらないほうがいいって自分で言っておきながら、何で俺に声かけてきたの?」
青森駅のホームのベンチに座って、スマホで駅の時刻表を確認しながら俺は訊いた。俺の隣に堂々と座っているこのゴーグルの少年が言った、神様に近い存在とか傍観者とか誰にも認識されないとか、そういった話はあのとき一応信じることにしたが、俺の中に湧いた疑問が多すぎた。この少年はどういった存在なのか、気になりはした。だけど同時に、俺みたいな一般人が見てはいけない世界のような気がして、これ以上踏み込む気にはなれかった。だけれど今日、その世界の方が、俺の方に踏み込んできた。
「君のことが気になったからかな。特にこれといって支障が出るわけじゃないし、関わらないほうがいいって言ったのも、そもそも関わる必要があのときなかったからだし」
ゴーグルの少年は、楽しそうに話しながら、それでも俺の方を見ずに、屋根の向こうの青空を見上げていた。
「君はさ、これから一体どこに行くつもりなの? 結構な大荷物だよね? 家出?」
そう訊かれて、内心どきっとした。でも、自分にやましいことは何一つないことを再認識して、俺は口に出した。
「いや、俺、昔から親の都合で引っ越しが多くてさ、離れ離れになっちゃった人がいっぱいいるんだよね。その人たちに会いに行く。最終的には、福岡県の糸島市まで行こうと思ってるんだよ」
隣にいる少年が誰にも認識されない存在なら、俺のことを話しても特に問題はないと思った。話してはいけない理由はなかった。
「ま、マジで⁉」
その時、やっとゴーグルの少年が俺の方を見た。きらきらした目で、こっちを見られて、何だかこの人距離が近くないか? と思った。そしてゴーグルの少年は何故だか嬉しそうにニヤッと笑って言った。
「僕も福岡県に行こうとしてたんだよ! へへ、じゃあ、君の旅について行っていいよね⁉」
「は、はあ⁉」
俺がそう言うと、電車が到着することを伝えるアナウンスが鳴った。仕方がないという風に俺は立ち上がり、到着した電車のドアの前で、ゴーグルの少年の方を振り返った。
「い、いいよ、別に……」
俺がそう声を出した途端、急に体の温度が上昇していくのが分かった。どうしてか、俺がこれから始めようとする旅に、このゴーグルの少年がいないイメージができなかった。そういや、俺、こういう男の子がタイプだったな……。今までの人生を振り返って、そんなことを思ってしまった。少年のゴーグルのレンズには、ギラギラとした光が反射していた。
+++
電車の座席はクロスシートで、僕達は向かい合って座っていた。こんなどちゃくそタイプの男の子と旅ができるとは……。マジで傍観者やっててよかったわ。
「ねえ、そういや、名前訊いてなかったね」
何の変哲もない住宅街を窓から眺めているスポーツ少年に、俺はとりあえずそう言った。ぱっちりした目がこっちを見る。
「ああ、そうだね。俺は
笑顔がすげえ眩しい。あ、いや、そんなあほなこと考えてないで、僕も自己紹介しないと。
「僕は
そう自己紹介すると、隆太は僕の方をちょっと驚いたような目で見た。
「ん? どしたの?」
「いや、さっそく君付けするんだ、って思って」
「いいじゃん別に。こっから長い旅路になるんだからさ! 僕のことも晴君って呼んでよ!」
「うん、わかった。晴君」
タイプの男からの晴君呼びありがとうございまあす!
「う、うへへ、晴君呼びいいな……」
僕は小声でつぶやいた。
「ん、どしたの? 晴君?」
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