第102話 気まずい夕食
夕食を受け取って、アルマークたち三人はテーブルについた。
徐々に学生の数は戻ってきているとはいえ、まだまだ空席が多い。
休暇が終わり全員が帰ってくれば、この食堂のテーブル全てがぎっしりと埋まるのだ。
隣のネルソンと向かいのモーゲンがそわそわしているのが、アルマークにも分かる。
まだレイラは来ない。
モーゲンが、
「アルマーク、やっぱり席交換しよう」
と言って立ち上がり、すぐに自分で、いやダメだ、と言って座り直すという行為を何度か繰り返した。
「モーゲン、落ち着けよ。みっともないぜ」
とネルソンがモーゲンをたしなめるが、そのネルソンにしても、さっきから貧乏揺すりを繰り返している。
「レイラ、来ないな。気が変わったのかな。冷めないうちに食べ始めようか」
アルマークが提案すると、ネルソンが
「いやいやいや、気は確かか。もう少し待とうぜ」
と激しく首を振る。
やがて、夕食を食べ終えて帰る学生も出てきて、さすがのネルソンも諦め顔になったとき、ようやくレイラが姿を見せた。
「あ、レイラ。こっちこっち」
アルマークが手を振ると、今までなんやかんやと喋っていたモーゲンとネルソンが急に静かになる。
レイラは、夕食を受け取ると三人の方にゆっくり歩いてくる。
「……まだ食べてなかったの? もう冷めてない?」
三人の食事を見てレイラは眉をひそめる。
「レイラを待ってたんじゃないか」
アルマークが言うと、レイラは、別によかったのに、と言いながらモーゲンの隣に座る。
モーゲンがネルソンと目を合わせて、笑顔を浮かべる。
「さっさと食べましょ」
レイラはそう言って、すぐに食事に口をつける。
「お、おう」
ネルソンが気圧されたように答え、食べ始める。
モーゲンとアルマークもそれに続いて食べ始める。
レイラは、特に三人と話す気もないようだ。
黙々と食事を口に運ぶ。
ネルソンとモーゲンはチラチラとレイラを見て、何か話しかけようとするが、その勇気が出ず、お互いに目配せをしあっている。
アルマークは、もうその辺のことは構わないことに決めていた。
「授業が始まったらすぐ武術大会があるんだろ?」
アルマークが食事を口に運びながらネルソンに尋ねる。
「ん? あ、ああ」
「試合ってクラス全員が出るの?」
何でそんな話題なんだよ、という顔をしながらもネルソンは首を捻る。
「いや、違ったと思うぞ。俺たちも今年初めてだからはっきり分からないけど」
「五人よ」
レイラが三人に目もくれずに答えた。
「一試合五人」
「五人しか出られないのか」
アルマークの言葉に、レイラが首を振る。
「前にボーエン先生が言っていたでしょ。全然聞いてないのね」
「言ってたっけ」
「出るのは一試合、男子四人、女子一人。クラス対抗で、三年生の1組、2組、3組の総当たり。各クラス二試合ずつやらなきゃいけないから、出るのは全部で10人」
レイラの言葉に、アルマークは首を捻る。
「そうすると、うちのクラスは16人だから出ないのは6人だけか。女子の代表はきっと君とウェンディだろうね」
レイラは、面倒そうに微かに首を振り、返事をしない。
「試合には俺も出るぜ。夏の間ずっと剣の練習してきたからな」
ネルソンが言うと、レイラは顔をあげ、眉をひそめてネルソンを見る。
「……夏の間中? いいわね、暇で」
ネルソンはぐっと言葉に詰まる。
「武術の練習を夏中やって、一体何になるつもりなの」
冷たい目でネルソンを一瞥するレイラを、アルマークがたしなめる。
「レイラ、それは言いすぎだよ」
それを聞いて、向かいのモーゲンが慌てて首を振る。
「ちょっと、アルマーク」
「ネルソンは武術大会に向けて一生懸命練習してきたんだよ。そんな言い方はないじゃないか」
「……だから、暇だって言ってるのよ」
レイラは呆れた声を出した。
「いまだに魔法のひとつも使えない人とか。武術の練習ばっかりしている人とか。ほんとに暇でいいわね。あなたたちが将来なりたい魔術師って、その程度で手の届くところにあるものなの?」
言いながら、レイラは三人の顔を見もしない。眉間に皺を寄せて、フォークで野菜をまとめて刺して口に運ぶ。
「……私の目標はもっと高い。今のまま努力を続けても、届くか分からないところにある。だから、無駄なことをしている暇はない」
「そんなに努力して、それでも届かない目標ってなんだよ。さぞかし立派な目標なんだろ」
ネルソンが言った。気分を害しているのだろう、言葉に刺がある。
「言う必要はないわ」
レイラはばっさりと切り捨てた。
「言って、あなたが正確に理解できるとも思えない」
「お前、俺だってなぁ」
ネルソンが言いかけるのを、モーゲンが慌てて止める。
「ちょ、ちょっと二人とも。せっかくなんだから楽しく食べようよ」
「もう食べ終わったわ。ごちそうさま」
レイラが食器を持って立ち上がった。
「明日からは一人で食べるわ。それじゃ」
そう言って、さっさと歩き去っていく。
レイラが去ると、モーゲンが、はぁ、と大きなため息をついた。
「やっぱり僕には荷が重かった。怖かった」
「くそ、やっぱりあいつ全然愛想なかったな。腹立つぜ!」
ネルソンが怒りを露にする。
「もうあいつとは頼まれても一緒に飯なんか食わねぇぞ」
「あんなに魔法の才能に恵まれていても、まだあんなに自信がないものなんだな」
アルマークがぼそりと呟く。
「自信がない?」
モーゲンが聞き咎めた。
「レイラのこと? 僕には自信満々に見えたけど」
「……逆だろ。だから僕やネルソンに当たるんだ」
「なんだかわかんねぇけどよ」
ネルソンが夕飯の残りを掻き込むと、そう声を出す。
「やっぱりウェンディだな。うちのクラスではウェンディが一番かわいい」
その次がノリシュだ、と言うと、モーゲンが、えー、リルティじゃない? と口を挟む。
アルマークは苦笑いしながら、食事の残りを口に運んだ。
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