【11】事後、食堂にて
無命の森でエフェスの神に出会ってから3日が経った頃、少しダウンにも変化が訪れた。アスカの喪失により暗くなっていたダウンの雰囲気が戻ってきたのだ。暗すぎるのも精神衛生上良くないのだろうし、明るくなってきたこの雰囲気を素直に喜ぶことにした。
「……ちょっとは終わったかな」
事務作業の休憩のついでに、間食をつまもうと人々の往来を眺めながら通路を歩いて食堂へと向かう。
ウィィィンと軽快な音を立てながらスライドするドアの先には、ダウンの無機質な通路の様相と打って変わってとても綺麗に整備された白い食堂があった。
「おぉ……今まで部屋にパンを持ってきてもらったけど、食堂がこんなに綺麗なところだったとは……」
様相の一転した食堂の小綺麗さに感嘆していると、聞き覚えのある声が聞こえる。
「おっ?リーダーじゃねぇか!」
声の方向へと顔を向けると、そこには片手を包帯で補強しながらも元気そうにパスタを啜るノーマンがいた。
「ノーマン!?もう傷はいいの?」
「あぁ!俺にとっちゃこんなん怪我にも入らねぇよ!心配かけたなリーダー」
軽口を叩き笑いながらノーマンはそう答える。
そこで言わなければならない事を思い出した。
「えっと…ごめ」
「おい、これは俺の判断で行ったもんだよ。殿様やられたら終わりだろうが。アンタが気にする必要は全くねぇからな!」
謝ろうとする私の言葉を遮り、ノーマンはそのようなことを言う。少し心が楽になった気がした。
「…うん。ありがとうね」
「あいよ!それで、アンタがここに来るなんて珍しいな?飯時にもまだ早いし…軽食か?」
「うん、まぁそんなところかな。ここはどんな所なの?」
「ん?まぁご想像の通りメシ食ったりするところだな。あとは人によっちゃ作業したり会話したり……まぁ自由な空間だな。もう少しすりゃ賑やかにもなってくるさ」
そう言われて周りを見渡す。言われた通りパソコンでの作業を行う者、食事を楽しむ者、大人数で会話を楽しむ者など様々だった。
そうして居るとカウンターと思わしき場所から声がかかる。
「ん?なんだ先生じゃないか。どうかしたのかい?」
「ん?」
そうしてカウンターの奥を覗くと、そこには調理係と思わしき少年がいた。
ショートの黒髪に深緑の瞳、そして褐色の肌が目につく。年齢に見合わぬ太陽のイヤリングをした少年は水色のエプロンを羽織り、ギリギリ手が届くカウンターに手を乗せて私を見上げる。
「……子供?」
惚けたように呟くと、それが気に食わなかった様で、
「あー!先生もやっぱりそう言うのかよー!?」
と、怒りの様相を見せる。それを見てノーマンは高らかに笑う。パスタはいつの間にか無くなっていた。
「ぶはははっ!!リーダー、そいつリーダーと同じぐらいの年齢だぜ!」
「嘘ォ!?」
「あ〜面白ぇ!説明するとな、ソイツは退化の薬を飲んじまったんだよ。ナリはそんなんだが、ウチの立派な料理長だぜ」
「えぇ……」
そうして少年の方を見る。しょぼんと方を落としているが悔しさもあるのか少し涙も滲んでいる。それを見て少し申し訳ない気持ちが芽生えてきた。
「えっと……ごめんね」
「いや、いいんだよ。気付くわけねぇしな……こんな姿じゃ」
「私との関係ってどうだったの?」
いつもの事ながら少年にそう尋ねてみる。すると少年はやはりという様に少し納得したように腕を組む。
「あ〜話には聞いてたけどよ。ほんとに何も覚えてないのな。オレとの関係か……。なんて言えば良いか分かんねぇけど、多分友人程度なアレだぜ?年齢も近かったしよ」
「そうだったんだね。そういえば、名前は?」
そういえば聞いていなかった、と少年に尋ねる。
「ん、確かに言ってなかったな。改めて、オレはジキルだ。よろしくな」
「うん。よろしく」
そう一通りの挨拶を済ませると、タイミング良くノアがやってくる。何故か少し上機嫌にも見えた。
「あれ?先生、いらっしゃったんですね。いつも通りパンなどで済ませると思っていたのですが……。大変健康的でよろしいですね。ジキルさんの料理は美味しいですし!」
「やぁノア。なんか上機嫌だね?良いことでもあった?」
そう聞くと、ノアは少し恥ずかしそうに自身の頬を擦る。
「はい、そう見えますかね……?あっ、それよりも先生!お伝えしたいことがあります!」
明らかに話を逸らしたノアだったが、ノアの伝えたい事の内容が気になったので気にしない事にした。
「伝えたい事?」
「はい!この世界についてはノーマンさんに一部教えてもらったと思いますので、私からは"神秘"について話したいなと!」
「神秘……あっ!皆が持ってるって言う変な能力!?」
心当たりを探ると大量に浮かんだ。ノアの突如出現する武器や神の攻撃方法、そして…アスカを殺したカリムの不可思議な能力。これから直面していく問題や障害の中には、このような理解の出来ない能力者と対面する事も含まれている筈だ。それ故にここは聞いておかねばならない事だと心の底から思った。
「うん。よろしく」
「はい!では、準備を済ませておくので2時間後に私の部屋に来てくださいね!完璧に教えますので!」
ノアの部屋か…。綺麗に整えられた部屋、見せられない箱、ノアの肌……傷。初回に訪れた時に与えられた衝撃の記憶が蘇り、少し固まる。
「先生、どうかしました?」
不思議そうな顔で私の顔を見上げるように覗く。それが少し扇情的にも感じられて、不意にドキッとした。
「いいや、何でもないよ」
「ん?そうですか?ならいいんですけど…」
危なかった。変なことを考えていると思われたくは無い。そうやって安心感を覚えていると、ノーマンが口を挟む。
「は〜やるじゃねぇかノア。上手い理由つけて自分の部屋にリーダー誘い込むとはよ」
「ふっ……言わないでくださ…」
誇らしげに自身が何を言おうとしたのか理解したノアは、頬を膨らませながら半泣きでポコポコとノーマンを殴り、う〜!と悶えながら攻撃を続けた。少しづつ力も強くなっていっていた。
「あででででで!!!やめろノア!お前見た目よりも力強いんだから!折れる折れる!!」
「折りますっっ!!!!!」
少しして骨の悲鳴が聞こえると、やってきたラストにノアは連行されてき、その間もずっと顔は赤いままだった。
その後聞かされた情報によれば、ノーマンは1週間の療養の延長を告げられたのだとか。
ノアと私の崩壊世界 きびだんご先生 @Kibidano_Sensei
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