魔法少女は四つ葉のクローバーを見つけましたとさ

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

 人生で初めて出来た彼女は魔法少女だった。少女といっても二十歳は超えているのでそこらへんは問題がないことは分かってもらいたい。魔法と言えば少女に決まっているからそこの年齢とかはファタジーだそうだ。とはいえ彼女が魔法少女だからといって、別にユニコーンがいる森の中でデートという訳ではなく、普通にカフェでコーヒーを飲んでいる。彼女はブラックで僕はミルクや砂糖をたっぷり入れた甘いのを飲んでいる。本当はココアが飲みたかったが、そこはかっこつけた。実は今、会話が何も起きてない。まだ付き合って一週間くらいしか経っていないのにこれはマズくはないだろうか。しかし、先ほどの言ったように私は初めての彼女で、男兄弟で女性とはここ数年ロクに話してもいない、もうすぐ三十のフリーターな訳でして———


「そういえば、私明後日誕生日なのよね。」

「へぇ~それはおめでとう、お祝いするよ。」

「そうよね~プレゼント欲しいわね。」

彼女は一度も使ってないストローを開け、飲み終わったアイスコーヒーの氷をクルクル混ぜだした。そして、頬杖を突きながらこちらを見てくる。妖しいその表情に僕は飲んでいるコーヒーがやたら甘く感じ、初めてブラックコーヒーを飲んでみようかと思った。彼女は僕を大人にさせる。本来ならとっくに大人にならないといけない年齢だが、人にはそれぞれ違った成長速度があるんだ、特に精神的なものは。

「プレゼント何が良いの?」

「そうね、自分で考えなさい。」

「え?」

「ま、宿題ということね。」

彼女はニコっと笑った。僕はその笑顔を見るとポカポカする。幸せの温度を感じるんだな。そして彼女は席を立ち、どこかの空間に閉まっておいていたピンクでキラキラした魔法のステッキを出した。そして呪文を唱える。

「インフィニティエレガントビューティキャワワー。」

彼女は店内でこの呪文を大きな声で唱え、グレーのパーカーにジーンズとラフで地味な格好から、フリフリでキラキラなピンクな衣装の魔法少女に変身をした。彼女はいつもみんながいる目立つところで変身をする。彼女曰く自慢したいとのことだが、意外にも世間は魔法少女には優しく、一度もSNSで取り上げられたことがない。世界を救っているから、彼女がボイコットしないようにの配慮かもしれない。

「じゃあ行きますか、じゃあまた明日ね。」

そういうと彼女は肩を上下させぐるっと回し店を出た。一人残った僕は、試しにコーヒーを注文してブラックで飲んでみることにした。苦かった。結局砂糖やミルクを入れて飲んで彼女の分の代金を払って僕も店を出た。

「宿題か・・・・・・。」

僕はこの宿題はなんだか嬉しく思えた。彼女が喜んでくれるといいな。


 家へ帰ると、パンくずとカップ焼きそばのソースがついた干してない布団が目に入り、現実へ戻される。どうして彼女は僕を選んだんだろうか、ただの気まぐれとは思うけれど。あの時僕は悪い奴らがいるところに偶然いて、逃げていた。他にもたくさん人がいた。僕はその中では雑草。名すらつかない雑草だ。逃げて、情けなく悲鳴をあげたりした。そして逃げてる途中に彼女が現れた。かっこよかったまさにヒーローだった。僕は足を止めてしばらく彼女を見ていた。でもそれも僕だけではなかった。彼女の戦う姿を見ていたら、一瞬彼女と目があったような気がした。もしかしてその時になにかを感じてくれたのか?そもそも目が合ったというのは僕の都合のいい勘違いではないだろうか。不安が大きくなる。なんだか寒い気がする。僕は彼女の笑顔を思い出して心地よく眠ることにした。明日の宿題のために。


 彼女はアイスコーヒーをストローでぶくぶくしていた。よくないとは思うが、僕が何も喋ってないのが悪い。宿題のことを僕の口から言わないといけない。

「あの、宿題!」

「え?ああ宿題ね、はいはい、じゃあプリント提出してください。」

彼女が少しふざけて答えたのが少し僕はショックだった。しかし、僕の宿題自体もふざけた内容と言われそうではある。ある意味彼女のこのふざけは僕にハードルを下げてくれてるかもしれない。僕は昨日の彼女のある行動を見て、プレゼントをこれにしようと決めた。昔両親にこれをあげたら喜んでくれたのを思い出した。あの時の両親の顔もポカポカしていた。

「あの!」

「ん?」

「えーとプ、プレゼントは———肩たたき券でどうですか。」

「え!?」

彼女は目を丸くして驚いた表情をしている。見たことはないが、ハトが豆鉄砲を食らうとこんな感じなのかもしれない。

「肩たたき券って君今いくつですか?」

「えーと、29です・・・・・・。」

「なんで肩たたき券なのですか?」

「昨日、魔法少女に変身した後に肩回していたから肩凝っているのかなと・・・。」

「———ふーんなるほどね・・・・・・スゥ~。」

彼女は大きく息を吸い込み、何かがほどけたようなニヤケ顔で僕を見る。

「お前、可愛すぎんだろ!!」

彼女は机をバンバン叩きながらそう大きな声をあげた。周りにはお客さんがいるのに彼女はどうにも抑えられないようだった。僕は先ほどの彼女と同じ様にハトが豆鉄砲を食らった顔をしていると思う。バンバン机を叩き、さすがに店員がやって来た。若い女性の店員だった。

「あのお客様、他のお客様のご迷惑になりますのでお静かにお願いします。」

「あ、そうですね、でもね、うちの彼氏、あのこれうちの自慢の彼氏なんですけど、本当に、もう、ね。あの~、どう思います?」

「はい?」

「皆様も聞いてください、彼もう二十九でフリーターで正直社会的に終わっているとは思います。けどね、そんなことよりですよ、私明日誕生日に、彼プレゼントに肩たたき券あげると言うんですよ。どう思いますか?確かに、いい年してなんだよと思うでしょう呆れる人もいるでしょう。でもね、私はね、こういうのが好きなんですよ。本当にどんだけピュアやねんと、私は思うんですよ。もうキュンキュンですよ!本当に彼氏になってくれてよかった、あの大勢の中で私はね四つ葉のクローバーを見つけたんですよ!」


 あんなに色々な恥ずかしさが混ざったことはなかった。この後、どうなったかあまり覚えていない。確か、肩たたきをする流れになって、彼女以外の店内のお客さんの肩も叩いて、それでなんか力が弱いとかで、彼女が魔法のステッキ出してきて、それで肩を叩いたりして・・・・・・疲れたな誕生日は明日なのに、あんだけ肩叩いたら意味がないよ。


 僕は家へ帰り、パンくずやカップ焼きそばのソースがついた布団にダイブしたかったが、シャキッとしたくて洗面台へ向かった。鏡を見ると、ピンクでキラキラフリフリな衣装を着た僕の姿だった。

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魔法少女は四つ葉のクローバーを見つけましたとさ 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615

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