【3】ノアの部屋で
基地の中腹部。金属質の暗く長い廊下の中に、ノアの部屋はあった。
コンコンッ…と鉄製の扉は相応の少し高い音を響かせる。
しばらくして鉄製の扉はスライドし、静かにその奥の景色を私に与える。
明かりのついていない部屋の左奥にあるベッドの上で、ノアはダウンのパーカーを着て横たわっている。
「あっ先生…。ようこそ、私の個室へ」
まだ恥ずかしさが消えていないのか、少し赤らんだ顔でノアは起き上がって私を迎える。
大きな枕を抱きしめながら、顔下半分を埋めて彼女は恥ずかしさを紛らわす。
「さっきはごめんね。……それで、"色々"って?」
「……別に怒っている訳では…。まぁいいです、ちょっと待っててくださいね。」
そう言ってノアは私から見てベッドの奥側、そこに隠すように置いてあった大きな木箱を取り出す。
1Mはあるその箱をノアは軽く持ち上げると、ベッドの上に置き、私に背を向けその中身を検める。
「これは…違いますね。これは……絶対に見せてはいけません……!」
そう呟くノアを暫く観察していると、ようやくお目当てのものを見つけたのか、ノアは私の方を向く。
「先生!ありました…!どうぞ」
そうして私の前に置かれたのは、ノアが使っていた武器である金属製の手斧と同じ物だった。
「……これってノアのじゃ?」
そう聞くと、ノアは何かを思い出したように理由を話す。
「あっそうですね。そこの説明も必要ですね。私が現在使っている手斧ですが、そのモデルは先生が使っていた手斧……トマホークを原型としています」
「そうなの…?私がトマホークなんて武器を?ちょっと信じられないかも…」
「いえ!先生はとってもお強いので!どんな武器でも使えていました!忘れてしまっているだけです!」
ウンウンと首を縦に振りながら笑顔でノアはこちらを見つめる。少し恥ずかしい。更に自身にはその感覚が無いのだから信じられないのもまた本心だ。
「……それと、記憶の事ですが」
そう言うと唐突に、ノアは後ろを向き服を脱ぎだした。
「ちょっノア!?」
あまりの出来事に騒然としていると、直ぐにもノアの色白の綺麗な肌が露出する。
そこで、私はノアの背中に刻まれた深い傷跡を目にした。
……それは、生きている事が不思議なくらいの…。
「それは……?」
そう聞くと、ノアは顔を紅潮させたままこちらを向く。
「……これも、覚えていないんですね」
今までとは違う種類の悲しみが籠った声だった。
「これは、約束です」
そう静かにノアは話す。
「約束?」
「はい。先生と交わした」
「そう…なんだ」
深々と背中に刻まれた傷跡を見ると、何故か心が痛んだ。それが傷に対する同情によるものなのかは分からなかった。
「はぁ…これでも思い出せないとは思いませんでしたが、まぁ仕方ないですね」
「あはは…ごめんね」
残念そうな顔をしていたノアが、一転して微笑みを見える。そして服を着ないまま胸部のみを隠して此方を指さす。
「いいです。これからまた思い出は作りますから」
「うん。そうだね」
そう言って私は立とうとするが、それをノアは止める。
「あっ先生!ちょっと待ってください!」
「ん?どうかした?」
そう聞き返すと、ノアは何故かバツの悪そうに応える。
「いえ、少し言いづらいことがあって…」
依然として服を着ていないノアも…と思ったが何とか押さえ込んだ。
その時だった。けたたましく警報が鳴り響いた。
「これって…!?」
驚き慌てる私とは裏腹に、静かにノアは携帯端末を見る。
「ええ、敵襲です。……良いところだったのに。…またアークは私をご所望の様ですね」
静かにノアが何かを言ったが、私には聞こえなかった。少し不機嫌なノアがはだけた服を正し、壁に掛けてある手斧を手に取る。
そうして私を物欲しそうに上目遣いで見るので、私は理由を察してノアの頭にそっと手を置く。
「では先生、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
そうしてとびきりの笑顔になったノアは制圧へと向かった。もちろん、服を着てから。
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