ブラックモンブランと私と彼女

睦 ようじ

ブラックモンブランと私と彼女

 彼女と喧嘩をした。

 デートの予定をすっぽかした私のせいではある。

 言い訳をすると、デートの時間前にクソ上司に残業を押しつけられ、

(アァん!?上司マウントかゴルァ!?)

 と、内心黒い思いを抱きながら黙って仕事をこなしていた。

 念のため彼女のチャットアプリに

『仕事で遅れるから待ってて』

 と送り、プログラムを書込む。

 その後、数十分ごとにスマートフォンが震え

『まだ?』

『ねぇ?』

『返事は?』

 彼女からのメンヘラ気味の連続返事を完全シャットアウトしていたが、

 通知がいい加減やかましいので、


『うるさい!後でイヤというほど黙ってなさい!』

 一回メッセージを送って仕事を片付けていた。

 仕事が終わり、ブラックコーヒーを飲みながら改めてチャットアプリを見る。


 彼女の通話記録は全て消えていた。


「……勘弁してよね」

 額を押さえながら、コーヒーを飲み干し彼女のマンションへと向かった。


 □◆□


 深夜2時。

「えーと、セキュリティ番号はっと」

 マンションのセキュリティインターホンの前で覚えきれない部屋番号を書き留めたメモアプリを開けながら彼女の部屋の番号を押す。


 インターホンが鳴る音の後、何かが動く小さな音が聞こえた。

 無言ではあるが、どうやら彼女には聞こえているようだ。

「待たせたわね。

 ほらこの前欲しいと言ってたブラックモンブラン買ってきたから。

 一緒に食べよ」

『……』

 声は聞こえない。

「この金色の栗は岐阜県のいいものを使ってるそうだし。

 見たら美味しそうよ。チョコ黒くてほどよく苦そうだもの」

『……』

 まだ、声は聞こえない。

 反応しないのかコイツめと少しいらつきながら、

「あーあ、せっかくだから一人で食べようかなぁ。それじゃ」

『開ける』

 無機質な声と共に自動ドアが開かれた。



 □◆□


「なーにやってたのよ」

「……アンタが遅いからじゃない」

 彼女は頬を膨らませ、ゲーミングチェアに膝を抱えていた。

 パソコンの画面では青髪の女優めいたゲームキャラが銃を抱えて微笑んでいる。

「仕事なんかしなくても、私が養ってあげると言ってるのに」

「それはごめんこうむるかなー。

 腹立つ事はあれども、人との付き合いは顔見ないと分からない事あるからね」

「そんな事無いと思うけど……」

「ま、FPSゲームでお姫さま扱いされてるあなたには分からない世界よ」


 我がチームの最大機密事項。

 まさか、動画配信をしながらお姫さま扱いされている彼女が公言しているだという事だ。

 男たちは姫に触れるのは恐れ多いといって姫に忠誠を誓い、

 女性陣には黙っていて欲しいことをこっそりお願いしている。


 今でも彼女は世界大会に出ては私より何倍の収入を稼いでいる。

 普段は強気な彼女だが、負けが込むとメンタルが急に弱くなり衝動で何をやらかすか分からない。

 海外スポンサーの手前、SNSは別の女性の友人に運営してもらう事にした。


「そういうアンタだってその姫サーの一人のクセに」

「だってねぇ」

 私は、彼女の顎を持って軽くあげて目を合わせる。

のお姫さまにさわらせたくないもの」

 彼女のやや病的な頬に赤みがさす。

「おや?惚れ直した?」

「し、知らない!」

 彼女は、私を突き飛ばして後ろを向いた。

 私は微笑を浮かべ、彼女の肩にそっと手をおいた。

「さ、お姫さま。夕食の後はデザートが待っております」

「気が利くじゃない」

「ま、その前に」

 私は彼女を抱え、ベッドに置いた。

「え!?」

「言ったじゃな-い。って♪」

 私は上着を脱ぎ、ストレッチを始める。

「い、いやあの」

「じゃ、食事の前に軽いスポーツいってみよー♪」


「ちょっとぉぉぉ!!」


 さて、私は色々美味しくいただくとしよう。

 彼女とブラックモンブランというケーキを。

 ちゃんと予定はこなすのだ。


 その後、ケーキはほろ苦く甘いものだった。

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ブラックモンブランと私と彼女 睦 ようじ @oguna108

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